【VR FORUM2020】Session2-c 個人最適を"超える"、コンテンツメディアの新たな活用 〜 雑誌、ラジオの価値は"コミュニティ"そのもの 〜
▲[ 登壇者 ](左から) 株式会社radiko 取締役 業務推進室長 坂谷 温 氏/
株式会社講談社 ライツ・メディアビジネス局 局次長 兼 IT戦略企画室 室次長 長崎 亘宏 氏/
ビデオリサーチ ソリューション事業局 マーケティングソリューション部 吉田 正寛
生活者が多様化する中、コロナ禍の影響も加わり、メディア接触や広告効果の変化も加速しています。かねてから生活者の多様な関心に寄り添ってきたターゲットメディアは、このような状況の中 どのように変化したのでしょうか。 現在注目される「個人最適化」を得意としてきたターゲットメディアの最新動向とともに、これか らの広告の在り方について、新たな視点からディスカッションしました。
radikoを通じて「ラジオ」が知られる
インターネットでラジオが聞けるプラットフォームとして設立10周年を迎えたradiko。現在は民放99局とNHK、そして放送大学のラジオ放送を提供しています。現在はスマートフォン経由での利用が9割を超えており、アプリサービスとしての認知がメインになったことに触れ、2020年4〜5月、コロナ禍による緊急事態宣言が発令された時期は、「(一般的にラジオが聞かれるとされる)早朝よりも日中帯においてユーザーの数が伸びた」と坂谷氏は語ります。
ラジオも雑誌もコミュニティを起点としたビジネスへ
一方、長崎氏も「雑誌の現状はラジオに似ている」とした上、ラジオリスナーがコミュニティを形成しているように、雑誌メディアも「読者コミュニティを起点としたメディアビジネス」になっているといいます。
現在、講談社のメディアは約40のプリントメディアと約20のデジタルメディアは蜂の巣のように成り立っており、「デジタルでお届けした方が良いターゲット層、もしくは読者層に対しては、デジタルにターンオーバーしている」とのこと。
最近ではコンテンツを核にしたビジネス拡張を行っており、女性系メディアと女性コミック誌の"社内コラボ"も頻繁に行われているといいます。「漫画『東京タラレバ娘』を女性誌の『FRaU』や『VOCE』が特集したり、社内の中でコンテンツ確保をする傾向がある」中、更に「ライセンスアウト」という形式をとり、社外や海外へのコンテンツ拡張も盛んに行っていると長崎氏。「出版社としてのポテンシャルは、こうしたところにあるのではないか」とまとめました。
特定のデバイスに依存せず、コンテンツを起点にさまざまなデバイスで展開し、さらにアライアンスの形で新たなコンテンツ展開へと発展していく──ラジオも雑誌も、コンテンツを軸に多層にわたる展開が進んでいることがわかりました。
オンラインとオフラインの融合で際立つコミュニティ
現在のメディア価値の真髄は"コミュニティ"にある──長崎氏は繰り返し強調します。読者がさらに読者を作り、ユーザーを作る。ここに新しい価値があり、オンラインが当たり前になった今、その先は一周回ってオフラインが重要になってきたと語ります。
「これまではラジオがradikoになり、雑誌がデジタルになるという『O2O(Offline To Online:オフラインからオンラインへの転換)』の文脈だった」と長崎氏。この流れは『OMO (Online Merges with Offline:オンラインとオフラインの融合)』であり、この領域に入っていくことで、ラジオであっても雑誌であっても、ユーザーコミュニティが際立つと述べました。
共感と信頼が「濃い効果」を生む
広告効果の検証を通じて得た知見として、特筆すべきは、コミュニティメディアへの広告出稿におけるコンバージョンの高さが指摘できます。ラジオにせよ雑誌にせよ、リスナー、読者といった「ユーザーの絆」(共感)が強固に存在するのが、コンテンツメディアの最たる特徴といえます。
「ラジオも、イベントなど含めて展開すると、そこに何万人もの人たちが集まり、一緒の空間、時間を共有する。ただの数という指標では測れない"熱量"が出せる」と坂谷氏。radikoでは、牛丼チェーン大手の松屋フーズと連携し、オーディオアドに接触した人々の来店数を計測する取り組みを実施したといいます。結果、オーディオアドに接触したうち12%の人々が、実際に来店。広告出稿の基準として重要視されるCPM(顧客単価)についても、「ディスプレイ広告にくらべて50%程度」という、きわめて効率の高い施策になったといいます。コンテンツメディアならではの「濃い効果」が顕著にあらわれているといえます。
「情報をもとに何かを購入したり、出かけるためには、情報に対する信頼が欠かせない」と長崎氏。
坂谷氏も、コロナ禍によってradikoのユーザー数が伸びたことに触れ、「日常からメッセージを届けていたことによって、みんな不安な状況の中でも『しっかり適切なメッセージが届けられる』と判断されたのではないか」と振り返りました。
ストーリーや信頼関係を軸にコミュニティを形成し高い効果をあげる雑誌とラジオ。その価値はメディアというよりはコミュニティそのものの価値です。この価値を生かした広告配信を行うサービスを展開しているという点でも共通点がみられました。
コミュニティの価値は"深み"
長崎氏が提唱したのが「追いかけるのではなく、追いかけてもらう広告」という概念。「ターゲティングとは、ユーザーを『追いかける』こと。それ自体を否定するわけではないし、そういった形態はこれからも残っていくと思うが、同時に"並走する何か"が必要」と語ります。この点を、車に例えて「従来のプランニングが『アクセル』だとすると、広告を心にとめるための『ブレーキ』、これがコンテンツメディアの役割」と説明しました。
加えて「両方が必要で、従来のメディアプランニングに加えてコンテンツメディアを用いることが必要」として、「コミュニティを狙うプランニングはリーチとフリークエンシーとは違った評価アプローチが必要」と語りました。
同様に坂谷氏も、「量ではなく深みを取りにいくことが重要」と述べました。
コンテンツメディアの真髄「共感と信頼」を構造化する
当社吉田からは、コンテンツメディアの価値を「コンテンツ特性」「コミュニティからの評価」「情報の親和性」で整理し、「共感と信頼」の背景となる構造をまとめたものを提示。価値を可視化するためには、平面的な見方だけではなく「奥行き」への洞察が欠かせないという点からは、時間軸やコミュニティ内の相互作用など、様ざまな観点に触れ、こうした要素が複合的に絡み合い、高い広告効果を生みだしていくとの考えを示しました。
今後、より一層効率的なメディアプランニングが求められる中、立体的な価値可視化へのニーズは高まっていくでしょう。リーチだけでなくこうした質の可視化にもビデオリサーチは注力してまいります。
「VR FORUM 2020」のレポート記事一覧
■基調講演:DXで繋がる消費者・メディア・コンテンツの未来 「オーディエンスジャーニー」の考え方を提唱
■Keynote.2 アメリカの最新メディア事情 〜 日本のメディアビジネス再編の糸口を探る 〜
■Session1 生活者データから予想される複雑化社会への視座と、メディアの価値の示し方 〜 複雑化社会におけるメディアの価値 〜
■Session2-a 複雑化社会のテレビビジネスについて考える。 〜 進化するテレビデータで、テレビの真価を表す 〜
■Session2-b ポストCookie時代における、データマーケティングの展望 〜 "人単位"のデータの重要性、業界全体で取り組む必要性 〜
■Session2-c 個人最適を"超える"、コンテンツメディアの新たな活用 〜 雑誌、ラジオの価値は"コミュニティ"そのもの 〜
■Session3メディアの新しい価値創造に向けたビデオリサーチの取り組み コンテンツの視聴を 個人起点であまねく測ること