【東京2020オリンピック開催】テレビ視聴の実態を全国レベルで把握
第32回夏季オリンピック競技大会(2020/東京)が2021年7月23日(金)から8月8日(日)の17日間にわたって開催されました。1964年以来、57年ぶりの東京オリンピックは、コロナ禍により1年延期、さらに、緊急事態宣言下、無観客という異例の状況での開催でした。そのような中、日本選手団は史上最多のメダル58個、うち金メダル27個を獲得する大活躍をみせ、多くの印象的なシーンが生まれました。
今回のオリンピックでは、会場での観戦はおろか、パブリックビューイングでの視聴もほとんどできない状況であったため、テレビが果たした役割は非常に大きかったといえます。
今回は、テレビで東京オリンピックがどのように見られていたのか、日本全国での視聴を表す平均推計視聴数などの新指標を用いながら振り返ります。
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日本全国で1億人を超えるオリンピックのテレビ視聴
最初に、全国でどれだけの人が視聴したのかを視聴の到達量からみてみましょう(図表1)。推計到達数は2020年4月に全国32地区視聴率の提供を開始したことで、今回のオリンピックから新たに示すことができるようになった指標です。
まず、開会式に先駆けて、被災地福島において女子ソフトボール初戦のオーストラリア戦が行われた7月21日(水)で、すでに全国(推計)で4,350万3千人が見ています。翌22日(木)のサッカー男子(日本×南アフリカ)には累積6,459万1千人が、開会式の7月23日(金)には8,857万2千人が視聴しています。最初の週末には1億人以上が視聴し、8月8日の最終日までに1億1,580万6千人がオリンピックの何らかの番組を視聴していたことがわかりました。
本大会は、開催が迫ってもコロナ禍の状況が収まることはなく、無観客が決まり、また開会式直前のスタッフ辞任など、開催自体が大きな議論となる厳しい状況でした。が、始まってみると多くの人が開会式前の予選や、開会式という序盤からオリンピックに注目し、そのあとも視聴者が増えていき、視聴の盛り上がりにつながったといえます。
オリンピック期間中のテレビ視聴が増加
次にオリンピックがテレビ全体の視聴にどう影響を与えたかを関東地区の個人全体のPUT(全局視聴率)で確認します。(図表2)はオリンピック関連番組に限らず、リアルタイムでのテレビ視聴全体を捉えた推移です。
オリンピック開催期間中は開催前後の期間と比較して、「6~24時」「19~23時」の時間帯ともにテレビ視聴が増加しています。
「19~23時」ではNHK総合、NHKEテレ、NHKBS1、民放(民放局は日替わりで、中継の編成を組み放送)と、メダルが絡む注目度の高い試合が複数の局で放送されたこともあり、テレビ視聴が増加していることがわかります。
日別でみると、開会式が行われた7月23日(金)(祝日)で「19~23時」のPUTが49.5%と最も高く、また閉会式があった8月8日(日)も43.6%と、自国開催の開・閉会式への高い注目度がテレビ視聴全体の増加につながった様子がうかがえます。
一方、「6~24時」でみると、新種目のスケートボードで堀米雄斗選手がこの競技初の金メダリストになり、競泳で大橋悠依選手が、また柔道で阿部兄妹が同日金メダルを獲得するなど、1日に4種目での金メダリストが生まれた7月25日(日)が30.1%と期間中最もテレビが見られた日になりました。選手たちの活躍がテレビ視聴の増加につながっていることがわかります。
野球・サッカーの視聴率が上位
続いて、どの競技がよく見られていたかを振り返ります(図表3)。競技中継の中で最も平均推計視聴数が多かったのは、接戦で金メダルを獲得した野球男子決勝・日本×アメリカ戦(2,889万1千人)でした。オリンピック公式競技としては初の金メダル獲得に、日本全国が沸いたことがわかります。
また、サッカー男子は複数の試合中継がトップ10入りしており、特に関心を持って見られた人気競技であることがうかがえます。一次ラウンドの「日本×南アフリカ」から勝ち上がるごとに視聴数も上がり、準決勝・日本×スペイン戦の中継(ランキング4位)は2,120万9千人が視聴しました。
また、最終日に行われた陸上・男子マラソンが7位に、競技ではありませんが、閉会式が2位に入ったことを考えると、最後まで関心を持って見られていた大会だったといえるでしょう。
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競技や選手ゆかりのエリアで高視聴率
ここまで、日本全国の視聴状況を把握してきましたが、次に、地区によってオリンピック視聴に違いがあったかを個人全体の視聴率でみていきます。世帯視聴率は、どれだけの世帯が見たかを示していますが、個人全体視聴率はどれだけの人(4才以上)が、見たかを示すものです。
地区別で特徴がみられたのは、開会式は関東地区で、マラソン男子は札幌地区で、他地区に比べて、多くの人に見られていました(図表4)。これらは、それぞれ会場となった「ご当地」だからこその関心の高さが表れたものと推察できます。今大会は、「ご当地」であっても現地で応援することができなかったため、テレビでの応援が視聴率につながったといえるでしょう。
また、ご当地出身選手の活躍で、そのエリアの視聴率も軒並み高くなっています。野球(男子決勝)では、活躍した森下投手らが所属するカープ のご当地・広島が最も高く、ゴルフ(最終ラウンド・男子)でも松山英樹選手の出身地である愛媛地区が高くなっています。ご当地ゆかりの選手へのテレビ越しの応援が、その地区の視聴率に結び付いたとみて取れます。
さらに、広島を筆頭に、仙台、札幌、北部九州といったプロ野球球団を擁するエリアでも野球(男子決勝)は、相対的に高視聴率となっています。
開会式でみる若者の視聴増
オリンピックの視聴率に影響を与えるものとして「時差」があります。リオ大会は時差が12時間あり、中継は深夜・早朝が多かったため、視聴しにくい環境にありました。その点、東京オリンピックは時差が全くなく、見やすい時間帯に多くの競技が中継されました。
また、本大会は日本で開催ということで、オリンピックの総放送分数は812時間30分(48,750分)と、前回のリオ大会463時間33分(27,813分)と比較して、ほぼ倍に増えています(図表5)。同じ時間帯に複数競技が放送されていたこともしばしばあり、全体を通して視聴の分散がみられた大会となりました。
このようなテレビ視聴環境の中、誰が見ていたかを最も高視聴率であった開会式(NHK総合)の関東地区の視聴データ(個人全体40.0%、世帯56.4%)から確認します(図表6)。
リオ大会と比べると、性年代問わずどの層も大幅に上回り、より多くの人たちに見られていたことがわかります。
特性別でみると、女性50才以上(50%超)をはじめ男性50才以上と女性35~49才(40%超)の視聴を中心として、男女20~34才でも30%前後と、幅広い層に見られていました。そのような中、特に注目したいのは、男女13~19才の若い世代です。リオ大会では3%台の視聴率でしたが、本大会では30%を超え、多くの若者層が自国開催の開会式を視聴しています。テレビを通して若者も見た開会式、といえるでしょう。
もうひとつ、それを裏付けるデータを紹介します(図表7)。
今回の東京オリンピック開会式の視聴がリオ大会に比べて高かった若い世代が、オリンピックに対してどのように感じたのかを確認すると、「感動した」「日本のチーム、選手を応援したくなった」人の割合は、特に男女15~19才で高くなっています。つまり、若者はテレビ視聴に加えて、意識の面でもオリンピックに対してポジティブだったことがわかります。
オリンピックは、家族と一緒にみられるコンテンツ
次に、オリンピックがどのように見られていたのか、共視聴に着目して確認します。
共視聴とは、ひとつの世帯の中で2人以上の人が一緒に視聴していたことを示すデータで、家族でテレビを楽しむというテレビの特長を示すものです。
一例として、オリンピックの中で最も視聴のボリュームのある開会式(NHK総合)をみると、視聴していた世帯のうち56.9%と つまり6割近い世帯が2人以上で視聴という結果でした。ちなみに、通常時の共視聴状況は、開会式が行われた平日20~24時でみると、4割程度です。
さらに、サッカー男子準決勝(日本×スペイン)、野球男子決勝(日本×アメリカ)では5割近くの世帯で共視聴だったことがわかりました。ひとり暮らしの世帯もありますから、2人以上の世帯に絞れば、かなりの割合で、家族一緒にテレビ観戦していたということになります。
共視聴の状況をみることで、オリンピックは家族で楽しむコンテンツとして受容されたことがうかがえました。
近年のオリンピックでは、インターネット配信も盛んに行われていますが、ネット経由で動画視聴する場合は、テレビより小さい画面(スマホやパソコンなど)でひとりで視聴することが多いものです。それに対して、テレビは、共視聴のデータが示すように、誰かと一緒に見て盛り上がることができるメディアです。
「密」を避けてパブリックビューイング等ができない状況下、家族とオリンピックを応援しながら団欒を楽しんだ人も多かったのではないでしょうか。
次回は3年後のパリオリンピックです。どんな競技でどんな選手が活躍するか、また、どのようにテレビで視聴されるのか、楽しみですね。
※共視聴は1分以上各番組を見た世帯を「視聴した」と判定
過去のオリンピック開会式の視聴率は当社サイトに掲載しています。
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