1700万人の視聴ログから見るチャンネル変更行動【第3回 視聴チャンネル数と視聴率の関係】
はじめに
これまで2回に渡り、視聴者のチャンネル選択行動について、大規模視聴ログデータを用いて考察してきました。特定の日・時間帯の視聴行動の分析ではありますが、視聴ログデータを用いることで、視聴率とは少し異なる視点で視聴者の動きを可視化することができたと思います。
第3回では、第1回で取り上げた「視聴チャンネル数」と、テレビ制作や編成に関わる方にとっては気になる「視聴率」の関係性について考察します。
今回は大規模視聴ログを用い、以下のようなテーマで3回に渡ってお送りしたいと思います。
第1回:視聴チャンネル数の実態
第2回:チャンネル変更の実態
第3回:視聴チャンネル数と視聴率の関係➡今回の分析テーマ
本連載では、通常編成に近かった2021年5月13日(木)のゴールデンタイム(19:00〜21:59)の視聴行動を見ていきます。使用するのは、機器ベースの視聴ログを個人推計した1700万人分(2021年10月現在)のうち、上記日時に関東地区の7局(NHK2局+民放5局)を1分以上視聴していた130万人分の視聴ログデータです。
第1回の分析(視聴チャンネル数の実態)で、ゴールデンタイムは「1局のみ」を見ている視聴者が最も多いことがわかりました(図表1は第1回分析の再掲)。つまり、各局が力を入れているゴールデンタイムに、多くの視聴者はある1つのチャンネルを"メイン"視聴していると考えられ、その"メイン"のチャンネルに選ばれることが重要であるといえるでしょう。
1番組の視聴チャンネル数はどのくらい?
では、番組単位で見ても同様に「1局のみ(チャンネル固定)」視聴が多いのでしょうか。20時台に放送されている2つの番組について、図表2で見てみましょう。
番組A視聴者、番組E視聴者いずれも、複数チャンネル視聴者ではなく、「1局のみ(チャンネル固定)」視聴者が最も多い結果となっています。しかしながら、この2番組はほぼ同じ放送開始タイミングで、ジャンルも同じバラエティ番組ではありますが、「1局のみ」視聴者の割合は、番組A視聴者が12.9ポイント高くなっており、番組によって、視聴者に留まってもらえる割合が異なっています。
図表2:番組A視聴者と番組E視聴者の「1局のみ(チャンネル固定)視聴者」割合
図表2から、番組視聴者に占める「1局のみ(チャンネル固定)視聴者」の割合が大きいことはわかりましたが、視聴チャンネル数の視点で番組Aをもう少し深掘りしてみます。番組A視聴者の視聴チャンネル数ごとに、番組Aを平均何分見ているかを示したものが図表3です(なお、番組Aの放送分数は45分間)。
ここから、1局のみ視聴者の視聴分数が最も長く、2局視聴者以降でがくっと下がることがわかります。複数局視聴者のほうが番組Aの視聴時間が短くなるのはいわば当然のことですが、このデータからも、チャンネルを変えずに見てもらうことの重要性が示されました。
※ここでは、番組の放送時間内に当該番組の視聴が1分でもあったサンプルを"番組視聴者"と定義し、その放送時間内に他の放送局の視聴があった場合は、チャンネルを"変更した"視聴者とします。なお、番組を途中から見た、または途中で消したという場合でも、見ていたのが当該番組だけであれば「1局のみ」視聴者に分類しています。
チャンネル固定者が多いほど視聴率は...?
視聴率と視聴チャンネル数に関係が見られるかどうか、実際にデータを見ていきましょう。なお、第1回の考察から、性年代によってゴールデン帯全体の視聴チャンネル数の分布に差がみられることが分かったため、これ以降の番組単位の分析は、性年代別にデータを見ていくこととします。
図表4は、各番組の「1局のみ視聴者」を「チャンネル固定者」と言い換え、番組単位でチャンネル固定者割合(当該番組視聴者のうち、そのチャンネルのみ見ていた視聴者の割合)と関東地区の個人視聴率の関係を示したものです。番組の条件をできるだけそろえるために、5月13日(水)のゴールデン帯に放送されていた番組のうち、放送分数が45分〜60分の15番組に限定して見ていきます。
2つの関係性を考えるにあたり、相関係数に着目すると、「男女13~19歳」「男性20~34歳」以外の多くの年代でやや強い相関関係が見られます。特に「女性20~34歳」「女性35~49歳」は相関係数0.7以上と、チャンネル固定者が多いほど視聴率が高いという傾向がみられることがわかりました。
図表4:各番組チャンネル固定者割合と視聴率の関係図/相関係数一覧
番組視聴者を視聴チャンネル数の視点で紐解くと、番組視聴者に占める割合は「チャンネル固定者」が最も大きく、彼らは複数チャンネルを見る視聴者よりも当該番組の視聴時間が長くなります。よって、チャンネル固定の視聴者が多いことは視聴時間の長さ、ひいては視聴率につながってくると考えられ、番組作りにおいて重要な要素と言えそうです。実際に、図表4にて2つの関係性を見ると、多くの年代において視聴率との相関関係が見られました。
視聴率UPのためには、放送時間中チャンネルを変えずに見てもらうことに着目し、番組制作や編成の視点で手を打っていくことが大切だと考えられます。
チャンネル固定者が多い番組とは?
図表4から、多くの性年代においてチャンネル固定者割合が高いほど視聴率が高いという傾向が見えてきましたが、チャンネル固定者が多い番組にはどのような特徴があるのでしょうか。
ここからは、チャンネル固定者が多い番組の特徴についていくつかの視点で分析し、番組制作や編成のヒントを考えていきましょう。今回は、チャンネル固定者割合と視聴率の相関関係が最も見られた「女性35~49歳」に着目して見ていきます。
<番組放送分数>
放送分数が長いということは、チャンネルを変更されうるタイミングが多いと捉えることもできます。では、放送分数が長い番組ほどチャンネルを変更されやすいのでしょうか?
図表5は、チャンネル固定者割合を縦軸に、番組放送分数を横軸に置いたもので、右に行くほど放送分数が長いことを表します。
この図表からは、仮説として挙げたような、視聴分数が長いほど固定者割合が下がる(その場合、番組は右肩下がりにプロットされる)様子は読み取れません。今回のデータからは、放送分数が長いほどチャンネル固定者が低くなるというはっきりとした関係性を見ることは難しいと言えそうです。
結論としては、今回は「チャンネル固定者が多い番組」と放送分数の関係を見ることはできませんでしたが、言い換えると、相対的にチャンネル変更タイミングが多い長尺番組でも、チャンネルを変えずにずっと見てくれる視聴者を増やすことは十分可能であると考えられます。
図表5:【女性35~49歳】チャンネル固定者割合と番組放送分数の関係
<番組放送時間帯>
今回、ゴールデンタイムの番組を分析対象としていますが、一般に夕方のニュースからゴールデンタイムに切り替わるタイミングは視聴者の流入流出が激しいことが知られています。つまり、19時台はチャンネル固定者の割合が比較的低いと想像できますが、番組放送時間帯とチャンネル固定者割合に関係はあるのでしょうか?
図表6は、番組放送時間帯別にチャンネル固定者割合を示したものです。一般に視聴者の動きが大きい19時台は番組ごとにチャンネル固定者割合のばらつきが大きく、20時台、21時台は番組ごとの差が小さいという傾向が見られます。よって、20時以降はどの番組でも同じくらいの割合でチャンネル固定視聴者が存在し、19時台と比べてその割合が高いことがわかりました。
一方、チャンネル固定者割合が番組によってばらついている19時台開始の番組には、特に視聴者を引き込んだり離れづらくしたりと言った工夫が重要だと考えられます。同じ19時台開始番組でも番組によってチャンネル固定者割合に差がある(ばらつきが大きい)ということは、その工夫や取り組みが結果につながりやすく、他局の番組と差がつけられるとも捉えられるためです。
図表6:【女性35~49歳】チャンネル固定者割合と番組放送時間帯の関係
ここまで<番組放送分数><番組放送時間帯>の2つの視点でチャンネル固定者割合が高い番組の特徴を見ることで、以下の2点が明らかになったと考えます。
・番組放送時間の長さはチャンネル固定者割合にあまり関係がない
⇔ 長尺番組でも不利ではない
・番組放送時間帯はチャンネル固定者割合の傾向が19時台と20時以降で異なる
⇔ 特に19時台は視聴者を離れさせないことが重要
前項(図表4)にて、「視聴率」と「視聴チャンネル数」(主に視聴チャンネルが1つであること)には関係性があり、視聴率を獲得するためには"番組途中でチャンネルを変えない視聴者"を増やすことが重要な要素の1つとして存在することがわかりました。放送時間帯によってはコンディションの違いがあるものの、チャンネル固定視聴者を増やすために、視聴者を離れにくくするための取り組みや工夫が大切であることには相違ありません。
なお、今回は15番組を分析対象としたため分析範囲が限られた部分もありますが、分析番組を増やすことで、ジャンル、番組内容、視聴者のデモグラフィック構成、プロフィールなどの他の要素がチャンネル変更割合に影響している可能性についても分析し、深掘ることが可能だと考えられます。
終わりに
この度の連載では3回に渡り、大規模視聴ログデータを用いて人々のテレビ視聴の仕方について見てきました。視聴ログデータを使った分析はまだまだ多くは行われておらず、あまり見慣れないものもあったかと思いますが、いかがだったでしょうか。大量の視聴ログデータを用いることで、これまで分析したくてもできなかった細かな視聴行動を詳らかにすることができます。
今後も引き続き、大規模視聴ログデータを用いたテレビ視聴行動の可視化や分析の取り組みを進めていければと思います。
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