〜株式会社オルツとの取り組み〜デジタルクローンを使ったリサーチ手法開発
2021年2月より、P.A.I.(パーソナル人工知能)を開発する株式会社オルツと共同で、オルツ社の開発した「デジタルクローン・アンケートシステムNulltitude」によるデジタルクローン技術によるリサーチ手法の開発に取り組んでいます。今回は、この取り組みについて紹介します。
この記事と関連するコンテンツはこちら 2021年02月18日プレスリリース 過去記事 |
1. 取り組みの背景
これまでビデオリサーチが行ってきたリサーチ手法を、以下のように定義づけてきました。
1. リサーチ1.0:調査員による訪問説得
2. リサーチ2.0:1990年代後半からインターネット利用の調査
3. リサーチ3.0:調査ベースからログデータ解析ベースへ
特にリサーチ2.0では、1990年代後半から2000年のタイミングで 「インターネット」が急速に広がり、リサーチ業界も大きく変化しました。また、インターネット環境の普及、デジタル化の時代となり、行動情報が「ログ」として収集することが可能となったことは、データの収集、解析の上で大きな発展といえましょう。
しかしながら「ネットリサーチ」を考えると、モニターの大都市圏在住の偏りや、近年は「若年層(特に10代)」モニターの減少や協力率の低下が課題となってきています。
さらに、生活者の「個人情報」に関する意識も、より厳しくシビアになり、その観点からも、新たな次世代のリサーチ手法の開発は、我々のテーマとなっていました。
そのタイミングで巡り合ったのが株式会社オルツの「デジタルクローン」の技術なのです。デジタルクローンのように、新しいAI などの技術を駆使することで、「データを生成して調査を行う」という「新しいリサーチの形」、「リサーチ4.0」の概念が生まれました。
2. リサーチ4.0(デジタルクローン)とは
現在取り組んでいる「デジタルクローン技術」では大量のサンプル(デジタルクローン)に大量のリサーチデータをスピーディ且つ低コストで収集することができる可能性を秘めており、これは大きな利点だと考えています。
そして、この「デジタルクローン」の回答は「個人情報」を保持せず、この領域でのリスクも抑えた方法です。
また、類似内容の質問を、短い期間に何度も繰り返し調査(Rolling)をする場合も、バイアスを気にせずに、調査を行うことができる点も大きな利点です。このような点から、リサーチビジネスにおいて、大きな変革、エポックメイキングな手法開発になるのではないかと考えています。
ただし、このリサーチ4.0(デジタルクローン)がすべての調査の代替を担うことになるわけではありません。調査内容の向き不向き(意識調査には向くが、実行動結果、例えば購買調査には向かない、など)があることを認識し、従来の手法(リサーチ1.0〜3.0)に、新たな選択肢として、リサーチ4.0が加わるものと位置付けています。
3. デジタルクローンの生成方法
「デジタルクローン」はどのように生成するのか、その方法を紹介します。
「デジタルクローン」の生成には、大きく2つの手法があります。
手法1. 実際に存在する個人のデジタルクローンを生成する手法
手法2. 「1」の方法を基に、大規模なデジタルクローン・パネルを生成する手法
手法1・2に共通
まず、大量のSNSデータから、多くの(大量)人々のライフログを集め、それらを" 様ざまなデータを合算 "し、標準化した「平均モデル」というものを作ります。この平均モデルにより、多くの人に共通する考えは強化され、相対する思考についても互いに相殺されることになるので、大きな偏りのない、いわば「平準化」した巨大なモデルとなります。
手法1
この「平均モデル」をベースに置きつつ、今度は、クローンを作りたい個人の考えが反映された データを少しずつ加えていくと、前述の平準化した意識は持ちつつも、個人の意識の"ズレ"があり、個々人が持つ個性のかたちに"ズレ=歪んだ"モデルが生まれます。この平均モデルからの歪みを見つけ出し " 個性化 " すること、これが、デジタルクローンの基本的な仕組みです。
手法2
「平均モデル」を個人の価値観、個性の違いを再現するために、無作為に歪ませたクローンの中から過去のアンケート結果などを基に、パネル化したい属性に近い思考のクローンをフィッティングしていくという方法です。
デジタルクローンは「個人ごとの"歪み"」を作り出す「個人的な『不正確さ』」が重視されるという点が大きな特徴です。普遍的に見て「どう考えても美しいデザイン」があったとして、「でも、自分はこのデザインが好きだ」と考えるのが人間というもの。それを再現するのがデジタルクローンなのです。
例えば、AIの目的が「普遍的な"正しさ"」を追求することにあるとすれば、デジタルクローンとAIとの大きな違いということができるでしょう。
4.具体的な検証と取り組み
現在はPoC(概念検証)の段階として、デジタルクローンに対して様ざまな質問を投げかけ、どのような回答が返ってくるかを検証しています。
当社が手掛けるACR/exの対象者の中から無作為に小サンプルのデジタルクローンを生成し、質問と回答をやりとりするインターフェース(オルツ社Nulltitude)を使って、ACR/exと同様の質問を提示し、回答を得ます。このクローンの回答と、実際ACR/exでのモデルとなった人の回答とのフィット感を確認しています。
次のステップとして、パネルをもう少し拡大し1500体のデジタルクローンの生成を完了しており、この1500体を属性別に分解して、回答のフィット感を検証するべく、日々作業を続けています。
有名人クローンについて
前節で紹介した「デジタルクローン」の生成手法の精度検証の一環として、
● 実際に存在する人物とそのデジタルクローンを生成すること
● 特に高度な専門知識を持ち、且つ誰もが知っている有名人・知識人をモデルとしたデジタルクローンを開発し、その精度、フィット感を検証する
という目的で、有名人をモデルとした「デジタルクローン」の生成を計画しました。
そして、著名な脳科学者 茂木 健一郎氏に協力いただき、茂木氏のデジタルクローンを開発しました。
様ざまな問いかけをする実験を行った結果、同氏が持つ専門知識を基にした回答をデジタルクローンから得られることに加え、専門知識の領域にとどまらず、同氏の価値観を土台とした広範囲な返答を得ることができました。
また、茂木氏本人からは「必ずしもデジタルクローンの発言は、自分自身と同じではないものの、ある状況下では、そのように考える可能性は十分にある」というご評価をいただいています。
このオルツ社と共同で開発した、脳科学者、茂木 健一郎氏のデジタルクローンは、3月18日(金)より日本科学未来館で開催されている「特別展・きみとロボット ニンゲンッテ、ナンダ? ( https://kimirobo.exhibit.jp/ )で展示しています。この展示では、茂木 健一郎氏とともにオルツ社が開発した若かりし姿の哲学者ニーチェ、二人のデジタルクローンが会話をしており、そこに観覧者の皆さまがインタラクティブに会話に参加いただくことができます。
茂木健一郎氏のデジタルクローン(ホロノイド)
この「デジタルクローン」技術の取り組みについては、約1年が経過し、1500体のデジタルクローン・パネルの構築が完了、検証に至っています。
今後の運用については、現在、検討を進めており、今後トライアルも実施したいと考えています。
トライアルにつきましては、営業担当を通じてご案内させていただきます。
※掲載画像および情報提供につきまして、株式会社オルツ様にご協力いただきました。
当記事は、VRダイジェスト(NO.580)の記事をもとに編集しています
この記事と関連するコンテンツはこちら 2021年02月18日プレスリリース 過去記事 |