視聴率分析手法のご紹介<1>番組平均世帯視聴率でわかる視聴の拡がり&視聴の深さ
※本記事は2000年に発刊したVR Digestに掲載されたものです。
視聴率測定調査から得られるデータは、世間一般によく使われている「番組平均世帯視聴率」だけではなく、"誰がどの様に何の番組を見たのか"といったマーケティング的な視点での「視聴記録データ」でもあります。ここではその「視聴記録データ」を用いた分析手法「視聴の拡がり&視聴の深さ(HSS分析)」をご紹介したいと思います。
※データはすべて関東地区世帯のもの
紅白は「73.4%×69.1%」!?
皆さん、ご自分のテレビの見方を思い出して下さい。すべての番組を最初から最後まで見るわけではなく、多くの番組がこまぎれであったり途中から見たりするのではないでしょうか。また、毎週欠かさず見る番組もごく僅かで、多くの番組は見た週もあれば見なかった週もあったりするというのが実状ではないかと思います。したがって番組側の立場になって考えれば、各回の放送によって、見てくれる視聴者の人数も違えば、見てくれる番組の長さ(分数)も違うということになります。この「見てくれる視聴者の人数」を"拡がり"、そして「見てくれる番組の長さ(分数)」を"深さ"として同一次元で捉えようというのが「視聴の拡がり&視聴の深さ(HSS分析)」です。
「拡がり=見てくれる視聴者の人数」を1分以上視聴世帯(者)割合、「深さ=見てくれる番組の長さ(分数)」を平均視聴時間割合とすると、実はこの2指標を掛け合わせたものは番組平均世帯(個人)視聴率と等しくなります(図1)。これは、番組平均世帯視聴率が「番組に接した世帯(人)の割合」が「番組の最初から最後まで平均でどれくらいであったか」という、そもそも拡がりと深さを考慮した指標であるためです。
番組平均世帯(個人)視聴率=1分以上視聴世帯(者)割合×平均視聴時間割合
例えば、昨年の「第50回NHK紅白歌合戦(第2部)」の番組平均世帯視聴率は50.8%でしたが、これは「視聴の拡がり73.4%」「視聴の深さ69.1%」となります(図2)。73.4%の世帯が、皆平均で69.1%(93分)見たということです。こう考えると、視聴率50.8%のもつ意味というものが今までとは遣って見えてくるのではないでしょうか。
ちょっと余談になりますが、この「視聴の拡がり&視聴の深さ」を別名「HSS分析」とも言います。何を隠そう「平均世帯視聴率(へいきんせたいしちょうりつ)」の頭文字をとったものなのです(お恥ずかしい...)。
映画は「拡がり型」!?
番組の平均世帯(個人)視聴率がこの2指標に分解できるということは、逆に考えれば同じ視聴率であっても「視聴の拡がり」と「視聴の深さ」に違いがあり、「拡がり」メインで視聴率を構成している番組もあれば、「深さ」メインの番組もあるということになります(図3)。
拡がりメインの番組を"拡がり型"、深さメインの番組を"深さ型''とすると、
拡がり型=視聴世帯(者)の取り込みには優れているが、見られ方は浅い
深さ型 =視聴世帯(者)は少ないが、その視聴世帯(者)にはしっかりと支持されている
と言うことができます。もちろん、共に優れていれば高視聴率、共に劣ってしまえば低視聴率ということになります。
では、どういった番組が「拡がり型」あるいは「深さ型」なのでしょうか。過去1年間('98年10月〜'99年9月)のデータを用いてプライムタイム放送番組での「視聴の拡がり&視聴の深さ」をジャンル別に集計してみると、
拡がり型...バラエティ、映画、実用情報
深さ型 ...ドラマ、アニメ、ニュース
どちらにも属さない...音楽
となりました(図4)。映画は「深さ型」に属するような気もしますが、実際は「拡がり型」となりました。放送時間が長いため、最初から最後まで見る世帯は少ないのでしょう。逆にニュースは「拡がり型」ではなく「深さ型」となりました。多くの人が必要な情報(ニュース)だけを得たらチャンネルを切り替えてしまうのではなく、一部の人が情報(ニュース)を漏らさず得るという見方をされているということでしょう。
もちろん、これらの結果はジャンルをひとくくりにして集計したものですので、すべての番組がこのジャンル通りのグループに属するとは限りませんし、同じ番組でも毎週の放送によって変化します。ただし、番組にはそもそもの"見られ方"が存在するということは忘れないで下さい。日々見慣れている「番組平均世帯視聴率」から一歩踏み込むだけで、その番組の持っている特性や価値が明らかになるのです。
「深さ型」はよい番組?
さて、この「視聴の拡がり&視聴の深さ」によって、"番組の見られ方"を「拡がり型」あるいは「深さ型」に分類することができました。では、アンケート調査である当社『番組カルテ』データによる「番組好感度(Qレイト)」「視聴満足度」「否定的視聴感」といった"番組の見られ方"とは何か関係があるのでしょうか。番組カルテ'99年11月調査でのこれら3指標のベスト20番組それぞれについて、「視聴の拡がり&視聴の深さ」を集計してみました(図5〜図7)。
「番組好感度(Qレイト)」「視聴満足度」の高い番組は「深さ型」がやや多く「拡がり型」が殆どないのに対し、「否定的視聴感」の高い番組は「深さ型」が殆どなく「拡がり型」に属する番組がいくつか見受けられます。ハッキリと断言できるほどの結果ではありませんが、視聴者の支持を得ている番組は「深さ型」の傾向を示すのに対し、あまりよい感情を持たれていない番組は「拡がり型」の傾向を示すようです。
視聴率の未来を占う?
実はこの「視聴の拡がり&視聴の深さ」、この他にも凄いパワーを秘めているのです。なんと"視聴率の未来が占える"のです。それはちょっと言い過ぎかもしれませんが、この「視聴の拡がり&視聴の深さ」の推移をみることにより、ある程度今後の視聴率がどうなっていくのかということが分かります。
例えば、ここ最近視聴率の上昇が大きい「伊東家の食卓」(日本テレビ・火19時)の推移をみてみると、'98年4−6月クールでは「視聴の拡がり33.5%」「視聴の深さ36.0%」であったものが、このクールを100とすると、
'98年7−9月クール 拡がり104、深さ108
'98年10−12月クール 拡がり106、深さ120
'99年1−3月クール 拡がり111、深さ136
: :
'99年10−12月クール 拡がり127、深さ140
'99年1−3月クール 拡がり134、深さ161
となっており(図8・図9)、「視聴の拡がり」に比べて「視聴の深さ」が大幅に伸びていることが分かります。もう少し細かくみれば、最初に「深さ」が深くなっていき、その後「拡がり」が拡大し、今現在はさらに「深さ」が深くなっています。
ドラマ番組の例もみてみましょう(図10)。「伊東家の食卓」同様、視聴率が上昇していった番組は中盤にかけて「深さ」が深くなり、最終回には一旦狭くなった「拡がり」が再び拡大しています。一方視聴率が低下していった番組は「拡がり」も「深さ」も中盤にかけて低下し、最終回もさほど変化なしという結果になっています。
'00年1月にスタートした「日曜劇場・ビューティフルライフ(TBS・日21時)」は、初回→中盤と図10のような推移になっています。この"占い?"が当たるとすれば、おそらく最終回は「?」のあたりにプロットされることでしょう。この冊子がお手元に届いているころには既に結果が出ていることと思います。どうだったでしょうか?
2つの集計例をみると、視聴率が上昇していく番組は『始め"深さ"が深くなりその後"拡がり"を拡大、あとは"深さ"をさらに深められればさらに高視聴率』というような傾向が読みとれます。このことから、高視聴率獲得に際しては、以下のような標語ができるのではないでしょうか。
「始め"深さ"で、次ぎ"拡がり"。も一つ"深さ"で高視聴率」
価値ある"動くデータ"
ここでご紹介した「視聴の拡がり&視聴の深さ(HSS分析)」は、日々の視聴率調査データから簡単に集計することができます(視聴率調査全地区対応)。費用も時間も掛かるフィールド調査を行わなくても、番組の見られ方を"毎日"知ることができる価値ある"動くデータ"なのです。日頃親しんでいる「番組平均世帯視聴率」を2つに分解して捉えるだけで、その番組の持つ特性や価値を見い出すことができます。これからは一歩進んで番組を管理・把握してみてはいかかでしょうか?
テレビマーケテイング部 長島 英樹