生活者に受け入れられる広告-メディア接触モードと広告の受容性の関係 (ひと研究所/広告研究シリーズvol.1)
【この記事はこんな方にオススメ!】
✅広告キャンペーンのメディアプランニングを担当される方
✅メディア・プラットフォーム間の広告効果の違いに興味がある方
1.メディアの多様化とプランニング
メディア環境の複雑化が進展しています。生活者は様ざまなメディアやデバイスを利用して、コンテンツに接触するようになりました。同じコンテンツでも、生活者によって異なるデバイスで接触されることもいまや普通というのが実態です。それに伴い、広告キャンペーンで利用するメディアやデバイスの種類も増加する傾向にあります。メディアプランニングの現場では、様ざまなメディアやデバイスの効果的な組み合わせが模索されています。
複数のメディアやデバイスを活用した広告キャンペーンを計画する際、最も参考にされる指標はリーチ(到達率や到達数)でしょう。具体的には、メディアやデバイスの組み合わせによるリーチの最大化が試みられることが多いです。多くの広告キャンペーンの目的はブランド認知の向上やブランドイメージの構築であるため、その前提となるリーチの最大化を試みることは合理的だといえます。
一方、リーチを最大化することがそのまま広告効果の最大化につながるわけではないことには注意が必要です。なぜなら、広告表現が類似していたとしても、メディアやデバイスによって1回接触あたりの広告効果は異なると考えられるからです。精度の高いメディアプランニングを行うためには、高いリーチの獲得を目指しつつ、メディアやデバイスによる広告効果の違いにも注意を払う必要があります。
ひと研究所では、効果的なメディアプランニングに役立つ知見を発信することを目的とし、メディアやデバイスによる広告効果の違いがどのようなメカニズムで発生するのかを明らかにするための研究を開始しています。本稿では、メディアやデバイスによる広告効果の違いに影響する要因を整理した上で、生活者のメディア接触モードに着目し、メディア接触モードと広告の受容性の関係に関する分析を紹介します。
2.メディア・デバイス特性と広告効果
メディアやデバイスによる広告効果の違いに影響する要因を整理したのが【図1】です。「メディア・デバイスの種類」によって「メディア・デバイス特性」が決まり、それが生活者の「心理・行動プロセス」を経由して「広告効果」に影響するという関係になっています。
ここでは、メカニズムを理解するうえで重要な「メディア・デバイス特性」と「心理・行動プロセス」のそれぞれの概念について説明します。
■メディア・デバイス特性
① メディア接触モード
メディア接触モードは生活者がメディアやデバイスに接触する際の内面的な状態のことで、【図1a】ではメディア利用の動機の強さと時間や場所のコントロール意識の2つを取り上げています。メディア利用の目的には、娯楽、情報探索、コミュニケーション、買い物などがありますが、その目的の達成を志向する程度がメディア利用の動機の強さです。例えば、「仕事のための情報探索」は「娯楽のためのサイト閲覧」に比べて目標達成への動機が強いと考えられます。
時間や場所のコントロール意識は、生活者がメディア接触の時間や場所を自らコントロールしたいと思う程度のことです。例えば、タイパを意識した動画の倍速再生は、時間のコントロール意識が高い状況を反映していると考えられます。
② 広告表現特性
広告表現特性はメディアやデバイスに規定される広告表現の物理的な特性です【図1b】。位置や大きさ、動画・静止画・テキストなどのフォーマット、音声の有無、周辺コンテンツとの類似性などが含まれます。広告表現が広告効果に大きな影響を与えることは想像に難くありません。例えば、テレビCMやYouTubeのインストリーム広告といったリッチな広告表現特性を持つ広告は、高い広告効果が期待されます。
③ メディアイメージ・広告イメージ
生活者は多くのメディアや広告に日々接触しています。過去の接触経験によって蓄積されたメディアや広告に対するイメージが、メディアイメージと広告イメージです【図1c】。「信頼できる」、「役に立つ」、「洗練されている」といったポジティブなイメージだけでなく、「つまらない」、「役に立たない」、「広告が多すぎる」といったネガティブなイメージも含まれます。このようなメディアや広告が持つイメージも、広告効果に影響すると考えられます。
■心理・行動プロセス
① 広告の侵入感
広告の侵入感は広告によってやりたいこと(メディア接触の目的)が阻害されたと感じる程度のことで、主にメディア接触モードと広告表現特性の影響を受けると想定されます【図1d】。例えば、時間や場所のコントロール意識が高い状態で挿入される広告は、高い侵入感に繋がるでしょう。また、ウェブサイトにフルスクリーンで表示される広告は、ウェブサイトの片隅に表示される広告に比べて侵入感が高いと考えられます。
② 広告の受容性
広告の受容性は、広告を回避したいと思う気持ちや実際の回避行動の有無のことです【図1e】。回避行動には「目を背ける」、「他のことをする」、「スキップボタンを押す」などが含まれます。広告の受容性への主な影響要因は、広告の侵入感や広告イメージだと想定されます。高い侵入感やネガティブな広告イメージは、広告受容性を低減させ、広告の回避行動を誘発するでしょう。
3.メディア接触モードと広告の受容性
ここでは【図1】の関係の検証のために行った調査の結果を紹介します(本記事の調査概要を参照)。この調査で注目したのは「メディア接触モード」「広告の侵入感」「広告の受容性」の3つの概念の関係です。
調査したメディア・デバイスは下記の8つです。
✅ テレビ番組のテレビ画面での視聴
✅ 動画共有サイトのスマホやタブレットでの視聴
✅ 動画共有サイトのテレビ画面での視聴
✅ テレビ番組配信のスマホやタブレットでの視聴
✅ テレビ番組配信のテレビ画面での視聴
✅ SNSのスマホやタブレットでの利用
✅ ニュースサイト・アプリのスマホやタブレットでの利用
✅ GoogleやYahoo!の検索のスマホやタブレットでの利用
「メディア接触モード」「広告の侵入感」「広告の受容性」の質問項目は以下の通りで、それぞれ7段階の尺度(とてもそう思う〜まったくそう思わない)で測定しています。
メディア利用の動機の強さ「メディア接触モード」
● 内容を集中してみる
● 内容について考えながらみる
時間や場所のコントロール意識「メディア接触モード」
● 好きな時間に楽しめる
● 好きな場所で楽しめる
● 誰にも邪魔されずに楽しめる
「広告の侵入感」
● 広告が煩わしく感じる
● 広告で注意をそがれる
● 広告が目障りに感じる
「広告の受容性」
● 広告をスキップしたい、無視したい、避けたいと思う気持ちの有無
■メディア接触モード、広告の侵入感、広告の受容性の関係
「メディア接触モード」「広告の侵入感」「広告の受容性」の関係を【図2】に示します。なお、調査では1人の回答者が複数のメディア・デバイスについて回答していますが、【図2】ではすべてのメディア・デバイスを合算して集計しています(延べ3,595の回答データ)。
【図2】の横軸はメディア利用の動機の強さで、前述した
● 内容を集中してみる
● 内容について考えながらみる
の2項目を合計し、そのスコアが平均値より高いか低いかで2つに分類したものです。
また、縦軸は時間や場所のコントロール意識で、こちらも前述した
● 好きな時間に楽しめる
● 好きな場所で楽しめる
● 誰にも邪魔されずに楽しめる
の3項目を合計し、そのスコアが平均値より高いか低いかで2つに分類したものです。
つまり、右上の象限は、メディア利用の動機と時間や場所のコントロール意識がともに高い場合を、左下の象限は、メディア利用の動機と時間や場所のコントロール意識がともに低い場合を表しています。また、右下の象限は、メディア利用の動機のみが高い場合を、左上の象限は、時間や場所のコントロール意識のみが高い場合を表しています。なお、図中のスコアは、広告の侵入感の3項目と広告の受容性のスコアを表しています(※)。
※広告の侵入感はTOP2ボックス(とてもそう思う+そう思う)の値、広告の受容性は、「広告をスキップしたい・・・」のTOP2ボックスに該当している割合を100%から引いた値
図から明らかなように、広告の侵入感が最も高く、広告の受容性が最も低いのが右上の象限です。一方、広告の侵入感が最も低く、広告の受容性が最も高いのが左下の象限となっています。右上と左下の象限では、広告の侵入感の3項目と広告の受容性のスコアに大きな差があることが分かります。右下の象限(メディア利用の動機だけが高い)と左上の象限(時間や場所のコントロール意識だけが高い)は、広告の侵入感と広告の受容性が中程度となっています。ただし、広告の受容性のスコアは、左上の象限(時間や場所のコントロール意識だけが高い)の方が低くなっています。
以上のことから、メディア利用の動機の強さや時間や場所のコントロール意識は広告の侵入感を増加させる効果があり、それに伴って広告を回避したい気持ちや広告回避の行動が誘発されることが分かります。また、時間や場所のコントロール意識の広告の受容性への影響は、メディア利用動機の影響に比べて強いことがうかがえます。
■広告の受容性を高めるために
ここまで【図2】の中の「メディア接触モード」「広告の侵入感」「広告の受容性」の関係について分析を進めてきました。その結果、メディア利用の動機が強かったり時間や場所のコントロール意識が高かったりする状況では、広告の侵入感が増加して、広告の受容性が低下することが確認できました。
では、そのような状況で広告を回避されない(広告の受容性を高める)ためにはどうすれば良いでしょうか。それを探るために、調査で取得した「広告を不快に思う理由」のフリーアンサーを確認してみます。
●メディア利用動機が高い人の代表的な「広告を不快に思う理由」フリーアンサー
✓ コンテンツへの没入感が削がれるから。
✓ 知りたいことがあって見ているのに、それが邪魔される。
✓ 広告が入る回数が多い。長いのにスキップできないのも不快。
✓ 研修動画などを見ているときなど、集中している時に割り込んでくるので集中力が削がれる。
●時間や場所のコントロール意識が高い人の代表的な「広告を不快に思う理由」フリーアンサー
✓ 区切りの良い所での広告は不快ではないが、区切りの悪い所での広告は嫌になる。
✓ 動画の再生が途中で切れる上に、広告の音量が大きすぎるため。
✓ 隙間時間に早く見たいのに広告がスキップできないと時間ロスになる。
メディア利用の動機が高い人のフリーアンサーをみると、広告によってメディア利用の目的が阻害されることへの不快感がうかがえる内容となっています。メディア内のコンテンツに集中している状況ですので、メディア利用の目的にそぐわない広告が避けられるのは当然かもしれません。このような状況では、広告の頻度や長さをコントロールしたり、コンテンツの内容と関連した広告を出稿したりすることが有効だと考えられます。言い換えれば、想定されるユーザーの利用動機に寄り添った広告の出稿が求められるということです。
一方、時間や場所のコントロール意識が高い人のフリーアンサーをみると、広告挿入のタイミングや音量に関する内容が挙げられています。広告によって自分の時間を快適に過ごすことが阻害される、つまり自分の時間の「コントロール性」が失われることへの不快感がうかがえます。動画が途切れたように感じさせない広告挿入の工夫や、音量のコントロールなど、生活者のメディア体験の快適性を高めるための改善が必要かもしれません。
おわりに
今回は「メディア接触モード」「広告の侵入感」「広告の受容性」の関係に関する導入的な分析を行いました。メディアやデバイスの多様化が進展する現在の状況では、広告の侵入感を下げ、広告の受容性を高めるための取り組みがますます重要になります。
ひと研究所では引き続き広告の侵入感や広告の受容性の概念に注目し、効果的なメディアプランニングに繋がる知見の抽出に取り組んでいきたいと考えています。
【ひと研究所 広告研究調査2023年7月 調査概要】
調査日 :2023年7月21日(金)〜7月22日(土)
調査手法 :web調査
調査エリア :全国
サンプルサイズ :828
対象者属性 :男女15〜69歳(なるべく均等になるように回収)