メディア行動はどう変わる?〜Z世代、動画、SNS、AI・・・生活者と社会の変化から考える〜【VR FORUM 2023 レポート】
[登壇者](右から)
株式会社SHIBUYA109エンタテイメント SHIBUYA109 lab.所長 長田 麻衣氏
株式会社電通 電通メディアイノベーションラボ 主任研究員 天野 彬氏
株式会社ビデオリサーチ 統括・ソリューションユニット リサーチアナリシスグループ ひと研究所 フェロー 渡辺 庸人
コロナ禍を境に急激にインターネット動画視聴時間が増加し、SNS、AIの普及によって生活者とメディアの関係性の変化も起きています。この状況を背景として、Z世代の若者にフォーカスし、生活者の消費行動や思考パターンの背景を考察するとともに、企業は、彼らと"共に"どう変化していくべきなのか議論がなされました。
また各登壇者にはVR FORUMのテーマにちなみ、企業は生活者とともに「何をしたらよいのか」について「Co-」というワードで考察していただきました。
まず各登壇者からそれぞれの生活者研究の視点での報告がありました。
コロナ禍を経て動画視聴が普及−視聴ジャーニーの重要性−
映像視聴行動を研究する渡辺からは、「コロナ禍を経て、最も大きな変化のポイントはインターネット動画がより広く普及したことである」とデータが提示されました。
当社ACR/ex(全国7地区計、個人全体(男女12-69才))から、2019年と2023年のデータを比較すると、YouTube、Amazon Prime Video、TVer、Netflixなどのインターネット動画の利用率が急激に伸びており、より広く普及していることが分かります(図1)。「コロナ禍で時間が空いたところで動画を見るということが増え、外出自粛が長引いたことが影響し、『楽しみの空白』を埋められるコンテンツへのニーズが高まってきた」と考察しました。
さらに、テレビのインターネット結線率の拡大(関東地区)に加え、ひと研究所独自調査(全国15−69才)では「テレビでネット動画を見ることが増えた」(15.7%)、「家族がテレビを見ていても、自分は気にせずスマートフォンなどでネット動画を見ることが増えた」(12.7%)など、リビングでのネット動画視聴が増えたことが挙げられており(図2)、生活者の"慣れ"や"生活習慣""気持ち"の変化が起きたと渡辺は指摘しています。
このような変化の中、コンテンツを考えていく上で「視聴ジャーニー」という考え方を提唱(図3)。この考え方では、コンテンツ自体を見て楽しい・面白いだけではなく、生活者はコンテンツ周辺にある様々な行動やリアクションを含めて視聴体験を楽しんでおり、これがコンテンツの継続視聴やメディア評価への重要な要素となっています。
さて、ここでVR FORUM 2023のテーマにちなんだ、企業は生活者とともに「何をしたらよいのか」について、登壇者それぞれのキーワードを交えながら考えが示されました。
渡辺からは、コロナ禍を経て、動画視聴が拡大、生活者の視聴ジャーニーを把握する必要性があることから、「Co-Watching」を提案。「企業は生活者と同じ目線・視線・視点で一緒に共感したり盛り上がったりすることが重要」と述べました。
Z世代の消費行動−界隈消費と「親近感」が特徴−
続いて、日々多くのZ世代と接し、トレンドや消費価値を調査している長田氏は、Z世代の消費行動を4つのキーワードで表現しました。
<Z世代の4つの消費行動>
【体験消費】
何かを体験することに価値を感じている
【失敗したくない消費】
失敗に敏感。「失敗しないようにどう生きるか」に力を入れている
周りからの評価に対する恐れが強い
買い物はもちろん、コンテンツ視聴やキャリアに対しても失敗したくないという気持ちで動いている
【メリハリ消費】
膨大なコンテンツの中から取捨選択し、メリハリをつけてお金と時間を使う
テレビなどのメディアも、用途によってメリハリをつけて視聴している
【応援消費】
「推し」、「推し活」が当たり前になっている。
誰かを応援することや他者に貢献することにお金を使う。
もうひとつ大きな特徴として、「界隈消費」をあげています。界隈とは、ファッションのテイストや、共通の趣味・カルチャー、好きな世界観を軸にしたゆるいクラスターを意味する言葉で、1人がいくつもの界隈に属しており、ある界隈も少しずつ他の界隈とリンクしています。そして、「小さなコミュニティで熱量高くひとつのトレンドを楽しむ」「一つの界隈から伝播しマスに」という特徴があると指摘しました。
また、メディアについて長田氏は、「現代の若者は、非常に多くの情報に触れており、信憑性の判断をシビアに行っている」との見解を持ち、それを判断する大きなポイントとしては「親近感」をあげています。企業の視点で言うと、クオリティの高いクリエイティブだけでなく、ちょっと粗くても自分たちと同じ世界観を持った人が作っているという"親近感"のあるクリエイティブも用意するなど「クリエイティブの幅を持つことが大事」と述べています。
このように、界隈や親近感を大切にするZ世代に訴えかけるには「Co-」で言えば、「Co-Immersion」が重要と長田氏は提案しました。Immersion(イマージョン)は、没入感という意味で、メディアの視聴行動の変化や多種多様な界隈の中で生きるようになったZ世代は、それぞれ見たい情報にこだわりを持つようになっています。企業は生活者のこだわりに没入し、一緒に熱量を作ることが大事だとまとめました。
エンゲージメントからアテンションへ−ショート動画のインパクト−
ショート動画や消費者行動を研究している天野氏からは、メディア(情報媒体)の進化とショート動画がもたらすインパクトについて説明がありました。
まず、生活者がどのように情報と出会うのかという「情報メディアの進化」について説明(図4)。長らく伝統的なメディアが生活者に情報を届ける役割を担っていたが、2000年代のサーチエンジンの登場による双方向のディストリビューション、2010年代のSNSでの発信者による共感や親密性、ストーリーの醸成と言ったエンゲージメント重視、2020年代では情報の出会い方をAIやアルゴリズムが担う、という変化について解説。「ユーザーがコンテンツを発見する時代から、コンテンツがユーザーを発見するようになった」と表現しました。また、「情報メディアの競争は厳しくなるが、情報の信憑性や価値に加えて、テクノロジーの理解が大事になってくる」ことを強調しました。
長田氏からも、Z世代のAI活用に関して「AIに支配されているというより、フラットに、友達のように付き合っていると感じる」と、AIを利用する概念が浸透しているとの意見がありました。
また、メディアの進化により、ショート動画が登場したことでメディアやコンテンツの領域には3つのインパクトがもたらされたことも天野氏から紹介(図5)。
ショート動画が増えたことで、生活者は1日24時間で失敗なく情報を得るために「タイパの向上」を行っており、企業としては、自社のコンテンツが選ばれるかどうかが課題となっています。また、動画を作りやすい環境と作り慣れた人が増加したことで、企業は増加するクリエイターとの付き合い方も問われてきています。またメディアへの「出し分けと動線」についても検討が必要となっており、忙しい中でも主要コンテンツとして見てもらえる可能性が高いTikTokや、主要コンテンツに誘導するためのYouTubeの切り取り動画など、「ショート動画は先頭打者の役割を担う」との紹介がありました。
さらに、SNSで誰もが発信するようになったことで、流行り方についても変化が起こっていることに天野氏は注目。最近のラグジュアリーブランドのマーケティング戦略がSNSで広がっていることを例に、「旬ではやっている、熱狂的に受け入れられる」という状況(≒Hypeハイプ)が、今後、メディアの分散化やコンテンツのフラッグメント化でどのように発生していくのか興味があると述べています。
このように、天野氏からは情報メディアの進化が今後も進み、新しいテクノロジーが出てくる可能性が高いということを考えると「Co-Update」が必要であり、色々な価値観が移り変わる中で、生活者は、生活者とともにアップデートしていく企業を信頼し、逆にそこで失敗すると生活者とのコミュニケーションがうまくいかなくなる、という指摘がありました。"Co"には、「古い」という意味も含み、「Co-Update」には、古いものを新しくするという意味も込められているとまとめました。
中盤からテーマに沿ったディスカッションが行われました。
テーマ1「世界観」−Z世代に求められる重要な感覚−
長田氏は、世界観とは、SNSアカウントから読み取れる視覚的な系統であり、今の若者が大事にしているキーワードかつ、コミュニケーションのきっかけと指摘。Z世代では世界観を構成するために、洋服や行くカフェ、写真のポーズや加工方法などを変えており、消費行動にまで影響が及んでいる状況に触れ、若者には『この世界観にはこの商品が大事だから買う』という心理が働いていると解説。企業には、世界観から逆算した消費に合わせることが求められると述べています。
天野氏からも、企業やブランドが生活者からどう一貫した存在として見られるか、ということが非常に大事で、その一つとして世界観がどう見られているのか、生活者とマッチするのかが問われていることに言及。
これらの話を受け、渡辺は「ビジュアル(視覚的なもの)が共通言語」であることに触れ、「SNSやショート動画という時代になり、ビジュアル・コミュニケーションが出てきたことによって、生活者が世界観を自分で表現できるようになった。また、世界観という感覚、考え方が出てきて、ビジュアルの共通言語がより価値、機能を持つようになった」とまとめました。
テーマ2「朝のメディア利用」−Z世代で朝の動画視聴が増加−
続いて渡辺から、当社MCR/ex(全国7地区計、若年層(男女12〜29才))の自宅内のインターネット動画の利用行動率が紹介されました。
コロナ禍前と比較すると、朝6時台及び7時台のインターネット動画利用率の増加傾向が目立っている(図6)。動画視聴の目的や方法は、アフターコロナや生活習慣の変化に合わせて多様化。動画を見る際のスマホ画面の明るさで目覚める人や海外ドラマを時計代わりに使う人、夜更かしを防ぐために朝の時間に娯楽を楽しむ人など、それぞれのライフスタイルに合わせた利用があることが明らかになりました。
この結果から天野氏は、「コロナ禍で形成された生活習慣が定着していると感じられる。このようなインターネット動画の視聴状況を考えると、まとまった時間に見るもの、隙間時間に見るもの、また、視聴後に気に入ったものを調べる、という行動も含めて、企業やブランドは、コンテンツの出し分けやバリエーションをどうやって作るかの視点を大事にする必要がある」と述べています。
さらに、朝に限らず、時間の使い方に変化があるのかについては、長田氏から、109では映える空間や内装を沢山用意しているが、買い物だけでなく、SNSの動画を撮るような時間が増えている実感があることを報告。わざわざ感や一石二鳥感なども大事になっていると述べました。
「『生活者が何をしているか』というところを把握し入り込むと、新しい時間の価値やコンテンツのビジネスチャンスが生まれるかもしれない」(渡辺)と示唆しています。また、メディアや消費行動という視点に加えて、時間の使い方の変化や生活者自身の変化という点についても、新しい動きを見ていく必要があることも付け加えました。
テーマ3「企業と生活者の関係」−若者の発信力、熱量を味方にー
渡辺からは「世代による情報の捉え方や価値観の違い」や「若者の人口減少」を踏まえて、今後、企業と生活者はどのような関係性を築いていくのかと問題提起がありました。
長田氏は、少子化でZ世代の人口は減っていくものの、「今の若い世代は、SNSでトレンドを作る力や拡散させる力をネイティブに持っている世代」と評価しており、「企業は若者の発信力をいかに味方につけるかが大事」と述べています。さらに、「どの界隈の人と熱量を盛り上げていくかが大切」とポイントをあげました。
天野氏は、「情報の共有がもたらした消齢化」というキーワードをあげました。「消齢化」とは、情報共有の場が多くなったことで、様々な世代の価値観が似てきているということを意味しており、消齢化により、細分化しなくてもよい、オールジャパン的な市場も出てくる可能性もあると述べています。
渡辺は、「お客さんを深めるみたいな場合もあれば、年齢に関わらず広くとることができる場合もあるかもしれない。 色々な戦略をとれると思うが、こういった視点が企業と生活者の関係性の重要なポイントになってくる」とまとめました。
これからの生活者への展望−情報メディアの進化と人の価値観の相互連動に注視−
最後に、これからの生活者展望について、渡辺からは企業視点で大切なこととして、「企業は、AI・アルゴリズムが提示する情報の中に"自社のもの"を入れてもらう必要があり、もう一方で、生活者の『新しい時間』や『お金や労力の使い方』も見つけていく必要がある」と提起。
天野氏からも「AIのようなものがどれだけ生活に浸透するか。SNSで生活者が情報を発信し合うようになり、それはいいことではあるが、大きいムーブメント(Hype)が生まれにくくなっている」と現状の課題を指摘。「今後も、メディアの使い方と人の価値観は互いに連動しながら変わっていくと予想しており、そこで生まれる新しい課題に、ビジネスチャンスがあるだろう」と語りました。
長田氏からは、「ゲームやNFT、バーチャルの世界がより当たり前になっている世代が大人になって、どんなプラットフォームでどんなコミュニケーションが生まれるのか、ユーザー側とコンテンツ発信者側で認識をすり合わせるために、今後もより一層、生の声を聞き、研究をしていくことが大事になる」と述べました。
今後もAI・アルゴリズムなどの新しいテクノロジーにより新たなプラットフォームが生まれる可能性があり、それと連動して生活者のコミュニケーションや価値観も変化してきます。企業はそこでの新たなビジネスチャンスを見逃さないためにも、生活者に対する解像度をあげて把握していくことが非常に重要、との認識を共有し、議論を締めくくりました。
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