視聴率実践講座 〜 その14 〜毎分が対象の時点流出流入分析
※本記事は1998年に発刊したVR Digestに掲載されたものです。
流入流出分析を説明している途中で、話が長い間横道にそれてしまいました。話を元に戻したいとおもいます。
現在は視聴判定条件を設定した流入流出分析が主流となっていますが、もともとは毎分の時点を"2箇所"に決めて行うことが多かったのです。それは番組の開始前5分時点と開始後5分時点という分析時点設定でした。テレビのチャンネルの切り替えがダイヤル式であった時代は番組内におけるフリッピングが現代と違って非常に少なく、番組の開始前後の毎分時点間の分析で充分番組間の流入流出分析結果となっていたのです。また、当時は1時間以上のワイド番組が少なく、各局とも曜日毎タテに同じ様な番組編成であったことも背景にあります。
フリッピング(テレビ視聴の際に頻繁にチャンネルを切り替える行為)、ザッピング(テレビを視聴している時にCMになるとチャンネルを切り替える行為)、ジッピング(VTRにより録画された番組を再生視聴するときCMを早送りで飛ばす行為)、スイッチヒッティング(リモコンを駆使して2つ以上の番組を同時に楽しんでしまう行為)などという言葉は存在しなかった時代なのです。
「1家に1台から1人に1台のテレビセット」、「リモコンの普及」が日本人のテレビの見方を変えたのに加えて、視聴率分析に関しても視聴判定の工夫を要する、容易ならぬものにしたのです。
さて、いずれにしても過ぎていく時間の軸に対して、視聴世帯(者)が如何なる視聴行動をとっているのかを見極める為の視聴率分析手法が「流入流出」なのです。毎分を対象とする「時点」の流入流出と、番組・時間帯を対象とする「視聴判定を要する」流入流出の2種類があるということになります。
今号では毎分の「時点」の流入流出分析をご紹介したいと思います。
事例として'98年4月27日(月)のNHK朝の連続ドラマ「天うらら」の番組の開始前後の毎分時点を対象として分析してみることにします。
分析の対象としては「天うらら」が始まる少し前の8時13分から開始後の18分までとしました。(4月27日"単日"の分析ですから毎分到達率=毎分視聴率ということになります。)まず、世帯のデータからみてみましょう。
表−1の毎分時点別のデータをみると、到達率のほとんどが自局継続しており、NHKにチャンネルを切り替えた世帯がその後はほぼそのまま「天うらら」をみているということになります。次に他局・OFFからの流入流出の状況をみると「天うらら」への流入が流出を大きく上回っていることがわかります。しかし流出量のスコアも決して小さくはなく、あたかもリモコンでチャンネルの切り替えが行われているような感を呈しているとも言え、前述の「NHKに切り替えた世帯がその後はほぼそのまま...」というコメントと矛盾してしまうのですが、原因は世帯内のすべてのテレビセット同士の動きをカウントしてしまうことにあるのです。(詳しくは実践講座〜その7〜を参照して下さい。)
同様の分析をPM個人全体データでみてみることにしましょう。
視聴判定の必要のない毎分時点の分析であることから、そして個人データの場合ひとりの人が1つの毎分時点しか見ることしか出来ないことから、流入流出の関係は世帯と違ってマルチ化しません。
表−2の分析結果をみると、毎分時点毎の流出データが小さく、到達率がほぼそのままの量で次の時点に継続していることから、ここでははっきりとNHKにチャンネルを切り替えた人はその後はそのまま「天うらら」を見ているということができます。
今回はNHKの事例で説明しましたが、毎分時点間の涜入流出の分析は昼間のワイド番組、報道番組などを分析する上で欠かせない手法なのです。これらの番組は一般的に放送分数が長く、そして編成的には各局同じ時間帯に放送されています。そのために視聴者側の恰好のスイッチヒッティングの対象となっているのです。
毎分時点の流入流出分析を行うことにより、自局の番組の部分毎の強弱を毎分単位で判別することが出来るのです。
(本社 テレビ調査部 加納永一)