視聴率実践講座 〜 その19 〜MCR、ACRなど分析方法&データいろいろ
※本記事は1998年に発刊したVR Digestに掲載されたものです。
先月号に引き続き最終回の"つづき"をお送りしたいと思います。
番組・時間帯などの分析の際に参考にしたり、背景のデータとして使えたり、時には決定的な結論を導き出すことのできる周辺データが当社にはいくつかあります。「ACR」「番組カルテ」「MCR」「子供調査」などの定期的に行われている調査です。これらの調査の"視聴率"の部分は短い期間であったり、視聴者の意識レベルの番組接触データであったりしますが、各々の調査がそれぞれに違う視点に基づいて設計されており視聴率の形成要因を探るためのデータの宝庫となっています。
特に関東地区で実施されている「番組カルテ」は番組の健康診断に欠かせないデータなのです。番組のクリエイティブ・編成・制作面を含めた質的な評価や放送枠の枠環境などを知ることができます。制作者が意図しているターゲットの番組に対する評価、視聴スタイルの評価などです。そして、クリエイティブ評価に関しては番組ジャンル毎に違う質問項目で調査しています。
例えば、仮にある制作者が『朝の7時台の帯番組で主婦を狙った1話完結の1時間(54分間放送)ドラマ』を企画放送したとしましょう。主演は当社「タレントイメージ調査」No.1タレントをヒーロー、ヒロインに起用し、原作は納税者ランク1位の作家のもの、脚本も超有名どころにお願いするという設定にしましょう。
まずは世帯視聴分析の中の視聴分数分布分析を施すと、50分以上の"しっかりと見る"視聴と、1〜4分の"つまみ食い"視聴に二分された結果が想定されるのです。「番組カルテ」のデータの中で際立って高いスコアを示すのが編成、制作部分の"番組放送時間帯の是非"の質問項目です。制作者側が狙ったターゲットである主婦の殆どは朝7時という時間帯を"NO"とするのです。また、この時間帯の枠環境データをみるとテレビに集中している主婦は非常に少ないことがわかります。
一方、視聴者の"ストーリー、脚本が良い""主演タレントが良い"などの評価では突出した良いスコアを示します。そして、主婦を対象に番組のグループインタビューやホールテストで意見を聞くと、彼女たちの生の声としては"朝は忙しいので自分たちがじっくりとテレビを見ることのできる時間帯に番組を枠移動して欲しい"ということに終始することが予想されます。やはりNHK朝ドラの"15分"が長さの限界というところでしょうか。
というように、「番組カルテ」は視聴率分析結果と視聴者の生の声の橋渡しの役割を果たしているデータであるとも言えます。特に、クリエイティブ評価と枠環境データを視聴率分析とリンクさせてみることにより生活者(視聴者)の番組に対する視聴態度が鮮明に浮かび上がってくるのです。
次に「ACR」です。「ACR」の特長は実際の視聴番組と番組噂好を検索できることにあります。番組噂好と時間帯別テレビ視聴者のクロスデータを見ることにより、見られる可能性の高い番組ジャンルを発見することができます。また、番組視聴率についてデモグラフィック分析にとどまらないいろいろなプロフィールを知ることができます。他媒体の接触状況、商品所有、本人の考え方など、様々な視聴者プロフィールがわかります。特に企画がセグメント化された小さなパイの視聴者の確保を狙う番組の場合には欠かせないデータです。
MCR(Media Contact Report=メディア環境調査)は生活者の日々の行動とメディアへの接触状況や意識がデータべ−ス化されており、行動に応じた効率的なメディア戦略を構築することができます。生活者のテレビへのかかわり方に即したテレビ番組企画・番組編成には欠かせないデータであると言えます。
このように当社では視聴率に関するデータを取りそろえ、分析できる環境を整えています。最近話題のBSデジタル放送、地上波デジタル放送にも対応しています。デジタル放送はハードの仕組みが新しくなることで、番組内容そのものが変わるということではありませんが、多チャンネルという新しい視聴環境が生まれます。多チャンネル化になっても、1日24時間の中でテレビを見ることのできる時間は限られており、今のテレビ視聴意向と大きく変わることはなさそうです。個人で視聴するチャンネル数は、平均7チャンネル程度と分析されています。チャンネル数が増加しますから、それに対応した見やすいデータフォーマットの開発が必要となるでしょう。チャンネル数が多いため視聴率は分散しますから、その発表方法は変更されるかもしれませんが、これまでのデータの蓄積、調査の方法が全く変わってしまうことはないでしょう。
(本社 テレビマーケティング部 加納永一)