若者と広告コミュニケーション 若者好みのテレビCMとは 〜 TV-CM KARTEデータによるクリエイティブ分析〜
※本記事は2015年に発刊したVR Digestに掲載されたものです。
インターネットの普及と共にSNSなど新たなメディアやサービス、ツールが広がっていますが、マス市場を狙った商品の多くはテレビCMを中心としたコミュニケーション活動を行います。一度に多くの生活者に同一メッセージを届けられるメディアは、他には存在しないからです。 では、そもそも若者に効くテレビCMとはどのようなものなのでしょうか。当社のCMクリエイティブ調査「TV-CM KARTE」(関東地区)の蓄積データを使い探ってみます。ここではテレビ視聴率の基本ターゲットである若年層の男女20?34才と、その上の35?49才、50?59才(以下、男女中高年層)の間にどのような違いがあるかを見ていきます。
【分析の流れ】
分析対象としたのは、2012年1月〜2014年11月に調査されたCM 素材です。業種間での指標水準の差が結果に影響を与えないように、食品・飲料CMの1467素材に絞りました。
今回の分析は以下のようなステップで行いました。
1.若年層と中高年の各層で好まれるCMを特定する
2.各層で特徴的に好まれるCMを抽出する
3.各層に特徴的に好まれるCMのクリエイティブ評価を比較し、若者に特有の傾向を確認する
それぞれのステップを男性を例にご説明していきます。
1.各層で好まれるCMを特定する
まず、男性の若年層、中高年それぞれで「好まれるCM」を特定します。「好まれる」の定義として、今回はCM認知率とCM好意度(CM認知者ベース)を使用しました。CMは認知されて初めて力を発揮できるという点と、CMに対して好意を持つことは商品への興味や購入意向を喚起させる前提条件として欠かせないという点からです。
CM認知率とCM好意度のいずれも、性年代によって水準が異なります。そのため、「男性若年層に好まれるCM」を特定するには、素材ごとに男性若年層のNORM値と照らし合わせて上回ったかどうかを確認します。また、CM認知率は出稿量によって大きく変わるため、出稿量も加味したNORM値を使います。今回はふたつの指標ともNORM値を5ポイント 以上上回ったCM素材を、その層で「好まれるCM」と定義しました。【図表1】の右上の四角に入るものがそれにあたり、記憶に残り、かつ覚えている人の中で好印象を持たれる CM素材ということになります。
男性若年層では、このステップで全1467素材中348本(24%)が「好まれるCM」と特定されました。その他の年齢層でも全素材の25%程度が「好まれるCM」という結果になっています。
2.各層で「特徴的に」好まれるCMを抽出する
次に、それぞれの「好まれるCM」を比較し、特徴的なCM素材を抽出します。若者好みのCM素材を特定するためには、男性若年層に好まれるCMの中から、中高年にも好まれているものを除外します。残ったものは「若年層にのみ好まれるCM」であり、若者の心に届く要素を兼ね備えたクリエイティブといえるでしょう。
この手順を図示したのが【図表2】です。
素材A〜Dが各層で図のような位置にプロットされたとします。男性若年層では素材Aと素材Bが「好まれるCM」となっていますが、男性中高年では素材Aは「好まれるCM」になっていません。つまり、この素材Aは男性若年層にのみ「特徴的に好まれている」ということです。
一方の素材Bは、男性若年層だけではなく、中高年でも右上の「好まれるCM」の位に入っており、どの年齢層でも好まれているということになります。また、素材Cは男中高年の35〜49才のみで右上の四角の中に位置し、この層に特徴的に好まれているCM素材として抽出されます。
それぞれの性年齢層でこのようなステップを経た結果、分析対象の全1467素材のうち男性若年層で73本、女性若年層で65本が「特徴的に好まれるCM」として抽出されました【図表3】。その他の年齢層でも全体の5〜7%程度が特徴的に好まれるCMとなりました。
<男性>カルピス「カルピスソーダ 走れ!宇宙部編(長澤まさみ)」 キリンビール「のどごし生 プロレス編(長州力、長州小力)」マースジャパンリミテッド「スニッカーズ ロッケンロール編(内田裕也)」日清食品「カップヌードル 現代のサムライ編」日本コカ・コーラ「ジョージア 男ですみません。編」
<女性>大塚食品「マッチ プール編(手越祐也)」サントリー「ペプシスペシャル 恐竜たち 授業トクホ編」日清食品「カップヌードル SURVIVE!就職氷河期編」ファンケル化粧品「カロリミット」森永製菓「ダース 後輩ダース編(宮崎あおい)」
3.若年層に特徴的に好まれるクリエイティブ傾向
では、若年層で特徴的に好まれるCMにはどんな傾向があるでしょうか。ステップ2で年齢層ごとに抽出された「特徴的に好まれるCM」について、クリエイティブ要素の印象度の平均値を比べたのが【図表4】です。
「タレント・キャラクター」が最も高いというのは男性3層に共通しています。若年層で顕著なのは「話の流れ・ストーリー」(30.0%)で、中高年との差も大きくなっています。このことから、男性若年層に特に好まれるクリエイティブは、CMの中での話の展開やストーリーの印象が強く残るものだといえます。また「音楽・BGM・効果音」も同じ傾向を示しており、若年層向けにはサウンドの要素も重要ということがわかります。
逆に「商品・サービスの具体的な機能・特徴」は男性若年層では11.9%にとどまっており、男性50〜59才の17.1%とも5ポイント以上の開きがあります。若年層に特徴的に好まれるCMではこの要素の印象度が低いということは、細かな商品説明をするCMクリエイティブは男性若年層にはあまり好まれないと言えそうです。
女性の年齢別の比較でも、若年層は「話の流れ・ストーリー」「音楽・BGM・効果音」が中高年よりも高く、男性と共通の傾向が見られました。
次にCMイメージ評価のポジティブ項目について、各層で特徴的に好まれているCMの平均値を見てみましょう【図表5】。
若年層が中高年より顕著に高いのは「新鮮な、印象的な、心に残る」と「面白い」の4つです。いずれもクリエイティブのインパクトや面白さを示す項目で、こうしたイメージを感じさせるクリエイティブの方が若者好みだということがわかります。
一方で、「親しみのある、共感できる」という親近性・共感イメージや、「わかりやすい、説得力のある」といった理解・説得イメージは若年層では低くなっています。つまり、親しみやすいタレントが商品の機能・特徴を説明するといったオーソドックスなCMクリエイティブでは、彼らには響きにくいと思われます。
こうした若年層で見られる傾向は女性若年層にも共通しており、若者を狙ったCMクリエイティブで気をつけるべきことが垣間見えます。
若年層に好まれる CM 実例
ここまで、若年層好みのCMクリエイティブの傾向を要素印象度とイメージ評価から見てきました。それだけ見ると、「若者向けには斬新なストーリーとにぎやかな音楽を使ったコミカルなCMクリエイティブがふさわしい」と結論付けてしまいそうですが、実際にはどうなのでしょうか。若年層に特徴的に好まれる実際のCM素材を男女1例ずつ見てみましょう。
■男性
男性の若年層で「特徴的に好まれる」1本となったのは江崎グリコのポッキーのCMです。 これは、2012年9月に始まった嵐の二宮和也が出演するシリーズCMの3作目にあたります。分け合う心を持たないために悪魔に変えられてしまったデビルニノが、様々な場面で人の優しさに触れ、そのたびに思わずポッキーを分け合ってしまう様子が描かれます【図表6】。
この CM では、
- 人間に毒づいていたデビルニノがポッキーを分け合ってしまうというストーリー展開
- 悪魔が工事のおじさんとベンチで相合傘をしているというコミカルな様子
- "レッツ・シェア"というシンプルなメッセージという組み合わせで印象的です。
CM評価を見ると、若年層では「話の流れ・ストーリー」印象度が45.2%で男性中高年の35〜49才(29.8%)、50〜59才(36.8%)よりも高くなっています。ストーリーの中の「セリフ・ナレーション」も若年層でより強い印象を残しています。また、「新鮮」「面白い」というイメージが突出しており、若年層男性にインパクトを感じさせるCMであったことがわかります。
人気タレントをそのまま使うのではなく、悪魔を演じさせるという意外性があり、さらにその悪魔がストーリーの中では見る者に愛嬌も感じさせます。そして、「レッツ・シェア」というメッセージをタレントが直接語るのではなく、コミカルなストーリーで間接的に表現されるところが若者好みの1本となった理由ではないでしょうか。
ポッキーは認知率が98%*を超える誰もが知っているブランドで、CMの中で商品説明をする必要はありません。逆にロングセラー商品なだけに、若年層にも浸透するようにイメージや価値を維持・更新していくことが重要だといえます。ポッキーのCMはインパクトと面白さのあるストーリー仕立てのクリエイティブによって、その難しい課題をクリアし、CM認知率とCM好意度を両立させた若者好みのCMになり得たのだと思われます。
*「TV-CM KARTE」 2013 年 2 月調査にてブランド認知率98.1%(男女13〜59才)
■女性
女性若年層での実例は「明治おいしい牛乳」のCMです。ターゲットを絞り込んだ商品ではありませんが、【図表7】で示されているように女性若年層でのみ右上に位置し、「特徴的に好まれるCM」の1本となりました。
CMクリエイティブの特徴としては、
- 冷蔵庫に牛を飼っているという意外な設定
- 明るいトーンで覚えやすいリズミカルな音楽
- 牛乳の新鮮さをナレーションやセリフで説明するのではなく、映像とストーリー展開で表現といった点が挙げられます。
このクリエイティブに対して、女性若年層の「話の流れ・ストーリー」印象度は58.8%とCM認知者の約6割に達し、中高年層と大差がつきました。CMイメージではインパクトを示す「新鮮な、印象的な、心に残る」や「面白い」が女性中高年よりも相対的に高くなっています。特に「面白い」は35.3%で女性若年層の中ではもっとも強いポジティブイメージになっています。
男性若年層のポッキーの実例での「レッツ・シェア」と同様に、この作品でも訴求メッセージ自体は「新鮮さ」というシンプルなものです。CMを構成しているものも親子、牛、冷蔵庫、飲むという牛乳のCMとしてはオーソドックスな要素といえるでしょう。しかし、その伝えたいメッセージを「冷蔵庫に牛」という意外性のある展開に乗せたことで、若年層により強いインパクトを感じさせたのだと思われます。商品自体に派手さはなくても、CMクリエイティブで若年層に印象付けられた好例といえます。
今回は過去3年分のデータから、若者が好むCMクリエイティブ特徴を見てきました。ストーリー性があり、新しさが感じられたり、それ自体を楽しめるCMが好まれることが浮かびあがってきました。これが今の若者の傾向なのか、あるいはいつの時代の若者も楽しくインパクトがあるCMが好きなのか。今回の傾向をさらにさかのぼったデータと比較することで、そうした時代による変化を探ることもできます。それはまた別の機会にお伝えできればと思います。
※ CM 画像は江崎グリコ(株)、(株)明治の許諾を得て掲載しています