広告のメディア出稿配分を考える(前編)~ACR/exを用いた簡易的な出稿配分分析~
※本記事は2017年に発刊したVR Digestに掲載されたものです。著者の所属部署は当時。
メディア接触実態が刻々と変化する現在、最適な広告のメディア出稿配分への関心はますます高まっています。従来、メディア出稿配分を考える場合は、例えば広告効果検証調査(当社ではカスタムキャンペーンカルテ)を複数回実施し、ケースを積み重ね、そこから統計的な解析モデルを用いて出稿配分モデルを構築することが一般的です。一方で構築には以下のような課題があります。
<メディア出稿配分モデル構築上の課題>
1.時間がかかる
広告効果を個別に調査し知見を貯めるまで待てない
2.結果が偏る
自社の個別ケースの積み重ねに基づく結果というバイアス
3.理解できない
モデル作成プロセスが難解で社内理解が得にくい
そこで、当社の生活者データベースである「ACR/ex」を用いて各広告メディアの推計広告効果を作成し、それをもとに最適な出稿配分比を算出する方法を考案しました。この分析では、上記3点の課題を克服し、簡易的に出稿配分比の目安を確認することが可能です。加えて、次のようなメリットがあります。
<ACR/exを用いた出稿配分分析のメリット>
■広告メディア以外の予算配分も検討できる
店頭やWebの記事などへの配分も検討可能
例...店頭の販促費/WebのSNSや企業・ブランドサイトにかける費用
■エリアごとで予算配分を分析できる
主要7地区のデータを完備、同一条件で実施可能
■任意のターゲット設定が可能
ACR/ex意識項目等を用いて、ターゲット設定は無限に可能
この考え方を応用することで、広告メディアの出稿配分に留まらず、販促費と広告費のバランス検討やエリアごとの出稿配分比の検討、よりターゲットを絞り込んだ場合の理想的な広告戦略のあり方検討など、様々な予算策定場面で活用頂けます。ここでは、ACR/exを用いた簡易的な出稿配分分析の考え方と、その事例を実際のデータを用いてご紹介させていただきます。
そもそも「広告効果」とは・・・
メディア出稿配分の根拠となるものは広告効果であり、広告効果を最大化するように出稿金額を配分することがメディア出稿配分のゴールといえます。では、「広告効果」とは何か?当社では、広告効果を認知力(広告認知率)と態度変容力(広告をみた人のその後の気持ち・行動の変化)の掛け合わせと定義しています【図表1】。ある広告の認知力が90%と高くても態度変容力が10%だった場合、その広告の市場全体への影響は90%の10%=9%となります。同様に、認知力が10%と低くても態度変容力が90%であれば市場全体への影響は10%の90%=9%となり、両者の市場への影響は等しいといえます。「広告効果」とは、この市場への影響(つまり全数ベースの態度変容力)を意味します。
広告効果を推計する試み
通常、広告効果の測定は、当社の「カスタムキャンペーンカルテ」のような都度の広告活動の振り返り調査を用いて実施します。このケースを積み重ねることで、メディア出稿最適配分モデルを構築することができます。当社では30ケース以上の積み重ねを推奨していますが、蓄積を待つことは容易ではありません。そこで、広告効果を構成する『認知力』『態度変容力』を、既に存在する生活者マーケティングデータ「ACR/ex」を用いて推計することができないかを、検討しました。
① 認知力の推計
一般に広告の認知力は、そのメディアのリーチに比例する傾向があります。そこで、出稿する各広告メディアのリーチを認知力のポテンシャル、推計認知力としました。各広告メディアのリーチはACR/exのメディア日記式データから算出することができ、例えば「雑誌」といったメディアのくくりだけでなく、より現実的に出稿を検討できるビークル・コンテンツレベルで認知力を設定することが可能です。
② 態度変容力の推計
本来は実際出稿した広告への反応としての「広告をみたときの気持ちや行動変化」を充てますが、ここではACR/exの購買プロセス別情報入手経路のスコアを態度変容力のポテンシャル、推計態度変容力としました。購買プロセス別情報入手経路は、商品サービスのカテゴリごとに「新情報認知」「欲求喚起」「詳細検索」「購入時影響」の4ステップで情報を入手する経路を広告やその他情報源も含めて取得したものです。例えば「欲求喚起」の場合、『あなたが商品やサービスを欲しい・利用したいと思うのは、何を見聞きしたときが多いですか』という質問で、提示した広告を含めた約30もの情報源のうちあてはまるものを回答するものです。
上記の推計認知力と推計態度変容力を掛け合わせることで、広告メディアごとに広告効果のポテンシャル、推計広告効果を算出することができます。これを各メディア全て足し上げ構成比にすることで、各メディアのポテンシャルウェイトに応じたメディア出稿構成比を簡易的に算出することが可能になります。
出稿配分事例については後編をご覧ください。