KPIの設定方法をデータサイエンティストが解説~3つの条件と、製品カテゴリーごとの検討方法~

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広告・マーケティング
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KPIの設定方法をデータサイエンティストが解説~3つの条件と、製品カテゴリーごとの検討方法~
この記事はこんな方にオススメ!
  • マーケティングのKPIの適切な設定方法を知りたい方
  • KPIの測定をマーケティング施策のプランニングに活用したい方
  • マーケティング・コミュニケーションの効果測定の方法を知りたい方

1.KPIとは?設定に必要な3つの条件

KPIという言葉はマーケティングの実務にすっかり定着しました。現在ではさまざまな指標が測定可能になり、KPIを設定してその推移を追跡することが一般的になっています。一方、多くの指標が存在する中で、どの指標をKPIに設定すべきか分からないという悩みをよく耳にします。むやみに多数のKPIを追うことは、マーケティング業務の複雑化や非効率化を招きます。したがって、適切なKPIを設定することはマーケターにとって重要な課題です。

1-1.KPI設定の目的とKPIの定義

KPIは「Key Performance Indicator」の略で、日本語では重要業績評価指標と訳されます。「目標達成のための中間指標」、「業績評価のための指標」などと説明されることが多いですが、その意味するところはあいまいです。ここでは、KPIを設定する目的から、その定義と条件を整理しておきます。

まず、マーケティングでKPIを設定する目的は、マーケティングの成功のために個々のマーケティング施策がうまく進んでいるかを確認し、施策を改善することです。PDCAサイクルでいえば、C(Check)のフェーズで使用される、施策の良し悪しを判断するための定量的な指標ということです。したがって、マーケティングのKPIは、マーケティングの成功のために、マーケティング施策の適切性を評価し、マーケティング施策を改善するための定量的な指標と定義できます。

1-2.KPI設定に必要な3つの条件

では、KPIの指標に求められる条件とは何でしょうか。

  • 条件1 適切なタイミングで計測が可能なこと(計測可能性)
  • 条件2 成果と強く関係していること(成果との関連性)
  • 条件3 施策と強く関係していること(施策との関連性)

その1つは、適切なタイミングで計測が可能なこと(計測可能性)です。計測できなければマーケティング施策を評価できないので、これは当然の条件です。意外と見落とされがちなのが「適切なタイミング」という部分です。例えば、年に1回しか計測できない指標では、KPIに採用できません。マーケティング施策のPDCAサイクルのタイミングに合わせて計測できることが重要になります。

2つ目の条件は、成果と強く関係していること(成果との関連性)です。成果とはマーケティングの目的の達成度合いのことで、成果を測定する指標はKGI(Key Goal Indicator)と呼ばれます。例えば、マーケティングの目的が市場シェアの拡大なら、KGIは市場シェアになります。KPIによる施策管理の目的は、マーケティングの成功確率を高めることです。したがって、KPIの改善がKGIの向上に繋がる必要があります。

3つ目の条件は、施策と強く関係していること(施策との関連性)です。KPIはマーケティング施策の適切性を評価するための指標です。したがって、施策の良し悪しとKPIの指標が連動する必要があります。施策の良し悪しとKPIの指標が連動しなければ、どのように改善すればよいかの分析もできないでしょう。

2.適切なKPIはさまざまな状況で変化する

マーケティング・コミュニケーションの分野では、AIDMAや購買ファネル(*)など、KPIの設定に関する議論が古くから行われてきました。よく使われるKPIとしては、広告再認、広告再生、広告好意、ブランド再認、ブランド再生、ブランド好意、ブランド・イメージ、購入意向などが挙げられます。近年では、指名検索数やサイトアクセス数などのデータも広く利用されるようになりました。

このようにKPIに利用される指標は多岐にわたりますが、適切なKPIは製品カテゴリーやブランドの浸透度などによって変化します。これは、KPIの2つ目の条件である「成果との関連性」が、製品カテゴリーやブランドの浸透度などによって変化するからです。例えば、購買前に詳細な製品情報を確認する製品では、サイトアクセス数がKPIの候補になるでしょう。一方、店頭で時間をかけずに選択する製品では、サイトアクセス数をKPIにすることは不適切かもしれません。「計測可能性」や「施策との関連性」を満たしやすいサイトアクセス数はKPIに設定されることが多いですが、「成果との関連性」がなければビジネス上の意味はありません。

*関連記事:「入門 マーケティングファネルとは?」 今さら聞けない!基本の『キ』

2-1.製品カテゴリーごとにKPIを検討する

当社の「KPI探索ラボ」では、最適なKPIを探索し、広告効果を最大化するための活動を行っています。ここでは、「KPI探索ラボ」で行った実験調査(調査概要は文末参照)の結果を紹介します。この調査では、26カテゴリーの製品を取り上げ、製品の購買前に参照した情報源を回答してもらっています。成果に繋がるKPIを直接調査しているわけではないですが、26カテゴリーの情報源を比較することで、各カテゴリーに必要なKPIを検討することができます。

図表1は、各製品カテゴリーの情報源をコレスポンデンス分析(*)で可視化したもので「カテゴリー別KPI探索マップ」と呼んでいます。情報源と製品カテゴリーは別々の図で表現しています。

*コレスポンデンス分析:多くの変数の関係をマップ上に可視化するための手法です。似た回答傾向を持つ項目同士が近くにプロットされます。

まず、情報源の図から軸の解釈を行うと、横軸は購買前に詳細に情報を検索するかどうかを表す軸と解釈できます。具体的には、右に行くほど商品サイトや比較サイトで詳細に情報を検索することを、左に行くほど記憶内の情報や店頭の情報で購買を決定することを表しています。一方、縦軸は世間の評判を参照するか、専門家の意見を参照するかを表す軸と解釈できます。具体的には、上に行くほど世間の評判を参照することを、下に行くほど専門家の意見を参照することを表しています。

図表1
製品カテゴリーと情報源のコレスポンデンス分析(1)情報源マップ

製品カテゴリーと情報源のコレスポンデンス分析 (2)製品カテゴリーマップ

次に、製品カテゴリーの図で、横軸と縦軸をそれぞれ見ていきましょう。

横軸:「検索」が重要か「記憶・店頭」が重要か
右側には「国内・海外の旅行案内サービス」、「スマートフォン・タブレット端末」などがプロットされています。これは、これらの製品が購買前に詳細情報が検索される製品であることを表しています。したがって、指名検索数やサイトアクセス数がKPIの候補になります。一方、図の左側を見ると、「ビール・発泡酒・新ジャンル」、「ハブラシ・ハミガキ」などがプロットされています。これは、これらの製品が店頭で時間をかけずに購買される製品であることを意味しています。したがって、店頭で思い出されやすいこと、店頭で目立つことが重要になります。KPIとしては、ブランド再生が候補の1つになるでしょう。

縦軸:「世間の評判」が重要か「専門家の意見」が重要か
図の上部には、「メイクアップ化粧品」や「ファッション関連」などがプロットされています。これらの製品は、世間の評判が購買に影響する製品です。したがって、ネット上のクチコミの量や質に関する指標がKPIの候補に挙げられます。また、図の下部には、「生命保険・医療保険」や「自動車」などがプロットされています。これらの製品は、専門家やリードユーザーの意見が参照される製品です。専門家やリードユーザーの意見が参照される製品では、マーケティング・コミュニケーションはあまり役に立たないと思われるかもしれません。しかし、ブランド認知を高めておくことは非常に重要です。なぜなら、認知されていない製品は、そもそも専門家やリードユーザーに意見を求めないことが多いからです。

<製品カテゴリーごとのKPI候補>

・「国内・海外の旅行案内サービス」「スマートフォン・タブレット端末」
⇒購買前に商品情報が検索される製品なので、指名検索数、サイトアクセス数

・「ビール・発泡酒・新ジャンル」「ハブラシ・ハミガキ」
⇒店頭で時間をかけずに購買される製品なので、ブランド再生

・「メイクアップ化粧品」「ファッション関連」
⇒世間の評判が購買に影響する製品なので、ネット上のクチコミの量や質

・「生命保険・医療保険」「自動車」
⇒専門家やリードユーザーの意見が参照される製品なので、ブランド認知

2-2.KPI設定時の注意点

注意したいのは、図表1はあくまでも製品カテゴリー間の相対的な関係を表しているということです。例えば、「スマートフォン・タブレット端末」における購買前の参照情報源のスコアを図示すると、図表2になります。コレスポンデンス分析の結果の通り、平均と比較して「比較サイト検索」や「商品サイト検索」のスコアが非常に高いです。一方、「広告」のスコアも高いことが分かります。これは、検索による詳細情報の検討だけでなく、広告によるブランド認知やブランド好意の形成も重要であることを示唆しています。ブランド認知やブランド好意が形成されていなければ検索もされないことを考えると、この結果は当然のように思います。このように、KPIは複数あることが普通です。したがって、「計測可能性」が高いからといって、データを取得しやすい指標にKPIを絞り込むことは避けた方がよいでしょう。

図表2
スマートフォン・タブレット端末の情報源

3.KPIの活用のために重要なこと

適切なKPIを探索することは、前述した3つの条件(計測可能性、成果との関連性、施策との関連性)を満たす指標を見つけ出すことに他なりません。この作業を行うためには、成果に関する指標、KPIの候補の指標、施策に関する指標を統合したデータを作成し、指標間の関係を特定する統計モデル(MMM, Marketing Mix Modelingと呼ばれています*)を構築する必要があります。このとき、「計測可能性」を満たさない指標はデータ化できないので、実際には「成果との関連性」、「施策との関連性」を検証する作業になります。

統計モデルの構築という観点では、信頼できるモデルを構築することが重要になります。具体的には、データの特性を確認して適切な手法を選択すること、KPIや成果指標の予測精度が高いモデルを構築することが重要です。一方、PDCAの観点では、構築したモデルが意思決定に活用できることが重要になります。マーケティングの成功確率を高めるために、マーケティングの施策を改善することが目的だからです。そのために必要なことは、施策のレベルに合わせた粒度でデータを整備することです。例えば、曜日別の出稿量の配分を検討したいときに、週次や月次の広告出稿量のデータでは対応できません。

広告のメディア・プランニングでいえば、施策とデータの対応は下記のイメージです。

○広告ターゲットの検討 →  ターゲット別の出稿データ
○メディア配分の検討 →  メディア別の出稿データ
○出稿タイミングの検討 →  曜日別や時間帯別の出稿データ

また、クリエイティブ・プランニングでいえば、施策とデータの対応は下記のイメージになります。

○広告メッセージの検討 →  メッセージタイプ別の出稿データ
○広告表現の検討  →  広告表現別の出稿データ

KPIを追跡してもうまく活用できない原因のほとんどは、施策データを適切な粒度で整備することができていないことにあると考えられます。分析する段階になって過去の施策データを収集、整備しようとしても、莫大な時間とコストがかかることが多いです。したがって、KPIを追跡してマーケティング施策の改善に活かすには、KPIの測定に並行して、できるだけ細かい粒度でマーケティング施策のデータの整備を行っておくことが重要です。粒度の細かい施策データを揃えておくことが、PDCAを効果的に機能させるための要件になるということです。

*関連記事:はじめてのMMM(マーケティング・ミックス・モデリング)〜Z世代データサイエンティストが解説〜

4.ビデオリサーチでは適切なKPI設定をお手伝いしています

ビデオリサーチでは、適切なKPIの設定をお手伝いすることで、広告効果の最大化を目指す「KPI探索ラボ」の活動を行っています。KPI設定のために必要な統計モデル(MMM)の構築のみならず、さまざまな粒度での広告データのご提供、KPIの継続的な収集、メディア・プランニングやクリエイティブ・プランニングのための分析もサポートしています。ご興味をお持ちいただけましたら、お気軽にお問い合わせください。

【実験調査の概要】
調査名称:KPI探索ラボ自主調査
調査方法:インターネット調査
調査時期:2023年11月
調査対象:男女15~69歳(中学生は除く)
サンプルサイズ:約400~1,000サンプル(製品カテゴリーによって異なる)
対象地区:全国

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