アニメなど"売れるIP"を予測する「コンテンツポテンシャル」の考え方~潜在顧客ニーズを加味したアニメIPの投資判断事例~
- この記事はこんな方にオススメ!
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- コンテンツビジネスにおけるIP選定・IPへの投資判断を、データをもとに行いたい方
- 原作マンガのアニメ化を考えているがどの作品が良いか迷っている方
- IP・アニメ作品のグッズ展開にお悩みの方
IP選定・投資判断の成功確率を高めるカギは「コンテンツポテンシャル」
知的財産(IP:Intellectual Property)を利用して、ライセンス使用料などの収益を得る「IPビジネス」がここ数年で話題になることが増えたように感じます。アニメや、その実写化、ゲーム、グッズなど展開は多岐にわたり、IPビジネスに携わる人も増えたのではないでしょうか。
また、IPビジネスにおいて、より"売れるIP"の選定や投資判断をする際に、原作マンガの発行部数やSNSのフォロワー数など"すでに顕在化している"ファンの数を判断材料にすることで、成功確率を高めようとする場面は多くあるのではないでしょうか。
ビデオリサーチでは、そのような顕在的なファンのみならず"潜在的に"ファンになりうる人や、グッズ・コラボ展開を見据えた収益増大、商品展開も加味して「IPのポテンシャルを数値化する」というアプローチを検討しています。それを「コンテンツポテンシャル」と表現して、IPの選定や投資判断に役立つデータになるよう研究を重ねています。
本記事では「コンテンツポテンシャル」について、IPの「アニメ化」を想定しながら具体例を用いて解説していきます。
盛り上がりの続く、アニメ作品
『鬼滅の刃』や『呪術廻戦』、『【推しの子】』など、近年アニメ作品が盛り上がりをみせています。
ビデオリサーチが保有する日本最大級の生活者データベース「ACR/ex」にて好きなテレビ番組のジャンルを時系列でみてみると(図1)、「国内ドラマ」は大きな変化がない一方、「アニメ」の割合は年々高くなっており、アニメ作品の盛り上がりをうかがい知ることができます。
また、性年代別でもみてみると、10~20代の若年層における"アニメ好き"は大きく変わりありませんが、30~50代においてもアニメが好きな人が増加傾向にあり、子どものみならず大人もアニメを楽しんでいる様子がうかがえます。(図2)
さて、アニメの盛り上がりは前述のとおりですが、みなさんはどのようなことを基準に「見たいアニメ作品」を選びますか?
ビデオリサーチで実施した、アニメなどのコンテンツへの関わり方を調べた「コンテンツに関する自主調査」の結果から、アニメ作品を選ぶ基準のうち最も重視しているものをみると(図3)、2位に「原作」がランクインしています。一方、ドラマ作品を選ぶ基準では「原作」は4位となっており、アニメの方がより原作を重要視していると言えそうです。
アニメでは、「キャラクターデザイン・絵柄」といった原作に関係する要素も3位にランクインしていることから、アニメ作品選定の際に原作が大いに影響していることがわかります。
これらのことから、アニメ化を検討する際には、その原作がアニメ化したらどのくらい見たいと思ってもらえそうか(ポテンシャルがどのくらいありそうか)が重要になると考えられます。
原作の認知度や好意度を確認してみる
ここからは、ある原作「A」と「B」、どちらをアニメ化するかを検討中だが、どちらにすべきかの決め手を探している、というシチュエーションでコンテンツポテンシャル分析を進めてみます。
まずは、原作の認知度と好意度を見比べてみます。
図4はコンテンツポテンシャルの調査で聴取した約70作品の認知度を横軸に、好意度を縦軸にプロットした散布図です。
原作「A」と「B」を比較すると、認知度は同程度ですが好意度は「A」が若干高くなっています。
ただし、差としては数ptとそれほど大きな差とは言い切れず、まだこれだけの情報ではどちらをアニメ化すべきかの判断は難しそうです。
原作ファンのみならず、潜在ファンの数も大事
続いて、原作をアニメ化した際に見てくれそうな視聴者=ファンの数を比べてみましょう。
ここでは、顕在ファン=すでに原作を知っている人はもとより、潜在ファン=原作は知らなかったが、(原作の情報を一部提示したところ)アニメ化したら見てみたいと思った人についてもみていきます。(図5)
先ほどと同様に散布図で原作「A」と「B」を比較してみます。(図6)
顕在ファンの推計数を横軸に、潜在ファンの推計数を縦軸にプロットすると、顕在ファンの数は「A」・「B」でそれほど大きな差はありませんが、潜在ファンの数は「A」のほうが400万人ほど多くなっており、大きな差がみられます。
さらに、今回の顕在ファン・潜在ファンはアニメ化した際の視聴意向から推計していますが、総合視聴率【リアルタイム視聴とタイムシフト視聴(番組放送日から7日以内の視聴)のいずれかでの視聴】を使って実際の視聴状況と照らし合わせてみました。
顕在ファンと総合視聴率、潜在ファンと総合視聴率について、本調査対象作品のうち調査後に放送されたもののデータからそれぞれ相関分析を行った結果、どちらも総合視聴率との相関がみられており、顕在ファン・潜在ファンの量が多いほど総合視聴率も高い傾向がありました。そのため、総合視聴率をより高く獲得するためには顕在・潜在のどちらのファンの数も重要となることが考えられます。
今回のケースでは、原作「A」と「B」で顕在ファンの数に大きな違いはないため、潜在ファンの伸びしろが見込める「A」のほうがアニメ化した際により多くの方に見てもらえる可能性が見込め、成功確率を高めることができそうです。
グッズ・コラボ商品などによる収益可能性もデータから判断
引き続き原作「A」と「B」のアニメ化について、さらにもうひとつ、視点を加えてみてみましょう。
アニメ化に伴って、新たなグッズ展開やコラボ商品の開発などを検討する場合も多いのではないでしょうか?
グッズ展開を見据えた場合にどのような判断ができそうか、以下でみていきます。
コンテンツポテンシャルの調査結果から今度は原作の認知者数を横軸に、グッズなど関連サービスへの消費意欲金額(※)を縦軸にプロットしたのが図7です。
(※)作品ごとに聴取した課金意欲ジャンルに、ジャンルごとに設定した想定支出金額を乗じた金額を平均したもの
*課金意欲ジャンル=サービス・商品が出たら有料でも体験したいと思うジャンル(アニメ、映画、キャラクターグッズ、イベントなど)
「A」と「B」を比べると、両者とも原作認知者数に大きな差はなく、人数の面では市場規模に違いはないように思われます。
一方、縦軸の消費意欲金額に着目すると、「A」のほうが平均金額が高くなっており、人数は同程度でももしその作品のグッズなどの関連商品が生まれた際には、「A」のほうがより多くの金額が使われる=グッズなどによる収益がより高くなる可能性があるということになります。
これまでの分析を踏まえると、今回のケースでは「A」をアニメ化するほうが視聴者数のさらなる増大やグッズ展開による収益最大化につながりそうということが想定できます。
加えて、どのようなグッズや関連サービスを展開すれば買いたいと思ってもらえるのか、つまりニーズのある商品種類はどのようなものか?ということも気になるのではないでしょうか。
図8は原作「A」・「B」について、認知者に新商品・新サービス展開時の課金意向(新商品・新サービスが展開されたら、お金を払ってでも買いたい・遊びたいか)を聴取したものです。
「A」はスマホゲームやキャラクターの商品・グッズ、キャラクターのデジタルコンテンツ(LINEスタンプやNFTなど)にニーズがあり、コラボ・展開する場合はその商品種類を狙うとより多くの人に買ってもらえる可能性が高まることが推察されます。
一方「B」では、「A」と同じくスマホゲームやキャラクターのデジタルコンテンツへの課金意向が一定数みられるほか、「A」に比べて「B」はフィギュア・プラモデル・模型の課金意向が高く、作品によってどのような商品種類のグッズにニーズがあるかは異なるようです。
このように、作品ごとに異なるニーズを適切に把握し、ファンにより楽しんでもらえる商品種類でのグッズ・サービス展開を行うことも、収益の最大化につながると考えられます。
潜在顧客ニーズを把握し、"売れるIP"への投資判断が可能に!
今回は、IPビジネスにおける「コンテンツポテンシャル」として、IPの認知や好意のみならずファンになりうる人の数やグッズ展開などを見据えた、収益最大化につながる総合的な投資判断の考え方をご紹介しました。
顕在ファンだけでなく潜在ファンの数を考慮すること、グッズ展開の際の消費金額やどのようなグッズに課金意向があるかなど、潜在的な顧客ニーズをつかむことがIPビジネスの成功確率を高めるにあたり重要であることが分かりました。
ビデオリサーチでは今回実施したコンテンツポテンシャル分析のほか、企業ごとの課題感に応じてカスタマイズしたリサーチやデータ分析、およびそれに基づく施策提言も実施しています。
また、今回はIPの選定にフォーカスした分析を行いましたが、IPのグロース(宣伝・メディアミックス戦略などへの示唆だし)やタイアップ・セールス面での豊富な知見もございますので、ご興味お持ちいただけましたら、お気軽に以下よりお問い合わせください。
本記事の取り組みにご興味がある方はこちらからお問い合わせください!
【使用データソース】
<図表1、2>
・サービス名:ビデオリサーチ「ACR/ex」
・調査時期:2020年~2024年 4-6月調査
・対象地区:東京50km圏
・ターゲット:個人全体(男女12~69才)
<図表3>
・調査名:ビデオリサーチ「コンテンツに関する自主調査」(2022年12月~2023年1月調査)
・調査時期:2022年12月~2023年1月
・対象地区:全国
・ターゲット:SC調査は男女15~69才、本調査は男女15~69才のアニメ視聴者(3か月に1回以上視聴)
・サンプル数:約300,000サンプル
<図表4、6、7、8>
・調査名:ビデオリサーチ「コンテンツに関する自主調査」(2023年3月調査)
・調査時期:2023年3月
・対象地区:全国
・ターゲット:男女15~69才
・サンプル数:SC調査は約10,000サンプル、本調査は約1,000サンプル目標で回収
(計70作品について、10作品ずつ7回に分けて調査しているため、調査回・作品ごとにサンプル数が若干異なります)