ブランドイメージを守る広告の在り方とは?ブランドを毀損する広告の要因をデータで検証(ひと研究所/広告研究シリーズvol.5)
- この記事はこんな方にオススメ!
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- 広告キャンペーンのメディア・プランニングを担当される方
- テレビCM・動画広告のブランドセーフティに関心がある方
広告とブランドセーフティ
インターネット広告の展開においては、広告配信先の媒体品質やコンテンツ内容の事前評価が重要な課題となっています。例えば、暴力的・差別的なコンテンツや虚偽情報を含むサイトに広告が掲載されることで、ブランドイメージが損なわれるリスクが高まります。こうしたブランドセーフティの問題は、ブランドイメージや製品の売上だけでなく、企業の社会的評価にも深刻な影響を及ぼす可能性があります。
また、SNSやインターネットメディアの普及により、情報拡散のスピードと規模が飛躍的に拡大しました。企業の不祥事に関する投稿は、数時間で数百万回以上の共有に達することも珍しくありません(図1)。このような状況では、対応の遅延や不適切な判断が、状況をさらに悪化させる要因となります。
ブランドセーフティの課題は、インターネット広告に限らず、従来型のマスメディアの広告でも同様に存在します。例えば、不祥事を起こしたタレントが出演する広告の継続や、災害後の緊急報道番組での広告出稿は、企業やブランドイメージに影響を及ぼす可能性も考えられます。特にマスメディアの広告では、配信のコントロールが技術的に制限されるうえ、広告の差し替えに伴う機会損失も大きなものとなるでしょう(図2)。
このように、ブランドセーフティへの対応は、企業経営にとって切実な課題となっています。そのため、その発生メカニズムを体系的に理解し、リスクを予防・最小化することが不可欠です。本記事では、広告活動に起因するブランド毀損の構造の解明を目的とした調査の分析結果を紹介します。
ブランド毀損のさまざまな要因
今回の調査では、生活者の購買頻度や利用機会が多い製品カテゴリー(缶・ペットボトルコーヒー、スマートフォン端末、外食チェーン)を対象として選定しました。調査対象者は、いずれかの製品カテゴリー内で普段最も利用しているブランドについて、その評価を回答しています。調査内容は、まず最初に対象ブランドの評価を答えてもらい、その後にブランド毀損のシナリオを提示し、再度ブランド評価を答えてもらうという方式で、ブランド評価の変化を測定するものとなっています(図3)。
ブランド毀損のリスクは、メディア環境の変化と社会規範の多様化が進む中で、その発生要因も複雑化しています。本調査では、インターネット広告特有の課題からマスメディアでの問題、そして広告出演者に関わる事象まで、現代の広告活動において特に注視すべき以下の4つのシナリオを設定しました。
・道徳的に問題があるサイトでの広告表示
・大規模災害の緊急報道番組でのCM放送
・不倫や浮気が発覚した有名人の広告出演
・不適切発言(中傷発言など)をした有名人の広告出演
調査対象者には、いずれか1つのシナリオを提示して、その前後のブランド評価の変化を測定しています。今回は、「缶・ペットボトルコーヒー」カテゴリーに焦点を当て、各シナリオのブランド毀損への影響の大きさを分析していきます。
道徳的に問題があるサイトでの広告表示がブランド毀損に大きく影響
まず、各シナリオについて、調査対象者がどの程度不適切だと感じるかの評価結果を確認します。不適切性の評価は7段階(1:とてもあてはまる ~ 7:まったくあてはまらない)で聴取し、上位2段階の比率を集計しました(図4)。
不適切性の評価で最もスコアが高いのは「道徳的に問題があるサイトでの広告表示」で、他のシナリオと比較して圧倒的に高い数値となっています。生活者が企業の広告出稿先の選定に対して、高い倫理性を求めていることがわかります。一方、最もスコアが低いのは「大規模災害の緊急報道番組でのCM放送」でした。この結果は、緊急報道番組での広告出稿が、必ずしも企業の意図的な判断ではないという生活者の理解を反映していると考えられます。また、災害が緊急かつ予期せぬ状況で発生するという特性も、この低い不適切性の評価に影響しているかもしれません。
次に、シナリオ提示の前後におけるブランド評価の変化を確認しましょう。ブランド評価は以下の3つの指標で測定しています。
・ブランド好意度:「このブランドについて好感を持てる」
・ブランド信頼感:「このブランドについて信頼感を感じる」
・購入意向:「このブランドを今後も購入したいと思う」
各指標は11段階(1:とてもあてはまる ~ 11:まったくあてはまらない)で評価し、上位3段階の比率を集計しました(図5~7)。
分析結果を確認すると、3指標のすべてで同様の傾向が確認できます。最も深刻なブランド毀損をもたらすのは「道徳的に問題があるサイトでの広告表示」です。これは、広告出稿場所の選定が、企業の管理責任範囲内であるという生活者の認識に基づくと考えられます。一方、広告出演者に起因する要因は、相対的にブランド毀損への影響が小さいことが確認されました。これは、有名人の不祥事リスクの予見が困難なことについて、生活者が理解していることを示唆しています。ただし、不祥事発覚後の継続起用については、より重大なブランド毀損リスクが想定されることに留意が必要です。
なお、不適切性の評価で最もスコアが低く不適切ではないと判断された「大規模災害の緊急報道番組でのCM放送」は、ブランド毀損ではその影響が大きくなっています。これは、大規模災害の報道という非常に印象的な場面で広告が表示されることで、視聴者の記憶の中で「災害」と「ブランド」が意図せず結びつけられてしまう可能性が考えられます。つまり、広告出稿自体の不適切性は比較的低く評価されても、大規模災害というネガティブ感情を伴う文脈の中でブランドが露出することで、「災害」という望ましくないブランド連想が生じやすくなる恐れがあるということです。
さいごに
今回の分析では、「道徳的に問題があるサイトでの広告表示」や「大規模災害の緊急報道番組でのCM放送」といった広告出稿場所に関する要因が、ブランド毀損に対してより大きな影響を及ぼすことが明らかになりました。分析を通じて、「広告主による管理可能性の程度」や「事案自体が持つネガティブイメージの強度」などが、ブランド毀損の大きさを左右する要因であることが示唆されました。
本記事では、広告におけるブランド毀損の要因について導入的な分析を行いました。ブランド毀損は企業価値に直結する重要な課題であり、そのメカニズムの解明は喫緊の研究テーマといえます。ひと研究所では、ブランド毀損のメカニズムのより包括的な理解を目指して、今後も継続的な研究を進めてまいります。
【ひと研究所 ブランド毀損調査2024年11月 調査概要】
調査日 :2024年11月1日(金)~11月7日(木)
調査手法 :web調査
調査エリア :全国
サンプルサイズ :5,925
対象者属性 :男女15~69歳(なるべく均等になるように回収)