若者だけじゃない!人々の行動を左右する「推し活」から生活者を理解する
※2024年10月に開催したビデオリサーチ ひと研究所のウェビナーをレポートしています。
生活者の今と未来のインサイトを探求する、ビデオリサーチのシンクタンク「ひと研究所」では、活動の一環として「推し活研究」を行っています。「推し」「推し活」は、単なるムーブメントではなく、いまの生活者を理解する上で非常に重要な概念であると考えます。
今回は、「ひと研究所」研究員の若狭谷笑未、野木美穂、今井佳菜が、「推し活実態調査」及び、当社が開発したサービスによる分析結果を紹介しながら、「推し」「推し活」について考察します。
「推し」「推し活」とは?──若狭谷笑未
昨今、「推し活」という言葉をよく耳にします。ひと研究所では、好き・お気に入りの人物やモノで、応援したい対象を「推し」と呼び、それらを応援したりする活動のことを「推し活」と定義しています。「推し」「推し活」の対象は、特定のアイドルなどの人物にとどまらず、現在では自分のイチオシや、おすすめのものであるということを表現するときにも用いられます。例えば「推しコスメ」や「推しアイス」など、その対象は多岐に渡ります。このことは、「推し」「推し活」が社会に浸透してきている証と言えるでしょう。
「推し活」は、生活者の特別な欲求が発生した結果ではなく、人が普遍的に持っている欲求の一つである「楽しみを見いだしたい、感じたい」というニーズに基づいたメカニズムが働いているものだと考えています。
ひと研究所では、「受け取る」「使う」「つながる」の3つが、人が楽しみを享受するために行う代表的なアクションであるのではと考えており、そこに「推し」という核があることで、3方向全ての楽しみを網羅できると捉えています。例えば、テレビや動画、映画、漫画などのコンテンツを見聞きする(受け取る)。ライブに行く、グッズを買うなど、自身のお金や時間、労力を使う。他者とコミュニケーションを取る(つながる)といったことです。
また「推し活」には、「応援」と「表明」によって、「自分を形成する」という側面もあると考えます。
「応援」とは、推しが出ているコンテンツを見たり、イベントに参加したり、関連グッズを購入することです。他にも、「推し」のコンテンツをランキング入りさせるために再生回数を増やしたり、生放送でのパフォーマンスを見守ったりすることも含まれます。「推し」を応援することで、「自分は誰か(何か)の役に立っている」「影響を及ぼしている」という貢献意識が育まれます。
「表明」は、他者との交流の中で、自分の「推し」「推し活」について話すことで、「自分がどんな人間で何が好きか」を示す行為です。表明というアクションによって自己意識が培われます。同時に、他者に「自分という人間」を理解してもらえたり、「推し」が同じ人同士の交流が生まれたりします。
このようなことから、「応援」「表明」は、自分を形作っていくことにつながります。さらに、「推し活」によって、アイデンティティが形成されたり、自己肯定感が向上する可能性もあり、生きる意味の発見や、ひいてはその人の生き方そのものにつながっていくと考えています。
「推し活」は、人生を楽しむことであり、自分を形成するもの。心に深く刺さり、自分に強く影響を与えていくもの。だからこそ、ここまでの盛り上がりを見せているのではないでしょうか。
若者トレンドにとどまらない「推し活」 ひと研究所「推し活調査」報告──若狭谷笑未
ひと研究所は、2024年2月に「推し活調査」を実施しました。その調査結果の一部をご紹介します。調査は15-69歳の男女4,234人を対象に行い、「推しがいる」と回答したのは1,437人でした。
「推し」の有無を見ると、最も「推し」がいる割合が高かったのはZ世代(15-26歳)で62.1%でした。特に注目すべきは、X世代(43-58歳)の27.1%と、59-69歳の24.0%という数字で、43歳以上の中高年層も4人に1人は「推し」がいることが分かりました。この結果から、「推し」は若い人だけのムーブメントではなく、幅広い世代に広がっていることが伺えます。
さらに、調査結果から「推し活」は、「映像メディアの利用」「SNSの利用」「購買行動」の3つが基本的な活動となっていることが分かりました。
「映像メディアの利用」について調べると、年代問わず「推し」がいるとメディアの利用時間量が増加しています。
「SNSの利用」を見てみると、こちらも同様の結果となっています。
さらに、「推し」がいる人は、一日あたりのSNS利用の約半分の時間を「推し活」に費やしています。43-69歳においては、50%を超えていました。「推し活」においてSNSは、大きな役割を果たしていると言えます。
「購買行動」を見ると、1年間に「推し活」にかける金額は、どの世代も「1万円未満」という回答が6割前後になっています。注目したいのは、年間50万円以上も「推し活」にかけている人が一定数おり、その割合は若い層の方が多くなっていることです。例えば、アイドルの「推し活」では、ライブ代のほかに交通費や宿泊費が大きくなることもあり、熱心に「推し活」をするほど金額が高くなることがうかがえます。
「推し活」する人々を、AIを使って理解する──野木美穂
今回、個性を持った「AI相談相手」にインタビューができる当社サービス「Asclone(アスクロン)」を使い、「推し活」をする人々の意見を調査しました。
「Asclone」は、性別、年齢、居住地、職業が設定できるほか、テキスト文で自由に条件を入力することもできます。インタビュー調査をしたくても予算や時間がない場合、「アスクロン」を使うと、リアルな定性調査に近い結果を得ることができます。
今回、「推し活」について、「AI相談相手」に質問を行い、さまざまな回答を得ました。例えば、推しの影響で商品を買った人に、購入した理由を尋ねると、「推しが信頼しているから間違いない」「追体験して推しをより身近に感じたいから」などの回答がありました。
ここでは割愛しますが、推し活について「どんな推し活をしているか」「推しの影響で買ったもの」「推し活をする上での悩みごと」などの質問も投げかけ、多種多様な回答を得ることができました。他にも、「推しが広告に出演する場合、どんな魅力をアピールするといいか」といった質問も行うことで、広告やキャンペーンを企画する際に参考になりそうな回答も得ました。
記事の中で使用しているサービス「Asclone」
Xデータから、「推し活」とテレビ番組視聴の関係を探る──今井佳菜
SNS、特にXにおいて「推し活」が最も盛り上がると言えるのが、テレビコンテンツに関する話題です。特に若年層において、Xとテレビの親和性は高いと考えています。そこで、当社サービス「Buzz ビューーン!」の分析をもとに、「推し活」とテレビ番組視聴の関係を紐解きました。
「Buzz ビューーン!」は、Xデータを活用して、コンテンツの「視聴質」を評価するサービスで、投稿量や投稿者層、話題の内容を分析できます。今回は、あるボーイズグループが出演した音楽番組を例に、「推し活」に表れるSNS行動を見てみましょう。
冒頭で若狭谷がご紹介した、人が楽しみを享受するためのアクションである「受け取る」点では、推しのパフォーマンス後だけでなく、登場時や衣装チェンジ、他出演者との絡み、ワイプに映った表情などコンテンツ内の細かい部分までじっくり見て、推しのかっこよさ、かわいさを語るポストが見られます。番組を視聴して感想をポストするという推し活行動が表れており、そのようなタイミングでは番組の毎分ポスト数も多くなることがわかりました。
「時間や労力を使う」という点では、ファン以外の人にも「推し」の良さを広めるために、ミュージックビデオのリンクを貼ったり、ライブ情報や見逃し配信について知らせたり、布教活動のために熱心にポストしている様子が見られました。また、番組の共起ワード上位にグループ名が入っており、番組名と一緒に「推し」グループ名もポストする人が多いこともわかります。これらのことから、推しが出演するコンテンツを盛り上げたい、推しの良さを広めたいというファンのモチベーションがみられ、そこに「時間や労力を使う」という推し活行動が表れていると考えられます。
「他者とつながる」という点では、ハッシュタグで番組名や「推し」グループ名も一緒に投稿することで、同じ「推し」を応援するファンを見つけやすくしていました。Xのタイムラインに流れる熱のこもった感想を読んで、リアルタイムでは視聴できない人も一緒に盛り上がり、お祭り気分で楽しい気持ちになっている様子も伝わってきました。
また、これまでの研究から、コンテンツが盛り上がりポスト数が増加すると、若い女性の配信視聴にもつながる傾向がみえてきています。「推し活によるSNS行動で番組が盛り上がる」とは、「受け取る」「使う」「つながる」という3タイプ全てのポストが存在する状態であり、これによってリアルタイムでコンテンツが盛り上がり、さらに若年女性層の配信再生数上昇にも影響を与えることが今回の研究からみえてきました。
記事の中で使用しているサービス「Buzzビューーン!」
「推し活研究」今後の展望──若狭谷笑未
ここまで調査結果をもとに、「推し」「推し活」について考察しました。今後、「推し」「推し活」という言葉が残り続けるかどうかは未知数ですが、人が本来持っている「人生を楽しみたい」「自分を形作りたい」という欲求は今後も変わらないでしょう。そのため、生活者の「推し」「推し活」への本質的なニーズに注目し、理解を深めることは、マーケティングにおいても重要なことになります。
生活者のニーズが多様化・複雑化し、生活者を捉えることの難易度は高まっています。ひと研究所は、豊富なデータや知見、独自のツールを使って今後も「推し」「推し活」の研究を続け、さまざまな企業をサポートしていきます。
また、「推し活」研究にご興味をお持ちいただけましたら、お気軽にお問い合わせください。
【ひと研究所 推し活調査2024年2月 調査概要】
調査日 :2024年2月6日(火)~2月7日(水)
調査手法 :web調査
調査エリア :全国
サンプルサイズ :4,234(SC)、1,437(本調査)
対象者属性 :男女15~69歳(なるべく均等になるように回収)
【本記事で紹介したサービス】
ビデオリサーチ「Asclone」
ビデオリサーチ「Buzzビューーン!」