"スマホ世代"の情報意識に変革アリ!? "ケータイ世代"との違いとは?

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生活者データ
#ACR/ex #ひと研究所 #消費者心理 #若者
"スマホ世代"の情報意識に変革アリ!? "ケータイ世代"との違いとは?
この記事はこんな方にオススメ!
  • 生活者の情報行動や意識に興味のある方
  • 若年層に対するマーケティングを実施・検討している方
  • 将来の生活者のメディアに対する意識や行動に関心がある方

はじめに

みなさまは、「情報に触れる」と聞くと、どのような姿を想像するでしょうか。テレビやラジオなどのマスメディアから見聞きする姿のほか、スマートフォンを取り出して検索する、SNSを開いてスクロールする、動画を見るなど、スマートフォンで情報を入手する姿を想像した方も多いのではないでしょうか。総務省の「通信利用動向調査」によると、スマートフォンの世帯保有率は2013年には半数を超え、2023年度では90%を超えています【図1】。個人単位では子供や高齢者など自分専用のスマートフォンを持っていない人もいますが、世帯でみると、ほとんどの世帯にスマートフォンがある状態にまでなりました。

【図1】スマートフォンの世帯保有率の推移

【出典】総務省 令和5年通信利用動向調査の結果
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r06/html/nd21b110.html

日本で初めてスマートフォンが登場した2008年から15年以上が経ちます。スマートフォンはあふれかえる情報に常にアクセスすることを可能にし、その中から、自分が見たい、知りたいものに触れる当たり前のツールとなりました。その間、SNSの普及やそれに伴う情報環境の変化も同時に起きてきました。これを踏まえると、生活者の情報への態度にも何かしら変化が起きていても不思議ではないでしょう。また、世代による意識の違いも顕著になっているのではと予想されます。そこで今回は、生活者の「情報に対する態度」に着目し、その変化を分析しました。

1."スマホ世代"が学生時代に受けた影響とは?

ある特定の年代や時期に生まれた人は、その年代や時期の環境に影響され、似た傾向の特性を共通に持つようになると考えられています。「Z世代」「ゆとり世代」あるいは「団塊の世代」など、世代に着目した話題や調査結果などを見聞きすることも多いのではないでしょうか。2018年にNYタイムズで発信された研究結果では、「私たちの音楽の好みに最も重要な影響を与えるのは、14歳の時に聞いた音楽である」という結果も示されています。これに象徴されるように、子供の頃や10代の頃の経験はその世代の特徴に大きく影響すると考えられます。

この視点で日本における情報環境について考えてみると、スマートフォンが当たり前の時代に10代を過ごした世代は、何かしら情報に対して特徴的な態度を持っている可能性があるのではないかという仮説が浮かび上がります。スマートフォンの世帯保有率が半数を超えた 2013年以降に中学生を迎えた人(=2000年生まれ以降の人)が、"携帯"を初めて手にする際にはおそらくスマートフォンです。この世代を"スマホ世代"、それよりも前の世代を"ケータイ世代"としたら、"スマホ世代"に特徴が見られる可能性があると、ひと研究所では考えました。

次章以降では、"スマホ世代"の情報意識について当社が保有する日本最大級の生活者データベース「ACR/ex」を用いて分析した結果を紹介します。

2.コーホート分析による検証

人口学では、「同じ年代や時期に生まれた人・世代」を「コーホート」と表現します。本記事において、世代の特徴を探るべく、時系列変化の要因を探るコーホート分析という手法を用いました。継続的な調査データでみられるスコアの背景にはどんな要因が絡んでいるのか明らかにしようというものです。
コーホート分析では、「時代効果」「年齢効果」「世代効果」の3つの効果を仮定して変化の要因を読み取ります【図2】。

【図2】コーホート分析で考える3つの効果

時代効果とは、社会全体の変化が与える影響を意味します。例えばコロナ禍で社会全体が自粛モードになったことは年齢や世代に関わらず影響をもたらしましたが、これは時代効果の一つとして扱うことができます。

年齢効果は、その時々のその人の年齢による影響を意味します。老いなどの生理的な変化の影響だけではなく、就職、結婚、子供の誕生や成長、定年退職などの人生の重要な転機の経験によるライフステージの変化が人々に与える影響なども表します。

世代効果は、その人の生まれ年と、子供のころの経験の影響を意味します。例えば、「団塊の世代」や「ゆとり世代」などといった、同じ時代に生まれ同じ環境の中で育った人々が共通して持つ、他の世代の人々とは異なる部分を表します。この世代効果は、時代や年齢を超えて持続すると考えられ、これがコーホート分析の名前の由来でもあります。

これら3つの効果について、今回は、ACR/exの情報意識に関する6項目

・情報収集に熱心なほう
・情報収集は自ら積極的におこなうほうだ
・興味関心ごとの蘊蓄を持っている
・最新の情報はいち早く入手したいほうだ
・情報はメディアからより人から聞く方が多い
・ネット上の口コミを参考にして購入するほうだ

のデータをもとにコーホート分析を行うことで仮説を検証しました。分析では5歳刻みで集計した調査データをもとに、2024年時点における男女15-19歳、男女20-24歳、・・・、男女65-69歳の各世代の効果を算出しました。"スマホ世代"(=2000年以降に生まれた人)は、2024年時点において男女15-19歳、男女20-24歳の区分に該当し、"ケータイ世代"(=2000年よりも前に生まれた人)は、男女25-29歳以上の区分に該当します。なお、分析では2014年~2024年(東京50km圏)の11年分のデータを使用しています。コーホート分析にかけるデータとしては、分析に用いたデータの年数がやや少なめの分析にはなりますが、研究目的に実施した結果としてご覧ください。

*コーホート分析では、「ベイズ型コーホートモデル」の手法を用いています。詳細は下記をご参照ください。

<参考>
中村 隆 (1982)「ベイズ型コウホート・モデル---標準コウホート表への適用」『統計数理研究所彙報』 第29巻 第2号、77-97頁。
識別問題とパラメータの漸進的変化の条件(統計数理研究所 中村隆)
http://www.ism.ac.jp/~nakamura/cohort/cohsec4.htm

3. 2000年以降に生まれた人は、積極的に情報収集をしなくなってきている!?

コーホート分析を行った結果、「情報収集に熱心なほう」「情報収集は自ら積極的におこなうほうだ」「興味関心ごとの蘊蓄を持っている」「最新の情報はいち早く入手したいほうだ」の4項目について、興味深い結果が得られましたので紹介します。

【図3】は、情報意識項目における世代効果(=その人の生まれ年と、子供のころの経験の影響)の大小をグラフ化したものです。横軸は生まれ年と2024年現在の年齢、縦軸は世代効果の強さを表し、時系列での相対的な変化を示しています。グラフを確認すると、4項目共通して、2000年生まれ以降でパラメーターが下降しており、世代の特徴としてダウン傾向が確認できます【図3】。

【図3】情報意識項目の世代効果

この結果から、2000年生まれ以降の人は、情報を積極的に収集する、深く知るという態度が低下しつつあることが示唆されます。スマートフォンが身近な若年層は、デジタル機器を使いこなしてより情報を集めているようにも思えますが、このような意識の変化がみられるのは非常に興味深い結果ではないでしょうか。

4."スマホ世代"の意識変革の背景には何があるのか?

コーホート分析の結果、若い世代では、情報を積極的に収集する、深く知るという態度が低下する傾向がみられました。この理由は何なのでしょうか。考えられる仮説として、ネットメディアの特性の変化によって生活者の態度も変化したことが挙げられるでしょう。

インターネット普及期は、ブラウザの検索窓に文字を打ち込んで情報を得るといった行動が当たり前でした。"検索行動世代"ともいえる比較的上の世代では、情報を自ら取りにいく必要があったのです。時が経つにつれ、スマートフォンの登場、SNS全盛期を迎えると、常に情報に接している環境になった一方で、タイムラインで情報がフィルタリングされる、過去に見た履歴から動画がレコメンドされるなど、無限にあふれる情報から自動的に取捨選択されることが当たり前になりました。2000年以降に生まれた人は、スマートフォンを手にした瞬間からこのような環境下にあり、普段から情報を積極的に集める必要がないという意識が上の世代よりも強まっているのではないか思われます。

5.ミライはどうなる!?若者の情報意識を予測する

最後に、情報意識の変化の将来予測の結果を紹介します。コーホート分析の結果をもとに、「時代効果」「世代効果」について将来の効果値を推計、再統合することで、将来の予測値を算出しました。詳細は割愛しますが、【図4】で示したステップで算出することが可能です。

【図4】コーホート分析における将来予測値算出ステップ Step1.【分割】コーホート分析により、データを時代効果・年齢効果・世代効果に分割。Step2.【個別予測】時代効果・世代効果について、将来の効果を推計する。時系列(自己回帰)モデルを利用。Step3.【再統合】将来の時代効果・年齢効果・世代効果を足し合わせて、将来の予測値を算出する。

情報意識項目「情報収集に熱心なほう」「情報収集は自ら積極的におこなうほうだ」「興味関心ごとの蘊蓄を持っている」「最新の情報はいち早く入手したいほうだ」について、2014年~2024年の調査データに加え、5年後の2029年、10年後の2034年の予測スコアをまとめました【図5】。各時点における男女15-69歳を時系列でみていくと、上昇傾向のままスコアが推移していますが、男女15-19歳は鈍化傾向にあることがわかります。情報社会が進むにつれ、生活者の情報意識が高まる(=時代効果が強まる)一方、若い生まれ年の人になるほど世代効果が弱まるため、男女15-19歳のスコアの伸びが鈍化する予測となっています。この背景について考えてみると、例えば、タイムラインなどによる情報の個別カスタマイズ化が進むことで参考にするメディアやプラットフォームの固定化が加速し、結果的に熱心に情報収集する態度が弱まっていくといったことが考えられます。この点は引き続き着目していきたいと思います。

【図5】情報意識項目の推移と将来予測

※予測モデルは、分析者の観点も踏まえてパラメータを設定した結果になります。

さいごに

今回は、ACR/exのデータをもとにした情報意識の分析と将来予測を行いました。"スマホ世代"の情報を積極的に収集する、深く知るという態度が低下していくかもしれないという結果は意外な結果でした。若年層をターゲットにコミュニケーションを行う際は、情報を届ける若年層が"積極的に情報を集めない傾向にある"ことを前提に、どう届けるかを考える必要があるといえます。みなさまのコミュニケーション施策検討の参考になれば幸いです。

【本記事で紹介したサービス】
・サービス名:ビデオリサーチ「ACR/ex
・調査時期:2014年4-6月~2024年4-6月(春調査回)
・対象地区:東京50km圏

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