CTVの価値とは?【VR FORUM 2023 レポート】
[登壇者](右から)
株式会社TVer 執行役員広告事業本部長 古田 和俊氏
株式会社博報堂DYメディアパートナーズ メディアビジネス統括センター 統合アカウントプロデュース局 局長代理 濱﨑 雄介氏
株式会社ビデオリサーチ 統括・ソリューションユニットマネージャー 河辺 昌之
マーケティングの主戦場となる可能性を秘めたCTV(コネクテッドTV)。関東地区では約7割の世帯でテレビがネット接続されています(2023年9月調査)。動画配信プラットフォーマーは勿論、放送局、広告会社、広告主にとっても新たな市場として注目度が高まる中、CTVに期待する価値とは──。テレビデバイスの使い方が変化する中でのコミュニケーションの最適化、統合プランニングの重要性の高まりについて、動画配信プラットフォーマー、広告会社それぞれの立場からの声も交えた議論が繰り広げられました。
動画配信サービスの主戦場はスマホからテレビへ拡大。オンオフ統合プランニングの重要性が高まる
最初に、河辺が前提整理として、データをもとに「CTV」の利用に関する最新の実態を紹介しました。
ビデオリサーチの生活者アンケートパネル「ACR/ex」によると、2023年の時点でYouTubeなど多くの動画配信サービスが広く普及しており、そのうちTVerを例に挙げると約4人に1人が「3ヶ月以内に利用している」と回答。2018年から2023年の5年間で、その利用率は約5倍に成長を遂げています。デバイス別にみた動画視聴時間では、コロナ禍以降、テレビデバイスでの視聴が急激に伸長。動画配信サービスの主戦場がスマートフォンだけでなく、テレビデバイスにおいて急成長している現状が浮き彫りとなりました。
テレビデバイスでの動画視聴を可能にするのは「CTV」、スマートテレビやストリーミングデバイス経由など何らかの方法でインターネットに接続され放送や配信サービスを見ることができるテレビを指します。関東地区のPM(機械式個人視聴率調査)対象世帯におけるテレビのネット接続率は、2022年から2023年にかけて約65%から約70%へと増加。その結果、テレビモニター(画面)利用の多くを占める地上波リアルタイム視聴に加えて、地上波リアルタイム視聴以外の録画視聴や動画視聴、ゲーム利用などの「空きチャンネル」の利用が増えつつあるものの、全体でみるとテレビモニターの利用自体は2023年現在もコロナ禍以前の水準と変わりません。
合わせてテレビデバイス上の動画配信視聴状況も紹介。
ビデオリサーチは視聴率調査世帯を対象に、自宅内のCTVやPC・モバイル端末などデジタルデバイスでの動画視聴を動画配信プラットフォーム単位で測定する取り組みを進めており、動画視聴測定データは2024年4月に関東地区データをβ版として提供開始、2025年10月から全国32地区のデータリリースを予定しています。
(参考:2023/07/19プレスリリース「視聴率の測定領域を拡張し、テレビデバイスやPC・モバイル端末でのTVerやYouTubeなどの動画視聴の測定を開始 〜2024年4月関東地区にてβ版データ提供を開始〜」)
この取り組みの研究データとして2023年3月末の調査結果では生活者のテレビモニターに映っていたコンテンツの割合は、全体ではリアルタイムでの放送視聴が約75%。タイムシフト視聴と合わせると、80%以上が放送コンテンツで占められています。一方、CTV上の動画視聴は全体で6%程ですが、性年代別にみるとC(男女4-12才)・T(男女13-19才)・M1(男性20-34才)・F1(女性20-34才)層など若年層における動画視聴は10%超という結果に。若年層ほど動画視聴の割合が高いことがわかりました。
この結果を受けて、濱﨑氏は、ターゲットの年齢層によって動画視聴の割合が異なることから動画視聴のタッチポイントとしての重要度が変化することに言及。加えて「いまだ大部分のシェアを占めるリアルタイム視聴と動画視聴(CTV)を統合したPDCA管理がクライアントと向き合う広告会社にとってより重要になる」と述べました。
「テレビデバイス離れが起きているわけではないものの、リアルタイム視聴とそれ以外のテレビモニターの利用の割合に変化が起きているのも事実。テレビデバイスの使い方が変化する中で生活者とのコミュニケーションを最適化していくには、オンオフ統合のプランニングがますます重要になっていくだろう」(河辺)
圧倒的なリーチパワーと即時性、安全かつ生活の一部として見られるのは、テレビメディアならではの強み
続いてCTVの価値を議論する前に、テレビメディアの価値を整理しました。
古田氏は『VIVANT』や『silent』などソーシャル上でも話題になったドラマを挙げて「放送局由来のコンテンツは世の中にムーブメントを巻き起こせる」、加えて「家族揃って安心安全に見られる」ことが価値と語ります。濱﨑氏もまたスポーツ中継など、「広くあまねく同一コンテンツを一斉に届けられる」「生活に溶け込んでいることで親近感をもって見られる」という点をポイントに挙げました。
これを受けて河辺は、テレビメディアの価値をテレビCMの価値に置き換え、圧倒的なリーチパワーや即時性を「ブロードリーチ」「スピードリーチ」、家族で安全に見られることを「ブランドセーフ」「共視聴」、生活の中で「ながら視聴」できることを「オ--ディブル」として表現しました。
「どうしても一対一のコミュニケーションになりがちなデジタルに対して、テレビの広くあまねく情報を伝達できる『ブロードリーチ』はとても魅力的なポイント。デジタル広告で検索スパイクを起こすことはなかなか難しいが、テレビならば珍しくない。リアルタイムで同一コンテンツを一度に届けられるスピード感、立ち上がりの強さはテレビならではと言えるでしょう」(古田氏)
加えて「重要なポイントはCMを出稿する広告主様やクリエイティブへの厳正な審査」と古田氏。放送局、TVerでの広告出稿時には商材やクリエイティブに対して厳正な審査が行われ、広告主のブランドセーフを担保する仕組みが取られています。このような業界全体の取り組みの成果として、若い世代でもデジタル広告よりテレビCMへの信頼感が高いことがビデオリサーチのACR/ex調査結果にも表れていました。
また、古田氏はTVer社の調査結果でCMの有音完視聴率が85%だったことを紹介し、「広告が"音あり"で最後までしっかり見られていることは強みであり、広告認知につながるポイント」とオーディブルの点でも強みがあることを述べました。
柔軟な広告運用を可能にするのが動画広告の価値
テレビメディアの価値が整理できたところで同様に、動画メディアの価値を河辺から紹介しました。
動画メディアは、無限にコンテンツを掲載でき、もともと視聴者にとって個々の"好き"を探求しやすい構造です。さらに、蓄積されたコンテンツの視聴履歴に応じて個人の嗜好に基づいたレコメンドが行われ、"好き"を深掘りしやすい構造と言えます。加えて一般人の投稿動画も含め、掲載される情報が早くて多いことや、その情報を基に自ら発信できるインタラクティブ性なども、Webメディアのひとつである動画メディアの価値と整理しました。
これらを活かすことで動画広告においては、生活者の"好き"を基に広告を出し分けるなど興味関心に応じたターゲティング、広告効果の違いに基づいた運用やPDCAの高速化に加え、"好き"を拡散させるという副次的な効果などが価値として挙げられました。
これらを踏まえて河辺は、「各社各様のマーケティングゴールへの最適化ができる、柔軟な広告運用を可能にするのが動画広告の価値」とまとめました。
「テレビと動画の"いいとこどり"」コンテンツ、広告媒体の側面からみるCTVの強み
いよいよ本題である、放送コンテンツをCTV配信することの価値に迫ります。
ここまで整理したテレビメディア、テレビCM、動画メディア、動画広告それぞれの価値が活かされることで、ターゲティングや運用型といった広告配信をテレビデバイス上でも行えるといった、「まさにテレビと動画の"いいとこどり"ができることがCTV配信の価値」と河辺は述べます。
古田氏曰く、TVerでは年々視聴比率の高まるCTV経由での視聴に対して、対応テレビデバイスの拡充を行うとともに、精度の高いターゲティング配信も実現。CTVは「共視聴」が強みであることから、TVerはユーザーの属性情報とともに視聴状況をアンケートで把握することでCTVでも広告のターゲティング配信を可能にしています。
テレビと動画の"いいとこどり"を実現したCTV広告の事例として、濱﨑氏がドラマの世界観と連動したインフォマーシャル施策を紹介。
フジテレビで2023年7?9月クールに放送されたドラマ『この素晴らしき世界』で、TVer見逃し配信のポストロール(本編後の広告枠)にて、ドラマのメインキャラクターが出演する"商材A"の約4分間の長尺インフォマーシャルを配信しました。
施策後に実施した調査では、CTVでドラマ連動インフォマーシャルに接触した層は、他の広告接触層と比べて企業やブランド評価においてより大きなリフト効果が認められました。視聴者が最後まで広告を見終わる「視聴完了率」についても、4分間という長さながら約54%と驚異的とも言える高さを記録。
加えて、CTVでドラマ連動インフォマーシャルに接触した層が商材Aに持ったブランドイメージは「静音性」「機能がよい」など、インフォマーシャル内で訴求したイメージが上位に挙がっています。
この結果より、濱﨑氏は「ドラマの内容に連動させた長尺インフォマーシャル、TVerのポストロールを活用することで、個別の訴求ポイントをしっかり伝えたうえでのブランドリフトが可能となり、CTV面の活用でさらに効果が高められると感じた」と述べました。
また、今回の施策の成功要因として、河辺は「TVerなど配信動画は視聴者が能動的に視聴しているためインフォマーシャル自体もひとつのコンテンツとして違和感なく受け入れやすいことや、CTVならではの大画面での視聴、オーディブルな視聴環境により広告の訴求メッセージが伝わりやすい」ことを仮説として挙げ、CTVの、テレビと動画の"いいとこどり"ができた事例としました。
CTVは共視聴を通じた"団欒の場"としての役割も
さらに、CTVの「共視聴」にフォーカスを当てます。家族など複数人で一緒に視聴するというスタイルが、CTVの特長を理解する上で大きなカギを握っていると言えそうです。
まず、河辺から、ビデオリサーチの関東地区視聴率調査で得られた共視聴の実態について紹介。2023年7〜9月の調査結果で、テレビデバイス1台あたりの平均共視聴人数は、地上波リアルタイム視聴時で1.33人、CTV経由での動画配信プラットフォームの視聴時は平均で1.26人。動画配信プラットフォームのなかでもTVerに限ってみると1.41人と共視聴の人数が比較的多いことがわかりました。
実際にTVerをCTV環境で共視聴する方々にインタビューしたところ、「土日の昼に、その週に見ることができなかったドラマを親と一緒にワイワイしながら見る」「関東で見ることができない新潟県の情報番組を、新潟出身の夫と一緒に見る」など、家族と一緒に見ることを目的に、CTVの視聴時間を能動的に作り出している様子が垣間見えました。
この結果から、河辺は、コンテンツに対する"好き"の有無に限らず「家族と一緒に会話しながら同じコンテンツを見る時間そのものが好き」という要素や、スマホのようにひとりで没頭する時間が増える一方で「家族同士の"時間"や"好き"をつなぐ」という役割がCTV視聴の動機になっているかもしれないと述べました。
放送、配信の未来を拓く3つの"Co-"
最後は、「VR FORUM 2023」のテーマ「Co-transformation」になぞらえて、「これからの時代に必要な『Co−』とは?」を語りました。
古田氏が挙げたのは、「Co-Worker」。
放送局や広告会社から多くのメンバーが出向するなど、人的交流が盛んなTVer社の人事に触れながら、一緒に働く仲間の大切さを語ります。
「フジテレビから出向し、これまで競合だと思っていた局や企業の人たちと一緒に働くことができた。視聴が多様化する中、放送コンテンツをさまざまな形で世に出していくために、"競合"という考え方すらも古いものになり、同じ課題に向き合う仲間同士のつながりが何よりも大切なものになっていくのではないか」(古田氏)
続いて濱﨑氏が挙げたのは、目的などを達成するために協力、協働するという意味で「Cooperate」。
クライアントの事業成長を達成させるために、放送×デジタル×CTVの統合的なマーケティングを推進したいと語ります。
「CTVの強みである即時性や柔軟性をテレビに取り入れる流れが来ており、テレビCMの素材差し替えが前日にできるようになるなど、テレビ広告全体において高速運用化、高度運用化が一般的になっていくと思われる。
博報堂DYグループが開発したテレビとCTVの横断分析ツール『Tele-Digi AaaS for CTV※』のようなソリューションを活用することで、よりデータドリブンな形に最適化された運用も浸透するはず。同じテレビデバイス上でも放送と通信でそれぞれ違う強みを協力させつつ、オンオフ統合したプランニングによって効果を最大化することが可能になっていくだろう」(濱﨑氏)
そして河辺が挙げたのは、一緒に揃える、まとめるという意味で「Co-Ordinate」。
CTVの領域もテレビの視聴率同等の品質で"揃え"、視聴率同様に全体を正しく"まとめる"ということが重要な課題と捉え、各社との意見交換を通じて課題に対するアクションを一緒に揃え、まとめていくビジネスコーディネーターとしての役割を担っていきたいとし、「引き続き皆さんのお役に立てる『身近な調整役』としてビデオリサーチがあり続けられるよう努める」と、セッションを締めくくりました。
(※) 「Tele-Digi AaaS for CTV」:地上波CMとCTV広告を統合モニタリングするソリューション。「AaaS」が提供するソリューションの一つ。
AaaSは統合的なメディアプランニングから、広告枠のバイイング、広告効果のモニタリングをワンストップで支援することでマーケティング戦略上最適な広告メディア活用を可能にするサービスで、「Analytics AaaS」「Tele-Digi AaaS」「TV AaaS」「Digital AaaS」の4つのサービス群から構成されている。 (AaaSは博報堂DYメディアパートナーズの登録商標)
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