【小西 未来のハリウッドのいま、日本のミライ】ワーナーが切り拓く映画館回帰への道

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【小西 未来のハリウッドのいま、日本のミライ】ワーナーが切り拓く映画館回帰への道

昨年の米脚本家組合と米俳優組合のダブルストライキのさなか、ワーナー・ブラザース・ディスカバリーを率いるデビッド・ザスラフ会長兼最高経営責任者はハリウッドで働くクリエイターたちの敵とみなされていた。

ザスラフ率いるディスカバリーといえば、2022年にワーナーメディアと合併し、ワーナー・ブラザース・ディスカバリーを発足。ワーナーメディアの前オーナーである米通信大手のAT&Tはコンテンツ作りに理解がなく、多くのクリエイターを敵に回していた。

2002年公開の「インソムニア」以来ワーナーを拠点にしていたクリストファー・ノーラン監督も「TENET テネット」への対応に失望して「オッペンハイマー」を別スタジオで撮ったほどだ。そのため、ディスカバリーへの事実上の政権交代は歓迎されていた。

だが、ザスラフはリストラや注目作の製作中止など強引なコストカットを実施。すでに完成していたDC映画「バットガール」を一般公開せずにお蔵入りさせる決断は、業界に衝撃を与えた。

かくして、先のダブルストライキにおいて、ザスラフは労働者を搾取する資本家の象徴となったのである。

だが、ストライキが終結してからしばらく経ったいま、業界の見方は変わりつつある。2024年早々、ワーナーはトム・クルーズと主演映画の企画開発を行う非独占契約を結ぶ快挙を達成。

トム・クルーズといえば、名前だけで観客を呼べる最後のハリウッドスターであり、自ら製作を行う名プロデューサーでもある。「トップガン」や「ミッション:インポッシブル」といったヒットシリーズの拠点であるパラマウントに身売り話が出ているとはいえ、ワーナーの大金星だ。

間髪入れず、ワーナーはレオナルド・ディカプリオ出演作を発表。「ファントム・スレッド」や「リコリス・ピザ」のポール・トーマス・アンダーソン監督による群像劇ということしか分からないが、ショーン・ペンやレジーナ・ホールが出演する注目作である。

トム・クルーズやレオナルド・ディカプリオ、ポール・トーマス・アンダーソンという才能を獲得した直接の立役者はワーナー・ブラザースの映画部門モーション・ピクチャーズ・グループの共同最高経営責任者を務めるマイケル・デ・ルカだ。

かつてはニュー・ライン・シネマの制作部長としてアンダーソン監督の「ブギーナイツ」や「マグノリア」をはじめ、「オースティン・パワーズ」や「ラッシュアワー」といった人気シリーズを手がけている。

その後、ドリームワークスの制作部長を経て、映画プロデューサーとして独立。「ソーシャル・ネットワーク」や「マネーボール」、「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」などのヒット映画を手がけている。

のちにMGMの会長としてスタジオに復帰するものの、同社がアマゾンに買収されたこともあって、デビッド・ザスラフ体制になったワーナーに移籍している。 スタジオ重役と映画プロデューサーとして長いキャリアを持つ彼は、業界内での信頼も厚く、だからこそ大物クリエイターたちがワーナーでの仕事を選んでいるのだ。

そして、そんな彼を映画部門のトップに起用したデビッド・ザスラフに対する評価も高まっている。

デビッド・ザスラフが繰り返し強調するのは、映画館回帰の重要性だ。ワーナーの前政権は、新作映画を劇場と動画配信サービスHBO Max(現Max)で同時公開する手法で批判を浴びた。

ザスラフは、劇場公開から配信などでの二次使用までの期間である「シアトリカル・ウィンドウ」をたっぷりあけると宣言しており、その甲斐もあって「バービー」はロングランのヒットとなった。米動画配信最大手のNetflixが劇場軽視の姿勢を貫くなか、ワーナーはクリエイターたちの拠り所となっている。

「スター・ウォーズ/最後のジェダイ」や「ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密」のライアン・ジョンソン監督の製作会社T-Streetがワーナーと2本の映画製作契約を交わしたのもその影響と思われる。

彼らはNetflixと「ナイブズ・アウト」の続編2本の契約を交わしている。2022年に完成した第2弾「ナイブズ・アウト:グラス・オニオン」は前作を凌ぐ高評価を獲得したにもかかわらず、Netflixは劇場公開を1週間しか行わなかった。そんな姿勢にジョンソン監督と彼のパートナーのラム・バーグマンは嫌気が差したに違いない。

2023年は「バービー」というメガヒットがあったものの、他の作品の興行成績は決して芳しくなかった。2024年以降はいよいよデビッド・ザスラフのもとで製作された作品が公開されていくことになる。ワーナー・ブラザース・ディスカバリーの真価が問われる年となりそうだ。

<了>

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