【小西 未来のハリウッドのいま、日本のミライ】社会派エンタメの終焉 。パーティシパント・メディアが示唆するハリウッドの転換

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【小西 未来のハリウッドのいま、日本のミライ】社会派エンタメの終焉 。パーティシパント・メディアが示唆するハリウッドの転換

アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞に輝いた「不都合な真実」をはじめ、作品賞や脚本賞を受賞した「スポットライト 世紀のスクープ」や「グリーンブック」など、数々の良質な社会派作品を世に送り出してきたパーティシパント・メディアが、閉鎖を発表した。

エンターテイメントの都ハリウッドにおいて、2004年の創業以来一貫して社会問題をテーマにした作品づくりに邁進してきた異色の製作会社の幕引きは、映画産業の大きな転換点を象徴している。

パーティシパント・メディア(旧パーティシパント・プロダクションズ)は、米オークションサイト「eBay」の初代社長として莫大な富を築いた億万長者ジェフリー・スコール氏によって設立された。

政治や社会改革を目指す積極的行動「アクティビズム」の理念をエンタメに持ち込むことを目指した彼は、マッカーシズムに立ち向かった実在のジャーナリストの物語「グッドナイト&グッドラック」(ジョージ・クルーニー監督)や、全米初のセクハラ訴訟に挑んだ女性を描いた「スタンドアップ」(ニキ・カーロ監督)などを手がけ、社会派作品の旗手として頭角を現した。

ハリウッドの商業主義に染まることなく、社会変革を促す作品づくりに徹するという高邁な理念は、多くの著名フィルムメーカーの共感を呼んだ。

スティーヴン・スピルバーグ監督とは「リンカーン」「ブリッジ・オブ・スパイ」「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」、ジョージ・クルーニーとは「グッドナイト&グッドラック」「シリアナ」、スティーヴン・ソダーバーグ監督とは「コンテイジョン」「インフォーマント!」など、錚々たる面々との協働により質の高い作品を生み出してきた。

また、同社の作品は現代社会の深刻な問題に真正面から向き合ってきた。

カトリック教会の性的虐待問題を暴いた「スポットライト 世紀のスクープ」、人種間の和解を模索した「グリーンブック」や「ヘルプ ~心がつなぐストーリー~」、ホームレス問題を浮き彫りにした「路上のソリスト」、ロマンティックコメディに高齢化問題を掛け合わせた「マリーゴールド・ホテルで会いましょう」など、我々の生きる世界の課題に鋭く切り込む。

ジュリアン・アサンジの実像に迫った「フィフス・エステート 世界から狙われた男」、食品業界の闇を暴く「フード・インク」、イルカ漁の残酷さを訴えた「ザ・コーヴ」など、タブーに踏みこむ姿勢も徹底していた。

しかし、20年に及ぶ歴史に幕を下ろすことになった背景には、エンタメ業界の構造変化がある。

近年のストリーミング台頭により映画館の売上は減少、制作費は高騰し、パートナー企業は増益を迫られるようになった。

商業的なヒット作を求める圧力が高まり、パーティシパント・メディアと共同製作するニッチなコンテンツは切り捨てられるようになった。

また、Netflixなどの大手では広告プランへのシフトが鮮明だ。こうした潮流の中で、社会的メッセージの強いパーティシパント作品は、広告主に敬遠されている。

創業者のスコールは閉鎖理由について「コンテンツの制作、配信、消費のされ方が劇的に変容を遂げた」と述べている。

135本もの映画や5本のTVシリーズを手がけ、アカデミー賞に73回ノミネート、18の賞を獲得した同社の幕引きは、社会派エンタメの一つの時代の終わりを告げていると言えるだろう。

<了>

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