【ラジオレコメンダー" やきそばかおる "の I love RADIO】アナウンサーの枠を超えて全国に向けたコンテンツを~RKB毎日放送『空想労働シリーズ サラリーマン』冨士原圭希さん~

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【ラジオレコメンダー" やきそばかおる "の I love RADIO】アナウンサーの枠を超えて全国に向けたコンテンツを~RKB毎日放送『空想労働シリーズ サラリーマン』冨士原圭希さん~

ラジオ レコメンダー" やきそばかおる "の I love RADIO  第77回


今回は福岡のRKB毎日放送のアナウンサー、冨士原圭希(ふじはら・たまき)さんに注目しました。

冨士原さんは2020年に入社。企画・脚本・演出を務めたラジオドラマ『空想労働シリーズ サラリーマン』(全8回)が第61回ギャラクシー賞(放送批評懇談会 主催)ラジオ部門優秀賞、第50回放送文化基金賞のラジオ部門優秀賞を受賞しました。

第2期「帰りたいサラリーマン」の制作も決まり、8月24日から放送されます。

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音のみで表現するラジオドラマは、テレビドラマや映画などと違った困難があります。「いち会社員として、全ての働く人たちへ向けてこの作品を作りました」という冨士原さんに、制作秘話を訊きました。

●冨士原圭希・プロフィール

千葉県野田市出身。大学在学時に元NHKのアナウンサーの宮川俊二さんの講義でニュース原稿を読んだところ「キミ、アナウンサー向いてるんじゃない?」と言われたことを機にアナウンサーを目指す。

担当番組は『カリメン』(火曜担当)『冨士原圭希 日曜のウラ』『連続ラジオドラマ ~シアワセの高取家~』『RKBエキサイトホークス』(以上はラジオ)、『タダイマ!』(テレビ)(2024年7月現在)

趣味は仏像研究、『男はつらいよ』鑑賞(渥美清に憧れており、高校時代は演劇部に所属していた。ただし、妖精の役や風の役など非人間の役が多かった)。

特技は啖呵売、ドリンク売り。入社当時は"平成生まれの昭和男"と呼ばれ、リスナーの中には"本当は公共放送から42歳で中途入社した"と思っている人もいたとか。

尊敬する人は古舘伊知郎、安住紳一郎(TBSアナウンサー)、福島暢啓(MBSアナウンサー)ほか。

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『空想労働シリーズ サラリーマン』とは

『空想労働シリーズ サラリーマン』は、2023年8月22日から10月10日にかけてRKBラジオ『カリメン』(火~木曜 21時〜22時52分)内で放送したほか、YouTubeでも配信された昭和特撮風ラジオドラマです。会社員の喜びや苦悩を巨大ヒーローと"会獣"に落としこみました。

劇中で使用された音楽は、新しい学校のリーダーズやBiSHなどの楽曲制作・プロデュースで知られる、福岡在住の音楽プロデューサー・松隈ケンタさんが手がけました。

アドバイザー兼ヒロイン隊員役は『魔法戦隊マジレンジャー』(テレビ朝日系)マジピンク役を務めた、俳優の別府あゆみさん。

さらに、『ドラえもん』(テレビ朝日系)スネ夫役の声優・関智一さん、『仮面ライダーアマゾン』(毎日放送)主演の岡崎徹さんなど豪華俳優・声優陣が出演。

さらに同局のアナウンサー、同局に出演経験のあるパーソナリティのほか、同局の社長も出演しました。

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▲第61回ギャラクシー賞贈賞式 © 放送批評懇談会

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きっかけは上司の言葉から

やきそば まずは企画が動き始めた時の話をお聞きしたいです。『空想労働シリーズ サラリーマン』を作ったきっかけは?

冨士原さん 僕が特撮が好きなことを知っている上司から、秋のイベントでヒーローものの企画で盛り上げられないか、という話があったんです。ラジオドラマを作ることになったものの、それからが大変でした。

やきそば 制作期間はどのくらいでしたか?

冨士原さん 初回の放送までおよそ半年です。

やきそば 意外と短いですね!

松隈さんへの信頼

やきそば 昨年の秋にRKBラジオとテレビの大型イベント「RKBカラフルフェス2023」で行われた「空想労働シリーズ サラリーマントークショー」のイベントで冨士原さんが松隈さんに企画書を見せた時の話をしてらっしゃいましたよね。「熱意がすごく感じられた」とおっしゃっていました。

冨士原さん 「松隈さんが音楽を担当してくれたら絶対にうまくいく」と思っていました。

松隈さんはBiSHやBiSをはじめ錚々たるアーティストの作品を手がけていますが、実際にお会いすると「近所の気さくなおにいちゃん」といった雰囲気なんです。そこで少し甘えさせていただいたことがあります。

やきそば 松隈さんに『サラリーマン』で使用する音のプロデュースを依頼した時、松隈さんの反応はいかがでしたか?

冨士原さん 「うんうんうん、面白そうだね」という反応だったんですけど、あとから聞いたところによるとあまりピンときていなかったそうです(笑)。

音声だけなので厳密にいえば「特撮」ではなく「特録」ですし。「そもそも『空想労働シリーズ』とか『サラリーマン』ってどういうこと?」って(笑)

やきそば 確かに最初の時点で想像するのは難しいでしょうね。

冨士原さん ただ、松隈さんはアイドルをプロデュースする時でも、ピンとこない時のほうが気になるそうで、全てがイメージできてしまうとそれ以上のものになりにくいらしいんです。想像しづらいからこそ惹かれたとおっしゃっていました。

やきそば 実際に出来上がってきた音を聴いていかがでしたか?

冨士原さん 私が思い描いていたもの以上のクオリティのものを作り上げてくださいました。私の脚本が松隈さんの音楽によって補完されていく感覚で、むしろ松隈さんが世界観を作ってくださいました。

理想の効果音を求めて東奔西走

やきそば トークショーでは「劇中で使用した効果音をどのように作ったのか」という話でも盛り上がっていましたね。

冨士原さん 効果音は基本的に自分で考えました。毎日耳を澄ませながら、理想の音になりそうなものをずっと探していました。

例えば、変身時の音はフライパンの上で硬貨をグルグル回した音をもとにしています。ビルが壊れる音はペットボトルを潰した時の音を使っています。こうした音を松隈さんに編集していただきました。

どこまで説明するか、という悩み

脚本は1話から最終話まで、全8話分を冨士原さんが書き終えて収録しました。収録はキャストが一堂に集まって収録したわけではなく、全話分のセリフをそれぞれの出演者が収録したものを組み合わせて作り上げていきました。

やきそば 脚本はどのようにして書いていきましたか?

冨士原さん まずはお話のコンセプトと"会獣"を決めて、あとはただひたすら書いていきました。脳内に映像が出てくるのでそれを言語化する作業でした。

やきそば 完成した作品を聴いて、音とセリフだけで伝わるかどうか、不安になりませんでしたか?

冨士原さん 不安はありました。テレビドラマを観ていて「この説明っぽいセリフはなくてもいいのでは?」と思うことがありますが、作る側になってみると「説明があったほうがいいのでは」と不安になるんです。

ただ、僕は過剰に説明するのは好きではなかったので、あえて少し分かりづらい部分があるくらいのほうがいいかなと思って作りました。

細かく説明するとイメージしづらくなるので、音声を少し補完するくらいにとどめました。

救いになったリスナーの反応

やきそば 第1話が完成してみていかがでした?

冨士原さん 僕が担当している番組『カリメン』(火曜)で放送したところ、各々想像しながら楽しんでいただいた方が多かったです。

巨大ヒーローものはイメージが皆さんに刷り込まれているから、レールが敷かれていたんです。でも音だけでこんなに想像してもらえるとは、新鮮な驚きでした。

やきそば 編集も冨士原さんがされたんですよね。

冨士原さん 助言はいただきつつ、ずっとひとりで編集していました。毎週放送があるので、一度走り始めちゃうとやるしかありませんでした。

振り返る余裕すらなかったのが正直なところです。だから『カリメン』で新作を放送した時に、リスナーの皆さんから寄せられたリアクションがとても励みになりました。

やきそば 特に反響がよかった回は?

冨士原さん 第3話の「巻貝会獣 サザエデス」。月曜に出社する憂鬱さをテーマにしまして「共感しながら聴いた」という方が多かったです。

「二面会獣 オベッカー」という会獣を登場させた第4話も好評でした。文字通り"おべっか"をテーマにしまして、反響の大きさに、会社で働いている人で本音で生きている人のほうが稀有だと改めて実感しました。

やきそば 私は第7話「ギガトン会獣 ストレスドン」も好きです。労働者のマイナスエネルギーを吸収して会獣が大きくなるという。

冨士原さん ほかの回に比べるとかなりコメディータッチな回で、こちらも楽しんでくださった方が多かったです。

冨士原アナの熱意の伝搬

やきそば 『サラリーマン』がたくさんの方に楽しんでもらえて高い評価を受けたのは、冨士原さんの溢れ出る情熱で企画して、まわりの人を惹きこんでいったことが大きいと思うんですよね。

冨士原さんは普段は落ち着いている印象ですが、今回は『サラリーマン』を実現させるため、ブレーキをかけずに思いっきりやった感じがあります。

冨士原さん この時ばかりは無理なお願いをたくさんしました。「自分が聴きたい作品にしたい」という一心でした。関わっていただいた皆さんに感謝です。

やきそば 登場人物に、冨士原さんの上司も出演していましたよね。

冨士原さん 大役をお願いしました。なかでも大先輩の茅野(正昌)アナウンサーはもともと70年代の特撮が大好きで、すぐにイメージをつかんでいただきました。

やきそば RKBの社長の佐藤泉さんも出演されていますよね。冨士原さんが自らオファーされたんですか?

冨士原さん そうです。社長もご多忙なので、エレベーターの前で待ち伏せをして、社長が降りたタイミングで「社長、こういう企画を考えてまして...、ぜひ社長に出演していただきたく思っております。役割は会獣に本社を破壊される会社の社長の役です」と説明しました。

やきそば なんと(笑)! 劇中では「ウチの本社が......」と嘆いていましたよね。それで快諾していただけました?

冨士原さん 「分かった、分かった」という感じで受け入れてくれました。

やきそば ユーモアが分かってらっしゃる(笑)。

放送終了後からの意外な盛り上がり

やきそば 『空想労働シリーズ サラリーマン』は、放送が終了してから面白い広がりをみせましたよね。

冨士原さん JR博多駅で駅長と一緒に花を販売したり、『サラリーマン』のグッズが誕生してショッピングモールで販売したり、第8話に出演した岡崎徹さんのサイン会が行われたりしました。

面白がってくれる人が自然に集まってくださったので、何事も始めることが大事だと痛感しました。最終回が放送されてそれで終わりだったら寂しいですから。

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溢れ出る創作意欲

やきそば 今年の8月24日から第2期「帰りたいサラリーマン」の放送が決定しました。まさに現在は制作に追われている時期だと思いますが、いかがですか?

冨士原さん フィクションの作品が好きなので、常に創作意欲はあります。『カリメン』で、和歌を現代に落とし込んで解説する「恋の和歌さわぎ」というコーナーもやっています。

やきそば ひとり芝居チックに展開させていますよね。冨士原さんがこれまでに担当した番組を振り返っても、きちんと構成を考えてしゃべっている印象があります。とても楽しみです!

あえて全国に向けたコンテンツを

やきそば 冨士原さんが『空想労働シリーズ サラリーマン』の内容を考えるうえで意識したことはありますか?

冨士原さん 弊社は福岡の放送局なので福岡の色を出してもよかったのですが、あえてローカルヒーローといった設定にはしませんでした。

それは、すでに存在するローカルヒーローに埋もれないようにするためです。今はradikoがあるので全国で聴いていただける時代でもありますから。

やきそば 確かにそうですね。

冨士原さん 弊社と系列は異なりますが、僕は『水曜どうでしょう』(HTB北海道テレビ)のスタッフの皆さんの考え方にかなり影響を受けてきました。

例えばディレクターの藤村(忠寿)さんは「ローカル局だからといってこうあるべき、という意識はもたなくてもいいのではないか」という考えで番組を作ってらっしゃるそうです。

やきそば 『水曜どうでしょう』は早い段階から全国を視野に入れた企画をやっていましたよね。

番組作りにかける思いは『藤村忠寿のひげ千夜一夜』(ラジオNIKKEI)でも嬉野(雅道)さんとともによくおっしゃっていますね。

冨士原さん 藤村さんが手がけたドラマ『チャンネルはそのまま!』からもとても刺激を受けました。

これは私の夢のひとつですが、今後、何かを一緒にできたら...と想像しています。

コンテンツ戦国時代において、ローカル局も全国に向けたコンテンツを生み出すことが大事だと思っています。ローカルらしい番組も大事ですが、それに縛られない番組作りも必要だと思います。

やきそば 「一緒に面白いものを生み出す」といえば、YouTubeチャンネル「フィルムエストTV」主宰の にしいさんと作った映像も面白かったです。

冨士原さん にしいさんとは、ずっと一緒に仕事をしたいと思っていました。にしいさんは友近さんとも仕事をしていますよね。私も友近さんを尊敬していますし、いつか一緒に作品ができたらと願っています。

アナウンサーの枠を超えて

やきそば これから放送局は番組を放送するだけではなく、楽しいものを創り出すカンパニーになることが大切だと思うんですよね。

冨士原さん アナウンサーは基本的な技術は身につけないといけませんが「アナウンサーだからあれをやってはいけない」とか「これをやってはいけない」といったことはないと思うんです。

『サラリーマン』を作っている時は番組として意義があるのだろうか、と不安に思う時期も長かったのですが、ギャラクシー賞と放送文化基金賞と大きな賞をいただいて、間違っていなかったんだと思いました。

やきそば 今後『空想労働シリーズ サラリーマン』をもっと大きくしていくうえで、やってみたいことはありますか?

冨士原さん 欲を言えばやっぱり実写化したいです。俳優陣はできれば企画の部分から一緒に考えてくれる方だとありがたいです。あくまでも希望です!

やきそば 今後の展開を楽しみにしております。

『空想労働シリーズ サラリーマン』新シリーズ「帰りたいサラリーマン」
初回は2024年8月24日(土曜 7時〜7時30分)
ポッドキャスト・YouTubeなど各種配信あり

前作では描かれなかった「サラリーマンの変身者」がついに登場。
一刻も早く"帰りたい"男の、"帰るべき"職場を守るための闘いが、今始まります。

新キャストは、主人公ヤマダ役 杉田智和、会獣役 野沢雅子、会社犬オフコース役 大塚明夫、ヨーコ役 早見沙織、シゲル役 潘めぐみ。

前作『空想労働シリーズ サラリーマン』から継続のキャストは、用心棒のコジロー役 関智一、ヒロイン隊員役 別府あゆみ (アドバイザー兼任)、マイホーム妻役 菊地美香 (吉田とは夫婦共演)、ホケン夫役 吉田友一 (菊地とは夫婦共演)。

ほか、社内出演者として社長役 佐藤泉(RKB毎日放送 代表取締役社長)、RKB労働環境防衛保障 熱血隊員役 櫻井浩二(RKB毎日放送 アナウンス部部長)、RKBひょうきん隊員役 坂田周大(RKB毎日放送 アナウンス部専任部長)、RKB隊長役 田畑竜介(RKB毎日放送 アナウンス部副部長)
ナレーション 茅野正昌(RKB毎日放送 アナウンス部シニアエキスパート)

音楽:松隈ケンタ、企画・脚本・演出・編集:冨士原圭希(RKB毎日放送 アナウンス部)

第2期スタートを記念して、第1期総集編が3週にわたって放送されます。
8月3日、10日、17日(土曜 7時〜7時30分)


最後はラジオドラマやショートストーリーが楽しめる番組のなかから、3本を紹介します。

TBSラジオでは『リンレイpresents 三丁目バス停前の珈琲店~金沢雅美と家族のかたち~』(土曜 20時〜20時30分)を放送中。

舞台は「三丁目バス停前の珈琲店」。お店のカウンターに座るお客様は、何故か毎回"ちょっと良い家族の話"を語り始めます。

聞き役は珈琲店オーナーの金沢雅美。お客様とオーナーの会話を盗み聞きしながら、多様化する「家族のカタチ」を考える30分のラジオドラマです。細かく使用されている効果音を含めて、しっかりと作られています。

J-WAVEで放送されている『BITS & BOBS TOKYO』(金曜 25時〜25時30分)は、クリエーティブディレクター高崎卓馬のショートストーリーとトークで綴る30分。

ショートストーリーは月替わりでふたりの俳優が登場。毎回違う役を演じます。後半はBITS & BOBS(取るに足らない) ものに目を向けるトークを展開します。この番組はJ-WAVEの音声配信メディアSPINEARで、過去に放送したドラマの一部を再編集して配信されています。

高知のRKCラジオでは『土佐のむかし話』(土曜 17時30分〜17時45分)を放送。

こちらはテレビでも放送されています。なんともほのぼのした雰囲気です。子どものみならず、大人にもおすすめです。

<了>

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