【小西 未来のハリウッドのいま、日本のミライ】スカイダンスによるパラマウント買収とストリーミング業界の行方
米映画制作会社スカイダンス・メディアが、大手メディア企業パラマウント・グローバルの買収で合意したことが明らかになった。この取引により、ハリウッドの勢力図が大きく塗り替えられる可能性が高まっている。
今回の買収劇は、ストリーミング時代におけるメディア業界の生き残りをかけた戦略の一端を示すものといえる。
スカイダンス・メディアは、オラクル創業者のラリー・エリソンの息子、デヴィッド・エリソンが2010年に設立した映画・テレビ番組の製作会社だ。
「スター・トレック」や「ミッション:インポッシブル」「トップガン マーヴェリック」などのヒット作で知られ、パラマウントと密接な関係を築いてきた。
また、Amazon向けに「ジャック・ライアン」、Apple向けに「ファウンデーション」といった大作ドラマも手がけ、ストリーミング時代に適応した作品作りを進めている。
一方、パラマウント・グローバルは、映画スタジオのパラマウント・ピクチャーズや、テレビネットワークのCBS、MTVなどを傘下に持つ大手メディア企業だ。しかし近年は、広告市場の低迷やケーブルテレビ加入者の減少、約150億ドルの多額の負債などが経営を圧迫していた。
さらに、自社のストリーミングサービス「Paramount+」の収益化にも苦戦しており、抜本的な改革が求められていた。
こうした状況下で、コンテンツ制作力に定評のあるスカイダンスによるパラマウントの買収は、両社の強みを活かした生き残り戦略として注目される。
ハリウッドを取り巻く環境で最も大きな変化は、ストリーミングサービスの台頭だ。Netflix、Amazon Prime Video、Disney+に加え、Hulu、Apple TV+、ワーナー・ブラザース・ディスカバリーのMax、コムキャストのPeacock、パラマウントのParamount+など、多数のプレイヤーが競争を繰り広げている。
各社は視聴者獲得のため、質の高いオリジナルコンテンツの制作に巨額の投資を行っている。2022年には、Netflixが約170億ドル、Amazonが約166億ドル、ディズニーが約330億ドルをコンテンツ制作に投じたと報告されている。
しかし、月額料金10ドル程度では採算が合わず、業界関係者の間では、広告モデルを導入しても採算ラインとなる加入者数は2億人とされている。現在この条件をクリアしているのはNetflixとAmazonのみで、従来のメディア企業の株価は軒並み低迷している。
ユーザーにとっても、魅力的なコンテンツを求めて複数のサービスと契約せざるを得ない状況は、経済的な負担となっており、ストリーミング業界の持続可能性に疑問を投げかけている。
スカイダンスによるパラマウント買収は、こうした業界の変革期における生き残り戦略の一つといえる。
デヴィッド・エリソン氏は、「パラマウントの世界クラスのストーリーテリング能力を活かし、コンテンツ制作に注力する」と述べ、「パラマウントをテクノロジーとのハイブリッド企業に変革し、進化する市場のニーズに応える」というビジョンを示している。
今後、他のメディア企業も同様の再編や統合を模索する可能性が高い。ディズニーはDisney+とHuluを統合すれば、加入者数2億人の条件をクリアできる。ワーナー・ブラザースのMaxとパラマウントのParamount+が合併するのも、一つのシナリオだろう。
こうした再編により、ユーザーにとっても、サービスの選択肢が絞られ、契約の簡素化や料金の適正化が期待される。
ストリーミング時代のメディア業界は大きな変革期を迎えようとしている。パラマウントの買収劇は、その変化の序章かもしれない。
<了>