【ラジオレコメンダー" やきそばかおる "の I love RADIO】~特別編~ 過渡期は今!先入観の排除と"radiko世代"の参入で、ラジオはもっと面白くなる
ラジオ レコメンダー" やきそばかおる "の I love RADIO 第82回
2017年から約7年間にわたり「Synapse」で人気コラム【ラジオレコメンダー" やきそばかおる "の I love RADIO】を連載されているやきそばかおるさん。
そのラジオ愛と多彩な知見あふれるコラムは、回を重ねるごとに読み応えを増しています。
今回は特別編として、ラジオを取り巻く状況の変化やその中での期待、今味わえるラジオならではの楽しみなどについてインタビュー。やきそばさん独自の視点で「ラジオの今」を語っていただきました。
「タイムフリー」がラジオにもたらした起死回生
―近年radikoの普及やコロナ禍における巣ごもり需要を契機に、ラジオの人気が高まっています。さらにSpotifyやVoicyといった音声サービスが増えるといった、ラジオを取り巻く状況の変化をやきそばさんはどう捉えていますか?
確かにここ4、5年で文化がガラッと変わり、ラジオにおける過渡期が来ていると感じます。中でも特に大きいのが、配信とサブスクの普及によって、みんなが楽しみたいものを好きな時に聞ける時代になったことです。
radikoは2016年10月からタイムフリー機能が始まり、テレビ番組をTVerで見るのと同様、「好きなもので、自分の時間を埋めていく」という大きな文化の変遷にradiko(ラジオ)も乗ることができました。
従来のようにラジオを受信機やradikoでオンタイムで聞く人が多い反面、リスナー側のタイミングで聞けなければ、選ばれるのが難しくなってきているのも確かです。
2015年頃まで「ラジオはもう衰退していく一方ではないか」という諦めムードがありましたが、そこから起死回生を起こしたのがタイムフリー、つまりradikoをサブスク感覚で使うという動きだと思います。
―以前からのラジオリスナーも、今はradikoで聞く方が多いのでしょうか?
もちろん、受信機で聞いている人も多いといわれていますが、radikoに移った人も多いですね。近年、学生時代にradikoで聞き始めてラジオ業界を志した新入社員がラジオ局に入ってきているそうです。
受信機は県境を越えると電波が入らず聞けなくなるイメージが強いと思いますが、radikoユーザーにはそれがない。エリアフリーとタイムフリー機能を使えば有料ではありますが、全国の番組が全てクリアに聞けるため、ラジオへのイメージも全然違うように思います。
例えば沖縄や北海道の番組を、全く別の地域で聞いている人が増えています。ただ、有料会員にならないとradikoで聞けるラジオ局の数に制限があるので、いかに便利になっていくかが、今後さらにラジオを躍進させていくためのポイントだと思います。
グッズ展開や収益化の革命!?ラジオと「推し活」の親和性とは
―地域や時間の制限からフリーになったことがリスナー拡大の一つのポイントなのですね。他に注目しているムーブはありますか?
もう一点、ここ数年のradikoの盛り上がりには、推し活との親和性が大きく影響していると思います。タイムフリーがあると、推しがパーソナリティを務める番組ばかり聞けるし、ゲストで出た番組もハシゴできますよね。そうした形でますます推しの番組にどっぷりハマれるようになったのも良かったのではないかと。
―「推し活」視点で見たときの、ラジオの独自性はどこにあると思われますか?
コロナ禍が明けてからここ数年休止していたイベントが復活したり、新たなイベントも増えて、推し番組やパーソナリティを応援するためにたくさんの人たちが参加しています。
番組のジャンルにもよりますが、ラジオの応援の仕方もアイドルやアニメの応援の仕方に似てきたと感じます。番組の放送だけに留まらず、そうした一つの「場」になれることが強みになっているのではないでしょうか。
中でも特徴的なのは番組グッズの展開です。これまでラジオのグッズと言えばメールが採用された人や、抽選などでプレゼントするものとされてきました。だからイベントでグッズを「売る」ことについて躊躇していたラジオ局もありました。
ところがリスナーが推し活をする中で、ラジオ番組に対して「有料でもいいから、グッズを売ってほしい」「番組が続くように、グッズを買って応援したい」という人が増えてきたのだと思います。
グッズのラインナップもアクリルスタンドやガチャポングッズ、番組のタイトルやパーソナリティの名前が入ったタオルのように多種多様になってきています。
―「推し活」との親和性から新たな収益化の方法も見えてきた?
ラジオ局は基本的に予算が厳しいので、どこかで収益を増やしていく方法が必要です。応援するリスナー側も、番組にお金ないことを分かっている人が多いため、応援したい気持ちが、グッズ買うこと繋がったのが、ここ4~5年だと思います。
1~2社スポンサーがつくだけでは、番組としては厳しいものがあります。イベントを開催して、スポンサーにブースを出してもらったり、グッズを売って新たな収益化を図れた方がいい。一部の局は、推しを応援する文化をうまくラジオに取り入れています。
エンタメとして、アイドル、バンド、声優などのジャンルがあった中、これまでラジオは少し存在感が薄くなっている印象がありました。それが今、1つのジャンルとして同じ土俵に立っている雰囲気を感じます。
SNSの利点は、「サイレントリスナー」の可視化ができたこと
―現在では、さまざまなつぶやきをポストしながら番組を聞いているリスナーも多いかと思いますが、SNSの影響についてはどんな風にみられていますか?
いい部分についていえば、ラジオ局が独自にブログなどをつくらなくてもお知らせをしやすくなりました。その反面、SNSは情報が多すぎて、伝わりにくくなってしまった面もあります。その番組が好きでハマっていて、SNSを四六時中チェックしているような人じゃないと、発信した情報も届きにくくなっているのではないかと。
コアな人だけの集まりになってしまうと、ファンの裾野が広がらない可能性があります。手軽に発信ができるようになった一方で、「伝える」と「伝わる」の壁がますます厚くなっていて、「伝えているけど伝わらない」状況の落差が激しいと感じます。
―ラジオの場合、いわゆる「ハガキ職人」とのやり取りも特徴ですが、そうした方々のアプローチもSNSで変わっていますか?
リスナーがハッシュタグをつけてリアクションをして楽しむようになりました。生放送の番組のなかには、ハッシュタグの投稿を拾ってくれる番組があります。SNSの投稿はほとんどがリアクションです。
「他の人もこんなに楽しんでるんだ」と団結感のようなものが生まれます。ラジオは人が集まる一つの「場」なので、楽しんでいる人の可視化ができたのはすごく大きいです。
ただ、パーソナリティや番組の関係者が見ているかもしれないのを承知で敢えて嫌なことも書く人もいるし、結果的に、積極的に参加している人だけの番組になってしまう可能性もある。だから、参加はしないけど聞いている「サイレントリスナー」を大事にできるといいですよね。
若者にとってのラジオは、テレビ、動画、ライブと"地続き"のメディアに変化した
―コラムには、学生向けの番組やラジオに関わる若者が何度か登場しています。そうした取材を通して、今の若者はラジオのどこに魅力を感じていると思われますか?
ラジオで「話してみたい人」と「裏方をやってみたい」と「ただ楽しみたい人」の3タイプにわかれます。ただ、「話してみたい人」も、一概にラジオパーソナリティを目指すわけではないところがあります。
たとえば今は声優の養成学校に行く人も多い。声優もラジオの番組を持っていたりしますし、若者も多彩なエンタメの中の一つとして、ラジオに興味がある人が多いように感じます。
人気の番組は学生向けの番組のみならず、アイドルや芸人の番組など、やはり「推し活」との密接な繋がりを感じます。ライブで応援するのと同じ感覚でラジオでも応援する。
これまでラジオは年齢が高い方が聞く印象が強かったですが、ラジオが若い層にとってもライブ、動画、テレビと"地続き"のメディアになった感じはあります。
ラジオは地元に向けた番組であっても「もっと聞かれてほしい」くらいの意気込みで
―コラムの中で、「全国に通用する番組」づくりに意欲を燃やすローカル局の方がいる一方で、「地域性が大事」と語る方もいらっしゃったのが印象的でした。そうした観点もふまえ、ラジオ番組の広がりや広げ方をどう考えていますか?
地域性をいったん横に置いた場合、面白い番組はある程度は誰が聞いても面白いと思うんです。今までの電波放送だと、該当の地域しか聞けなかったのはあまりにもったいなかった。今はradikoで全国から聞けるし、Podcastで配信すれば海外で聞いてもらえる。
だからこそ、「うちの番組は、地元の人はもちろん、他の地域の人が聞いても面白いと思うはず」という意気込みで作っている人も多いです。
その一方で、ローカル局だから地域性の強いものを作ろうというふたつの考えがあります。番組のジャンルにもよりますが、地元の人に向けて放送していたら、噂が噂を呼んで他の地域のリスナーも聞いていた...というのはひとつの理想だと思います。
僕自身が一番恐れているのは、番組を作る側がラジオで"作りがい"を感じなくなってしまうことです。
さらに、今後、人口はどんどん減っていきます。その中でリスナーを獲得していくためには、放送地域内に住んでなくてもその地域にゆかりがある人や興味のある人がもっと気軽に聞ける方法があったらいいなと思います。
そこを救うのがPodcastだと思います。今はradikoのアプリからでもPodcastが聞けるようになりましたし、ジェーン・スーさんと堀井美香さんの『OVER THE SUN』のように全国規模でファンがつき、番組のイベントも大成功している例もあります。
「話したら実は面白い人」を発見できる醍醐味
―ラジオを取り巻く状況が変わり、radikoをベースとした一つの機運も生まれている中で、やきそばさんが思う、「今ラジオだからできること」は何でしょうか?
今の時代、「話したい人」は自分からどんどん発信していきます。そんななかで「自分から発信しようとはしていないけど、喋ったら面白そう」な人が登場したらもっと面白くなるのではと思います。そういう人が人気者になるのもラジオの醍醐味だと思っています。
新しいキャラクターが全国のローカル局から出てきて、「面白い人がいるぞ」と話題になってくれたらいいですよね。"発掘"をしていく部分に鉱脈が潜んでいる気がします。
また、ラジオが好きな人は「決して"誰もが知っている番組"というわけではないけど、自分は応援してる」という番組があると思うんです。それで実際にイベントに行くと、実はこんなに聞いている人がいたんだと分かるのが理想です。
昨年、ABCラジオのイベント「ABCラジオまつり」で初めて「デジタル配信ステージ」が登場しました。そこでPodcastの配信番組のイベントを開催したところ、たくさんのお客さんが集まったんです。出演者の方が「聞いてくれてる人がこんなにたくさんいるんだ!」と驚いたっていう。この展開には一つの夢がありますよね。
今後は"Podcast発"のラジオ番組リスナーも!? 「ラジオを聞くのが当たり前」の文化を目指すタイミングは、今
―今後取材したいと考えている方はいますか?
大阪の「FM802」で大きな音楽イベントを次々に仕掛けている、プロデューサーの今江元紀さん。
なかでも2009年に始まった「FM802 ROCK FESTIVAL RADIO CRAZY」は一大音楽フェスイベントです。FM802はミュージシャンからもとても信頼されていて、音楽に対しても人に対してもとても熱いラジオ局。今江さんが考える「FM802の流儀」をお聞きしたいです。
―番組として注目されている、おススメのラジオについても教えてください。
一度「I love RADIO」でも紹介した『金子哲也 バス語り記』という福岡のKBCラジオの番組です。
路線バスの問題は社会課題の中でもとても重要ですが、バスにスポットをあてた番組は稀有です。バスが大好きな金子さんは「バスには未来がある」といいます。
AIで走行ルートを決めて運行する実証実験も行われていて、子どもからお年寄りまで、交通手段を得られるように考えられています。バスは重要な乗り物なのに、語る場があまりありません。バスの事情は地域によって異なるので、こうした番組が全国に広ればいいなと思います。
あとは、千葉のBAYFMで放送している『ロバート秋山の俺のメモ帳!on tuesday』は秋山さんがとても自由にやっているところが面白く、エポックメイキングだと思います。なかでも注目はボイスレコーダーを使ってリスナーが参加できる企画。
子どもやおじいちゃんの寝言をはじめ、何でもない生活音を面白く使っています。しかも誰でも参加できるのががポイント。ボイスメモで参加できる番組は増えていますが、秋山さんがツッコミを入れてうまく料理すると天才的に面白くなります。
―ありがとうございます。最後にラジオの今後の展望や期待についてお聞かせください。
今後はradikoではなく、Podcastで初めて音声配信メディアに触れたという人も増えてくると思います。Podcastで音声メディアの楽しさを知ってラジオを聴くようになった人もいます。となると、いかに従来の考え方に捕らわれることなく、気軽に楽しめるメディアとして浸透するか、が鍵を握ってきます。
「ラジオを聞くのが好き」というと「珍しい」という目でみられるかもしれませんが、「ラジオを聞く」ことが自然に思われることを願います。
このところ、学生時代にradikoでラジオの楽しさを知った方がラジオ業界に徐々に入ってきています。学生の時にさまざまな番組を聞いて、自分も楽しい番組を作りたいという人が、新しい発想で、盛り上がる仕掛けを生み出してくれると思うとラジオに対する期待は膨らむばかりです。
<了>