【小西 未来のハリウッドのいま、日本のミライ】スーパーヒーロー映画への過信がもたらしたもの。「スパイダーマン」フランチャイズの新たな局面とは?

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【小西 未来のハリウッドのいま、日本のミライ】スーパーヒーロー映画への過信がもたらしたもの。「スパイダーマン」フランチャイズの新たな局面とは?

製作費1億ドルを超えるアメコミ大作が、北米興行収入でわずか1100万ドルという散々なデビューを飾った。その作品とは、マーベルコミックスの人気キャラクターを主役に据えた新作映画「クレイヴン・ザ・ハンター」。

ただし、制作を手がけたのはマーベル・スタジオではなく、ソニー・ピクチャーズ。つまり、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)から独立した作品だ。

実は、ソニー・ピクチャーズは、マーベルコミックスのキャラクターを起用した独自の実写映画をこれまでにも作ってきている。「ヴェノム」シリーズ、「モービウス」「マダム・ウェブ」、そして、今回の「クレイヴン・ザ・ハンター」だ。

これらすべてに関係しているのは、「スパイダーマン」に登場したヴィランという点だ。ソニー・ピクチャーズは「スパイダーマン」の映像化権を保有しており、同シリーズはスタジオ経営を支える屋台骨となっている。

さらなる収益を獲得するため、同社は「スパイダーマン」に登場するサブキャラたちを映画の主役にする方法を採用したのだ。

つまり、「スパイダーマン」を軸とする独自のユニバースを構築することになったのだ。これは「ソニーズ・スパイダーマン・ユニバース」(SSU)や「スパイダーバース」などと呼ばれる。

2018年公開の第1弾「ヴェノム」は世界総興収8億5000万ドルを超える大ヒットを記録。これを受けて、続編「ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ」をはじめ、「モービウス」「マダム・ウェブ」、「ヴェノム:ザ・ラストダンス」、そして「クレイヴン・ザ・ハンター」と矢継ぎ早に展開していった。

しかし、興行で大成功したのは「ヴェノム」だけで、その後は右肩下がりである。「マダム・ウェブ」(製作費8000万ドルに対し、世界興収1億ドル)と「クレイヴン・ザ・ハンター」の不調がダメ押しとなった。この路線をこのまま続けても儲からないことは、誰の目にも明らかだ。

では、なぜ失敗したのか?

まず言えるのが、スーパーヒーロー映画への過信だ。たしかにスーパーヒーロー映画はいまでもドル箱だ。だが、「アベンジャーズ/エンドゲーム」が歴代世界総興収記録を更新した2019年を境に、王様のマーベルですらも「エターナルズ」や「アントマン&ワスプ:クアントマニア」「マーベルズ」と興行で不振にあっている。

いまだに人気ジャンルであることには間違いないが、クオリティが伴わない作品は厳しい状況に追いやられている。不幸にも、ソニーがSSUにゴーサインを出したのは、スーパーヒーロー映画が厳しい現実と直面する前のことだった。

そして、ソニーはフランチャイズ運営が上手ではない。女性キャストでリブートを狙った「ゴーストバスターズ」はあっけなく失敗したし、アンドリュー・ガーフィールドを主演に迎えた「アメイジング・スパイダーマン」シリーズもたった二作で頓挫。

その後、「スパイダーマン」をリブートさせるにあたり、マーベル・スタジオとの共同制作という形を取らなくてはならなかったほどだ。

マーベル・スタジオではケヴィン・ファイギ、DCスタジオではジェームズ・ガン監督がクリエイティブ面でのリーダーシップをとっている。だが、ソニーにはそれに該当する人物が存在せず、クリエイターたちが重役の言いなりになってしまったために、凡庸な出来になってしまったことは容易に想像できる。

そもそも主役が登場しない「スパイダーマン」を成立させるためには、相当な工夫が必要だった。厳しいことを言うようだが、「ヴェノム」の成功で勘違いしてしまったというのが実際のところだろう。

とはいえ、本丸の「スパイダーマン」では正しいアプローチを取っている。トム・ホランド主演の実写作品では、マーベル・スタジオの頭脳とMCUの魅力に依存して安定したクオリティを維持している。2025年には、マーベル・スタジオと共同で第4作の撮影を開始する予定だ。

だが、最大の功績は、実はアニメシリーズだ。「スパイダーマン:スパイダーバース」シリーズは、野心とハートとクオリティが合わさった奇跡的な作品となり、アカデミー賞長編アニメーション賞を受賞。

これは、フィル・ロードとクリス・ミラーというクリエイターに任せきりにしたことが功を奏した結果だろう。シリーズ第3弾「スパイダーマン:ビヨンド・ザ・スパイダーバース」の制作も進行中だ。

「ヴェノム」の成功体験に囚われた拡張路線は終わりを迎え、「スパイダーマン」フランチャイズそのものは、新たな局面を迎えようとしているのかもしれない。

<了>

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