地域資源でチャンスを創れ!ローカル局の挑戦【VR FORUM 2024 レポート】
[登壇者](左から)
株式会社長崎国際テレビ 取締役営業編成局長 筑紫 浩一郎 氏
北陸朝日放送株式会社 編成局長 金子 美奈 氏
株式会社ビデオリサーチ 執行役員兼ネットワークユニットマネージャー 合田 美紀
昨今、人口減少やテレビ離れなど、ローカル局を取り巻く厳しい状況が続いています。地域独自の文化や歴史を資源に、この状況を打開する秘策はあるのでしょうか。本セッションでは、長崎、金沢のローカル局でチャレンジを続ける2名をお招きし、地域の資源を使って地元活性化するためにできること、そしてローカル局の使命とは何かを語り合いました。
長崎・石川にみる、地方の魅力と現在地
セッションは、登壇者2名の「ご当地紹介」からスタート。地域ならではの魅力と現状を両者が語りました。
「長崎は100年に1度の大変革期」と切り出したのは、長崎国際テレビ(以下、NIB)の筑紫浩一郎氏。2024年10月には、通販大手のジャパネットグループが手掛けた大型複合施設「長崎スタジアムシティ」が開業するなど、官民一体で地域を盛り上げている様子が紹介されました。さらに、観光客も戻ってきていると言及。「なかでも軍艦島ツアーは、大人気。軍艦島を舞台としたドラマの影響が大きいのでは」と、テレビの力の強さをあらためて実感したエピソードが語られました。
北陸朝日放送(以下、HAB)の金子美奈 氏は、石川県内で全線開通した北陸新幹線や、江戸時代から続く伝統工芸、カニ、美しい景観など、石川の観光資源を次々と取り上げ、「インバウンドも増加している」と説明。一方で、能登半島の現状についても触れ、「能登の里山里海は世界農業遺産に選定されている、石川にとってかけがえのない地域。震災・豪雨による二重の災害があったが、その復旧・復興作業が進められていることも忘れてはならない」とコメントしました。
人口減少にテレビ離れ......。ローカル局が挑む未来への取り組み
地域、そしてローカル局が抱える課題として、主に「人口減少」と「テレビ離れ」の2つあると考えらえることを合田が述べ、こうした状況を前に、どのような取り組みが行われているのか。その事例が紹介されました。
■長崎 ―『想い』をもってやり続ければ結果はついてくる―
筑紫氏がまず取り上げたのは、人口流出について。「2020年から3年間、長崎市の転出者数は全国ワースト2位、昨年ようやくワースト3位に。特に若者の県外転出は大きな課題だ」と、長崎の現状を語りました。この状況に歯止めをかけるためにNIBが長年開催してきたのが、食と遊びの祭典「DEJIMA博」です。開催のきっかけについて筑紫氏は「長崎の出島からは西洋料理や中華料理、遊びであればバドミントンやビリヤードなど、多くの文化が発信されてきた。そのプライドを市民県民に今一度持ってほしいという想いではじまった」と振り返りました。
2014年の初開催から今年で10周年。コロナ前の2019年には33万人が来場し、大きな集客を生み出すことができていたといいます。開催7回目からは、東京と長崎に2本社制を敷くメットライフ生命が特別協賛として参加。「長崎への地域貢献をしたい、街を一緒に盛り上げたいという想いに賛同いただいたからこそ実現した」と、述べました。
「DEJIMA博」は広がりをみせ、2022年には、アスレチックやゴーカート、お仕事体験などの子ども向けコンテンツを盛り込んだ「こどもでじまはく」が誕生しました。会場はコロナ禍にオープンし、利用の少なかった「出島メッセ長崎」。「子どもたちに喜んでもらえただけでなく、施設の利用促進にもつなげることができた」といいます。
「こどもでじまはく」は、2023年に「おでかけするよ!こどもでじまはく」という離島出張版にも発展。「初年度に訪問したとある離島の自治体からは、来年は予算をつけるのでまた来てほしいという声も上がっていた。想いを持ってやり続ければ、結果はついてくると実感することができた」と、その成果を語りました。
さらに2024年からは、メットライフ生命、地元銀行の十八親和銀行とともに「えがおみらいプロジェクト」を開始。イベント開催や子ども食堂支援、地域スポーツ振興などの子ども向け施策を通して、市民県民のみなさんに子どもたちの笑顔を届ける活動を進めている、と述べました。
もう一つの課題である「テレビ離れ」に関しては、他局との連携を進めていると筑紫氏。語られたのは、「平和」を軸としたコラボレーションです。広島テレビとは2019年から平和の特番を継続して制作してきましたが、2025年の被爆80年にむけて、新たに長崎民放4局、NHK、FMを巻き込んだプロジェクトが動き始めているといいます。
これについて筑紫氏は、「広島・長崎の人々にとって『平和』は共通のテーマ。新たなプロジェクトが始動したのも平和への"想い"があったからこそ。これからも、この想いを国内外に発信し続けていく」と、熱い想いを語りました。
■石川 ―地元を想う力が人を動かす―
他局連携によるプロジェクトは、石川県でも行われています。金子氏が取り上げたのは、民放4局が連携した「#WAKUをこえろ!」キャンペーンについてです。
発足の背景について金子氏は、「各局の編成部長が集まり、石川地区の視聴率低下に関する現状把握と勉強会を行ったことがきっかけ。これからは各局が連携してテレビを盛り上げていくことが大事だと考え、2022年4月、SNSからキャンペーンを始動した」と話しました。
2022年12月1日には、地上波18時台に4局が同時放送を実施。共通のVTRに加え、各局のアナウンサーが金沢市の伝統集団演技「若い力」を披露する映像が放映されました。注目は、放映中に掲載されていた『チャンネルを替えてお楽しみください』というテロップ。金子氏は「これくらいやらないとダメだと思った」と、当時を振り返りました。その後も、4局の看板番組に他局の社員が参加したり、4局同時生放送でお花見中継を行ったりと、多様なコラボ企画を展開していったといいます。
「放送した各局の番組は、視聴率にいい影響があっただけでなく、『#WAKUをこえろ!』関係のSNSのインプレッションも上昇。さらに、『#WAKUをこえろ!を知っている』『面白い』『次は何をやるのか』など、街中で地域の人に声をかけられたこともあった。キャンペーンが浸透していると実感することができた」と述べました。
2023年には、国民文化祭「いしかわ百万石文化祭2023」の関連イベント「チームラボ 金沢城 光の祭」の内覧会を4局同時生中継。金子氏は「この取り組みは、4局の編成部長が石川県の担当課を直接訪問し実現したもの。1局単独ではなく、4局が協力することで、より大きなインパクトを生み出せるとアピールした」と、当時の状況についても触れました。
ここで合田から、「ライバルである局との連携は難しいのでは?」と指摘が。対して金子氏は、「最初は様子をうかがいながら進めていたが、いつの間にかプロジェクトチームのような関係に変わっていった。そうなったのも、同じ課題と目標を持っていたからこそだと思う。1×4以上の得難いものがあると感じている」と、手応えがあったことを語りました。
なかでも、大きな成果を感じたというのが、2024年元旦に発生した、能登半島地震の際の取り組みです。各局が災害報道に尽力したうえで、今こそ「ワクを超えるとき」と意見が一致。地元の制作プロダクションと協力し、アナウンサーが出演する「ともにこえよう石川」というメッセージ映像を1~2週間で制作。2月1日から放送したといいます。
「ともにこえよう石川」は、著名人が出演するバージョンも作られました。4局それぞれがゆかりのあるタレントや著名人、スポーツ選手と交渉し、約20本のCMを制作。4月10日から映像は各局でシェアし、2024年11月時点でも放映が続いているそうです。
金子氏は「地震発生から迅速な対応ができたのも、これまでの連携があったからこそ。4局が連携することで、大きな突破力を発揮できた。地元を想う気持ちが、人々を動かしたと実感している」と語りました。
魅力あふれる地域資源。地域活性化に活かすには?
次なるテーマは、地域資源の活用について。ローカル局は地域それぞれが持つ独自の歴史や文化をどのように活かしているのか...。その実例が示されました。
■長崎 ―局・スポンサーのWin-Winな関係が地域活性化につながる―
筑紫氏からは、「長崎スタジアムシティ」での取り組みが挙げられました。
同施設のオープニングイベントでは、長崎民放4局が連携。5キロにもおよぶテープカットの模様を、4局が各会場から中継を行い盛り上げました。また、NIBでは「Vタイムズ」というスポーツバラエティー番組を制作。スタジアム内に特設スタジオを設け、毎週土曜日に生放送を行っているといいます。
こうした活動の根底にも「想い」があったと語る、筑紫氏。「オープニングセレモニーでジャパネットの髙田旭人社長が語っていた『日常の中に非日常を体験できる場所を作ることが長崎の皆さんの生きがいになり、最終的に子ども、人口が増える。そういう街にしていければ』という言葉が印象に残っている。長崎の課題を解決したいという"想い"に各局が共感したからこそ、枠を超える取り組みが実現した」と、感慨深げに述べました。
さらに、ローカル局のこれからの戦い方にも言及。「局とスポンサーがWin-Winであることが地域活性化のためには必要。想いがあれば、スポンサーも自治体もついてきてくれるはず。地域と助け合いながら、これからもしっかり取り組んでいきたい」と語りました。
■石川 ―文化という扉を開ければ、人とつながるチャネルも広がる―
金子氏は、石川県の強みでもある「文化資源」について言及。加賀藩主の前田家の時代から続く伝統工芸の数々や歴史的な文化財、文化関連施設の多さを取り上げながら、HABが行っている活動を紹介しました。
金沢市にある「国立工芸館」では、収蔵作品を4Kカメラで撮影した『デジタルミュージアム~清らなる工芸~』という番組を制作。「その番組のアーカイブを、工芸館のホームページなどで活用してもらっている」と解説しました。また、国の重要伝統的建造物群保存地区の一つ「金沢寺町寺院群」にて、普段は非公開の寺宝を拝観できる「金沢寺町寺院群文化財特別公開」というイベントを主催。地域活性化を目指し、2017年から継続して行っているといいます。
これらの活動について金子氏は、「文化という扉を開けると、人とつながるチャネルが広がっていく。メリットは中長期的だが、若い作家が石川県内に移住してくるなど成果も現れてきている」と話しました。
さらに、2020年にはエリア・イノベーション推進局を創設。地元企業と連携した「ドローンショー」の開催や、地域の部活動支援のためのバスケットボール大会の主催、移動式の3×3(スリーエックススリー)のバスケットコートを購入し自治体とイベントを開催するなど、地域と新たなネットワーク構築にも取り組んでいるといいます。金子氏は、「地元密着型の小さな活動を積み重ね、地域の課題解決や未来につながる種を見つけていきたい」と語りました。
各局の取り組みを受け、合田から「マネタイズ」についての質問が投げかけられました。
筑紫氏からは、「『儲かってるか』と聞かれると、そうではないかもしれない。しかし、子ども向けイベントなどを通し、親世代を通じて、子どもたちに私たちのブランド価値などを伝えることができていると思う。それが将来、視聴率向上やブランド価値向上といった成果につながっていくと信じている」と、放送外の活動の重要性をあらためて示しました。
地域資源が番組・コンテンツ制作にもたらす、ポジティブな影響とは?
放送外の活動について、数多くの取り組みが示された後は、テレビ局とは切り離せない「番組、コンテンツ制作」についての話題に。「地域資源を活用した取り組みはローカル局のコンテンツ制作にも良い影響を与え、相乗効果が生まれている」と、両者が一例を取り上げながら語ります。
筑紫氏は、NIBのシティプロモーション事業の一環として地元クリエイターと共創した、自治体の観光PRショートフィルムを紹介。南島原市の「夢(2018)」や宇久島の「宇久島(2022)」が、アジア最大級の国際短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル&アジア」で観光映像大賞を受賞するなど、成果につながっているといいます。制作に携わったのは「LUCA Inc.」と「DEJIMAGRAPH」という、長崎屈指のクリエイティブプロダクション。「地元のクリエイターを発掘し、長崎から世界で活躍する場を見つけてほしいという想いがあった。いつか長崎に還元されるものあると感じている」と語りました。
金子氏は、「我々も地域資源に育ててもらった」と述べたうえで、1988年に石川県と金沢市が創設した管弦楽団「オーケストラ・アンサンブル金沢」の一例を紹介。「約30年前から取材、コンサート収録、放送を継続してきたことで、局内の収録スキルや音声技術が磨かれた」と、これまでの歩みを振り返りました。その結果、関連のドキュメンタリーやコンサート収録番組が多数の賞を獲得しているといいます。
地域に根差した様々な取り組みを行っているローカル局を支援すべく、合田からは、テレビ接触後の「来店」「来場」や購買効果を可視化できる当社サービス「log-BLS(ログ・ブランドリフト)」の紹介も。合田は「視聴率や広告以外のセールスプロモーション領域でもお手伝いしたいと考えている」と、述べました。
地域とともに、地域課題に挑む。ローカル局の「使命」とは――
長崎と石川、それぞれの地元への強い「想い」が語られた本セッション。最後に、合田が「ローカル局の使命とは何か」を両者へ問いかけました。
筑紫氏は、「もはや、ローカル局はマスメディアではない」と指摘したうえで「自治体や地元企業の課題解決につながる、街のコンサルティング企業になりたいという思いがある。マスではなく、プロモーションメディアとして活動することがミッションだ」と述べました。さらに、NIBが掲げる『マジデジマ NIB』というコンセプトに言及。「かつて出島からたくさんの新しい文化が生まれたように、NIBも新しい価値を発信する新時代の出島になれればと考えている。これからも『想い』を胸に取り組んでいきたい」と力強く語りました。
金子氏は「地域課題の中にチャンスはある」と話をまとめ、「災害の経験を通じて地方局の意義を実感した。社内連携にとどまらず、地域や企業、さらにはライバル局ともつながることで、自社だけでは描けない大きなストーリーを作ることができる。課題解決に向けて、地元と共に歩んでいきたい」と語りました。
そして、「ローカル局が地域の宝とともに元気になるアイディアは、まだまだたくさんあるように思う」と合田は述べ、地元への熱い想いにあふれるセッションを締めくくりました。