これからのコンテンツビジネスと、"その先"【VR FORUM 2024 レポート】

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これからのコンテンツビジネスと、"その先"【VR FORUM 2024 レポート】

[登壇者](左から)
株式会社TBSテレビ 代表取締役社長 龍宝 正峰 氏
dentsu Japan CEO 株式会社電通 代表取締役 社長執行役員 佐野 傑 氏
株式会社ビデオリサーチ 代表取締役 社長執行役員 石川 豊

近年、各企業は、コンテンツを軸としたビジネスモデルの多角化を加速しています。その代表的な企業であるTBSテレビと電通のトップが登壇。それぞれのコンテンツビジネスの方向性や、日本のコンテンツ産業をどのように発展させてゆくのかについて、ビデオリサーチの社長執行役員・石川が話を聞きました。

時間軸や国境を越えたコンテンツ提供を目指す、TBSテレビの「Timeless Value」

本セッションでは初めに、龍宝氏が、TBSテレビの方向性を示しました。同社はコンテンツビジネスのキーワードとして「Timeless Value」を掲げています。テレビデバイスで地上波番組を放送する「Tele Vision」から、民放各社が協力してTVerを立ち上げ、テレビコンテンツへの接点を拡張した「Total Video」と時代は流れ、そして今後は「Timeless Value」、すなわち「時間軸や国境を越えてコンテンツの価値を広げていく」と語りました。

さらに「テレビ番組だけでなく、全ての生活体験をコンテンツとして表していく」と話す龍宝氏。TBSグループは、テレビ番組制作に加えて、ゲーム開発、ライブイベント、ライフスタイル事業、知育・教育事業も行っています。これら全てをコンテンツ体験と捉えてビジネスを展開していこうとしています。

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続けて、「Timeless Value」を実現した、最近の施策を2つ紹介しました。一つは、TBSスパークル(映像制作会社)が手掛けた映画『ラストマイル』です。この作品は、TBSで放送されたドラマ『アンナチュラル』『MIU404』、それぞれの制作スタッフが 一つのチームに集まって制作されました。ストーリーは完全オリジナルであるものの、両ドラマのキャストが特別出演して、2つのドラマを背景とした世界線を描くという新しい形の映画です。『ラストマイル』は、58億円の興行収入を記録して大成功を収めました。さらに、この映画がきっかけで『アンナチュラル』『MIU404』に興味を持ち、両作品の配信を見る人が大幅に増加。関連グッズも売れているといいます。1本の映画が、過去に放送された2つのドラマに光を当てた「Timeless Value」の好例です。

もう一つの施策は、平日朝に放送しているバラエティ番組『ラヴィット!』の大型音楽イベント「ラヴィット!ロック 2024」です。今夏行われた同イベントには1万人を超える入場者があり、配信にも大変多くの視聴者が集まりました。一つのバラエティ番組がテレビの枠内にとどまらず、リアルイベントに展開していくような試みは、今後、増えていくのではないかと語りました。

龍宝氏は、「Timeless Value」を実現するためには、強いコンテンツ制作力が必要だといいます。TBSのコンテンツ制作力を示した事例として、ドラマ『VIVANT』を紹介。このドラマは、「東京ドラマアウォード2024」連続ドラマ部門の作品賞グランプリを獲得しました。『VIVANT』の最終回は3300万人の視聴があったことに触れ、福澤監督の「面白いものを作れば見てもらえることが証明できたことがうれしい」というコメントを紹介、今後もコンテンツの強みを一番大事にしていきたいと述べました。

さらに、正確で公正な情報発信に努める放送局であることが、コンテツ力のベースになっているといいます。「この信頼感こそがテレビの普遍であり、最大の価値」という龍宝氏。今後の展望を含めて、「生活者からの信頼感の上にコンテンツを制作し、広告主や広告会社にメディアとしてのテレビを改めて評価いただき、さらなる進化を遂げていきたい」とまとめました。

電通のコンテンツビジネスの4つの視点。「熱狂」「社会価値」「共創関係」「エコシステム」

続いて、電通の取り組みを佐野氏が紹介しました。電通はビジョンとして「Integrated Growth Partner(インテグレーテッド・グロース・パートナー)」(以下、IGP)を掲げています。IGPとは、電通が、企業やメディアが持続的に成長していくためのパートナーになるということです。

そのために、
・マーケティング
・トランスフォーメーション
・コンテンツ
という3つの領域を設定。このうち、コンテンツは、スポーツとエンターテインメントをまとめたものだといいます。

現在、電通グループの売り上げは、広告以外の事業が約4割を占めるまでになりました。その中でも、スポーツとエンターテインメントのコンテンツ事業は成長を続けていて、グローバルで見ても電通のユニークネスとなっている大変重要な領域だと語りました。スポーツ領域は、協賛、放映権の販売にとどまらず、ファンエンゲージメントの構築、アリーナ運営、地方創生にまで拡大。 エンターテインメント領域は、アニメ、映画、eスポーツ、ゲーム、音楽、ベニューなど、ソリューション・プロデュース、グロースの両面で仕事が広がっています。

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さらに佐野氏は、コンテンツビジネスを行う大事な視点として、「熱狂」「社会価値」「共創関係」「エコシステム」を挙げました。「コンテンツビジネスは、熱狂を生むことがまずベースにありますが、それだけでは一瞬のブームに終わってしまいます。それが社会的な価値を持つようにしたり、企業やメディアと共創関係を作っていく。その結果として、お金が回り、次世代のコンテンツを作り出す人が出てくる。このサイクルを回し続けることが大事」と、その意図を解説しました。

続いて、前述した4つの視点を持って進めているコンテンツビジネスの事例を紹介しました。お笑いの領域では、『M-1グランプリ』『キングオブコント』といった番組の協賛を募るだけでなく、スポンサー企業とオリジナルCMを作ったりSNS施策を行って、一緒にコンテンツを盛り上げ、強くすることで、日本中にお笑いを届けているとのこと。他にも事例として、「Jリーグ KICK OFF!プロジェクト」「アリーナ運営」「北海道ボールパーク F ビレッジ」などについて説明しました。

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生活者の心を動かせるのは、コンテンツ

各社の取り組み紹介後には、両社のコンテンツビジネスについて、石川が下記のテーマをもとに切り込みました。
・コンテンツビジネスに注力する意義
・良質なコンテンツを生み続ける「エコシステム」に必要なもの
・スポーツ文化の醸成
・地方創生・地方密着
・人材育成
・これからのコンテンツビジネスをさらに盛り上げていくためには

「コンテンツビジネスに注力する意義」を問われた佐野氏は、「マーケティングが高度化してさまざまなデータから精緻なターゲティングができても、生活者の心を動かさない限り、商品やサービスは売れず、ブランド価値も上がらない。生活者の心を動かせるのはコンテンツだ」と述べ、マーケティングとコンテンツは密接な関係があることを示唆しました。

「良質なコンテンツを生み続ける『エコシステム』に必要なもの」について、龍宝氏は、前述した『ラヴィット!』から生まれた音楽イベントの事例を交えながら、次のように答えました。「エリアイベントは、生活者がコンテンツを身近に感じられる新しい施策になっている。放送局が行うイベントには信頼性があり、イベントをきっかけにファンダムが形成され、それが番組に還元されるという流れができる。エリアイベントは、ローカル局にもたくさんチャンスがあり、いろいろな施策ができるだろう」

「スポーツ文化の醸成」について、龍宝氏は、TBSテレビが1997年から取り組んできたスポーツコンテンツ『世界陸上』を取り上げて回答。「放送当初は日本人が活躍する場ではなく世界の一流選手を取り上げる場だったが、今はメダルを取れる日本人選手が増えた。無料で放送し続けたことにより、ファンが実際にやってみようというムーブメントに変わってきて、選手が育ってきたのではないか」と、スポーツ文化の醸成にテレビ局が貢献できているのではないかとの思いで放送していることを語りました。

コンテンツ事業は、リアルな社会価値を生み出す

「地方創生・地方密着」について佐野氏は、電通がJリーグのマーケティングパートナーであることを挙げました。タイトルパートナーとして10年間にわたりJリーグを応援してきた明治安田生命と共創しながら地方を活性化させるプロジェクトを進めていることを例に、「スポンサー企業と"協賛ではなく共創する"という形は、電通がグロースパートナー契約を結んでいるBリーグも同様になるだろう」と語りました。

電通グループの地方創生の事例として、北海道北広島市に誕生した「北海道ボールパーク F ビレッジ」(以下、Fビレッジ)も紹介。「野球場ではなく、街をつくる」という考えで企画され、野球場の他に、ショッピングセンターやマンションが作られ、地方経済の活性化につながっているといいます。電通は出資に加えて、クリエイティブ、プロデュースにも携わっています。「Fビレッジのように、電通のクリエイティビティやプロデュース力が、リアルに社会的な価値を生み出し、地方社会に貢献できることは大変幸せです」(佐野氏)。

地方密着の事例として龍宝氏は、TBSテレビをキー局とするJNN28局を統合したニュースメディア「TBS NEWS DIG Powered by JNN」(以下、NEWS DIG)を取り上げました。NEWS DIGは、テキストや動画で、24時間ニュースを配信しているwebサイト(アプリもあり)で、系列のローカル局と共にニュース制作に取り組んでいます

NEWS DIGでは、系列局のニュースを発信する際は、系列局のロゴをしっかりと表示し、報酬も還元するビジネスモデルを構築。ローカル局のいちばんの強みであるエリアニュースを生き生きと発信することで、NEWS DIGのユーザーは増えつつあります。視聴者が普段目にすることが少ないエリアニュースを伝えることで、NEWS DIGに注目が集まるとともに、取り上げたニュースが視聴者によってSNSなどで拡散される。これが新しいニュースの展開の仕方だといいます。

NEWS DIGの取り組みが土台となり、2024年10月から、TBSとブルームバーグ・メディアが共同ブランドでビジネス・金融ニュースを配信する新サービス「TBS CROSS DIG with Bloomberg」がスタート。グローバルニュースをブルームバーグから供給してもらったり、日本の広告主の状況をブルームバーグの力を借りて海外に発信したりするなど、コンテンツの海外展開を広げていきたいとしています。

「両利きの人材」を育てたい

「人材育成」について、龍宝氏は最大の課題だと捉えています。施策の一つとして、リクルートで注目してもらえるように「TBSの関連会社の社名にはすべて"TBS"という冠をつけている」と龍宝氏。さらに、前述した「Timeless Value」を実現するために、コンテンツを作れることに加えて、コンテンツを拡げるアイデアもある「両利きの人材」を育てていきたいと語りました。

佐野氏は、電通は人材のみで構成されている企業で、やはり人材育成の重要性を感じていると発言。電通に約1000人いるクリエイターは、広告制作だけでなく、企業のグロース戦略を考えたり、企業変革をデザインしたりすることに取り組んでおり、「クリエイターが両利きになっている」と述べました。「コンテンツ領域を拡大するためには、コンテンツホルダーやライツホルダーと対話をし、グロースを真剣に考えつつ、スポンサーや生活者にも目を向けられる、多面的な視野を持っているプロデュース人材が必要だ」と語りました。またエコシステムを回していく上で次世代クリエイターの才能を発掘、育てることが重要であり、電通がパートナーシップを結ぶRoblox社との「House of Creaters」という取り組み事例を紹介。日本のコンテンツビジネスの課題である海外市場への展開を見据える上で、Robloxという国境がないプラットフォーム上で、日本のクリエイター人材を育成できるメリットを挙げました。

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「コンテンツ」「テクノロジー」「経済」「関係者のパッション」を掛け合わせると、文化が醸成される

最後に「これからのコンテンツビジネスをさらに盛り上げていくためには」という石川からの問いかけに対して、佐野氏は、コンテンツ制作者に十分なお金が回っていないことを課題として挙げ、「制作者にお金が回る仕組みを作る、あるいは、データを取ってコンテンツがどんなマーケティングに活かされるかを調べてお金が回せるようにすることと、市場は世界を見据えていく必要がある」と述べました。

龍宝氏は、「僕らはしっかりとしたコンテンツを 作っていくことが基本。そして、コンテンツの力で世の中にムーブメントを起こしていく。その先にビジネスがある」といいます。「日本を元気にしていくためには、コンテンツの力が非常に重要。それは僕らが作るドラマやバラエティだけでなく、広告主や広告会社の力も必要だ」と見解を示しました。

最後に石川が、「失われた30年と言われる中で、スポーツとエンタメだけは全く違う30年だったと感じます。スポーツ界ではグローバルで戦えるアスリートがたくさん出てきました。その背景として、メディアの力はとても大きい。エンタメでは、例えば、アカデミー賞でゴジラやジブリなど日本の作品が表彰されるようになるとは、30年前には全く想像がつかなかった。広告主、広告会社、メディアの努力がグローバルで評価されるようになってきています。今後もこの流れを生かしていくためには、やはりエコシステムが非常に重要です。『コンテンツ』『テクノロジー』『経済』『関係者のパッション』を掛け合わせると文化が醸成されることを、お二人の話を聞いて感じました」と述べて、セッションをまとめました。

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