アニメコンテンツの事業化・広告活用について【VR FORUM 2024 レポート】

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アニメコンテンツの事業化・広告活用について【VR FORUM 2024 レポート】

[登壇者](左から)
株式会社テレビ東京 専務取締役 川崎 由紀夫 氏
株式会社電通 IPグロース&ソリューション1部 部長 木村 朋枝 氏
株式会社ビデオリサーチ ビジネスデザインユニット ビジネスアセット開発グループマネージャー 佐藤 誠

近年、国内外を問わず大きな盛り上がりをみせるアニメコンテンツ事業。アニメIPは製作出資企業にとどまらず、全国の各種企業で活用が望まれつつあります。本セッションでは、アニメを製作・放送するテレビ東京と、アニメIPの各種ビジネスを展開されている電通の担当者をお招きし、事例を交えたIPの活用方法やIPビジネスの今後の可能性についてディスカッションしました。

成長続くアニメ産業。全体売上が約3兆円へ迫る一方、制作費は高騰

本セッションでは、まずモデレーターを務めた当社の佐藤から、近年のアニメ産業における概況が報告されました。2022年のデータでは、アニメ産業の売上は前年比106.8%の2兆9,277億と史上最高値をマーク。テレビ、映画、配信、海外コンテンツ等が牽引して高い伸び率を示す、成長産業であることが伝えられました。

アニメ市場について

続けて、株式会社テレビ東京(以下、テレビ東京)の川崎氏がアニメ製作における現況を解説しました。

川崎氏は、アニメ作品の製作はまず「制作費、宣伝費枠料を含めた放送費用をどのように集めるか」から始まるとして、深夜帯1クール(3ヶ月)で平均13話を放送する場合の製作費について説明。近年は制作費が高騰し、1話(30分)あたりにかかる費用が以前の約2,000万円から、倍の約4,000万円にまで上がっているといいます。

さらに宣伝費の約2,000万円+放送費用を見積もると、1作品(全話)で少なくとも5億5,000万円超かかる試算に。「放送局としては、まず作品に共感し、出資してもらえる仲間を集めることが重要になる」と川崎氏は強調しました。

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佐藤から以前と比べて制作費が倍になった背景を問われると、川崎氏はアニメーターの働き方の変化に言及。「東京の場合は特にフリーランスのアニメーターが多く、コストがかかりやすい環境にある。アニメ制作会社は、なんとか社員化を進めたい意向がありますが、フリーランス希望のアニメーターも多いため、なかなか難しい」とアニメ制作の課題の一端について述べました。

「製作委員会」の利点と課題とは

このような状況の中、アニメの製作および運用の仕組みとして多くみられるのが「製作委員会」です。複数の企業が製作予定の作品に出資し、ビジネス展開をして配分を受け取る同委員会への参加者は「非常に増えている」と川崎氏はいいます。

製作委員会の場合

本仕組みの利点として挙げられたのは「リスク分散」と多方面への「宣伝」です。なかでも宣伝に関しては、関わる企業それぞれの強みや得意領域において、各プロフェッショナルが力を発揮していける点が重要だと川崎氏は示唆します。
そのうえで「やはり1社だけで展開をするのは難しい。"仲間"が多い方が宣伝もしやすく、作品の露出も増えるため、大勢で取り組める形が良いと考えています」と見解を述べました。

一方で課題は、「制作環境」の厳しさだと指摘。川崎氏は「現在は、ノー残業を前提にしている制作会社が多いものの、作品数は減っていないため、なかなか追いつかない状況です」と現状を振り返りました。テレビ東京では対策の一環として、制作者の権利を守るために制作会社にも製作委員会の一員として出資してもらっているとのこと。他にも「初めから作品を作って頂いた対価として一定の印税を作品のヒット状況に関わらずお支払いをする。さらに、より成功し利益を得られた場合の成功報酬も設定しておくケースが増えています」と利益の分配も含めた同社の取り組みについて解説しました。

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続けて、近年のアニメトレンドを振り返った川崎氏は、「配信の時代」であることが欠かせない観点だと強調。その結果として、全国的にヒット作が出ればすぐわかるようになったといい、「地方でイベントを開催する場合でも、早めに準備ができる状態になっている」とメリットを伝えました。

「これだけ素早くヒットの情報が広がると、人気のアニメをまとめたイベントも開催しやすくなります。放送局がどこであっても(配信で放送外地域のファンも見ることができるため)一斉に展開できるので、今後も地方イベントは増えていくはずです」(川崎氏)。

同時に、国内における盛り上がりが、海外のアニメファンの反応を促すと同氏は指摘。「そのためにもまず日本での展開の仕方が大切です。特にファンの方の共感力を上げるうえでは、地方イベントがより重要になっている」と見解を示しました。

キッズIP成功事例『パウ・パトロール』
"育てる"視点の長期的な取り組みが、幅広いファンを生む

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株式会社電通(以下、電通)の木村氏からは、アニメIPを活用した成功事例としてキッズ向け作品の『パウ・パトロール』における取り組みが紹介されました。

同作は北米で2013年から放送開始後、全世界160カ国以上で放送。日本ではテレビ東京が放送局と番組販売窓口、電通が製作委員会の幹事および商品化窓口を担当し、2019年春から放送が開始されました。製作委員会にはタカラトミーも名を連ね、北米で展開される関連玩具の販売を担うほか、原作元である北米の企業「スピンマスター」と「パラマウント」も参画しているといいます。

国内では現在、毎週金曜日の夕方帯にテレビ東京系列の6局で放送されているほか、テレビ和歌山、長崎放送、三重テレビ、奈良テレビ、びわ湖放送、鹿児島テレビなどでも放送中。さらにNetflix、Hulu、Amazon Prime Videoをはじめとした配信サービスでも展開されています。

『パウ・パトロール』の人気の背景について、木村氏は次の4点に分けて分析しました。

①消防自動車やパトカー×子犬といった普遍的なモチーフで、おもちゃにしやすい
②女の子のキャラクターも登場し、男女どちらにも刺さる
③レスキューアドベンチャーであり「チームワーク」や「助け合い」「他者への優しさ」といったメッセージ性がある
④一話完結型でどの話からも見やすく、シーズンごとに「空」「海」「ジャングル」といった異なるテーマを用意して子どもを飽きさせない

パウ・パトロール ストーリーのポイント

また、キッズIPは「時間をかけて育てる」要素が大きく、国内展開を進めるにあたりテレビ東京と長期間にわたって展開を図っている状況を説明。

公式のYouTubeチャンネルにも注力しているといい、「製作委員会に参加する各社が協力し、長尺・短尺それぞれのアニメーションを公開したり、タカラトミーさんからおもちゃの動画を入れてもらったりしています。ニーズに合わせて中身を徐々に改変することで、チャンネル登録者数は146万人、総視聴回数は10億回に到達しました」と木村氏はその成果を語りました。

さらに、子どもたちからの「認知度」についても言及。電通のオリジナル調査によると、放送開始5年で認知度88%を獲得し、「特に4歳の認知度が突出している」とその特徴について伝えます。

同時に視聴者の熱量が非常に高く、電通が『パウ・パトロール』認知者に実施したアンケートによると、「とても好き/好き/ふつう/あまり好きではない/まったく好きではない」の選択肢の中から「とても好き」「好き」と答えた人の割合が1番多い状況を挙げたうえで「熱量の高いファンが多いと、商品購買意欲やイベント開催時の参加率も非常に高くなる」とメリットについて説明しました。

この分析に対して「長期的に取り組むだけではなく、"熱狂的なファンの醸成"が、アニメ全般にとっては大切なのでしょうか?」と佐藤。
この問いかけに対し、木村氏は肯定を示したうえで、「そのために重要なのが、多彩なフォーマットで作品を見られるようにして『小さな頃から見たことがある』状況を作り出すことです。同時に、作品のファンになった子どもたちが、気軽におもちゃを手に入れられるような展開をすることで、周りの子たちがみんな関連グッズ持っている状態をつくれると、影響はとても大きくなります」と、ファン形成のポイントについて解説しました。

国内のニーズに合わせた商品展開で、子どもの心を掴む

実際に『パウ・パトロール』の商品市場規模は直近3年間、2~2.5倍で拡大。木村氏の報告では、当初はタカラトミーの玩具中心だったものが、現在ではアパレルや生活用品など玩具以外の商品が半分以上を占めているそうです。

商品化においては、北米のおもちゃをそのまま輸入しパッケージだけ変えるような展開方法ではありません。例えば、タカラトミーさんは『ワンダフルパウパッド』など日本独自の玩具を開発・展開してくださっています。また、現時点で200万個以上を売り上げている商品には、500円のフィギュア入りバスボールや、300円程度のカプセルトイもあります。こうした多彩な価格帯や玩具以外の商品もそろえることで、ファンの子どもたちみんながさまざまなグッズを持っている状態をつくっています」(木村氏)

パウ・パトロール 商品化展開

さらに同作ではイベント展開も幅広く、「ローカルでの取り組みが非常に増えている」と木村氏。東北楽天ゴールデンイーグルスと実施したキッズデーイベントや、警察犬のキャラクターが一日署長をする取り組みが例として挙げられました。テーマパークでの展開も非常に増えてきているといい、「作品の舞台になっている街がみなとみらいに似ているという理由から、横浜市観光協会と実施したラリーイベントでは、参加シートが約10万枚配布されました」と参加者の熱量を感じさせるエピソードが披露されました。

「育てる」ために時間がかかる一方で、「一度人気が出てくると、"入れ替わり"が少ない」点がキッズIPの魅力と語る木村氏。「ローカル局や各スポンサー様にタイアップで使っていただく場合、決定から実施までには通常約半年~1年がかかります。キッズIPの場合はその準備期間中に放送が終了することはまずないため、安心して使っていただけます」と、リスク回避の観点から利点を説明しました。

進むローカル活用。"地域にアニメを根付かせる"コンセプトによって新たな展開へ

最後のテーマは、「ローカルエリアでのアニメコンテンツ」活用について。川崎氏は「アニメを製作している立場からすると、放送・配信自体ももちろん重要ですが、その後に作品のファンの人たちが共感できるような展開を、どう用意していけるかが非常に大切です」と前置きしたうえで「作品内で取り上げられた場所にファンの方々が集まる。そこでわれわれ製作側が"おもてなし"できるような状態をローカルエリアの方々と一緒につくり上げられれば、双方にメリットがあります」と「聖地巡礼」ブームについての見解を示しました。

一方で、現在の「聖地巡礼」ブームには課題もあるといいます。「製作側が『聖地』と認定していない土地がファンの方たちの間で人気を集めてしまい、地元の方とトラブルが起こるケースも耳にします。やはり最初から、地方自治体も含めた対応や準備を早めにできないと、この先ブームを盛り上げていくのは難しくなるでしょう」と、川崎氏は懸念を語りました。

現在はアニメを活用した街づくりを進めている都市も増えています。川崎氏によると、新潟市では「マンガの家」や「マンガ・アニメ情報館」をつくり、独自のアワード、フェスティバルを開催。さらにまんがに関わる事業共同組合を組織して、多様な展開をしているそうです。高知県も「アニメづくりをするなら高知県へ」とキーワードを掲げ、特に高知市では、地元の信用金庫が中心となってクリエイターラボの複合施設を設立。中にイベントスペース、スタジオ、育成施設、関連企業のオフィスを集め、地場産業にしていく動きが活発だといいます。

「ポイントは、"地域にアニメを根付かせる"というコンセプト」と力を込める川崎氏。「これまではただ"アニメを活用し地方にファンを集める"ことがキーワードでしたが、最近は進化しています。こうした取り組みが進めば、今度はアニメが地域の産業として機能し始めるのではないでしょうか」と展望を語りました。

アニメ・キャラクター×ローカルの可能性

電通の木村氏からは、アニメIPを活用したローカル企業とのコラボ商品、キャンペーン事例についての紹介が。『ハイキュー』と「萩の月」、『ゴールデンカムイ』と「白い恋人」のコラボレーションはいずれも作品の"ご当地色"を活かした展開だといいます。また京都を舞台にした『有頂天家族』は、京都のローカル線・叡山電車とのコラボを実施したそうです。

木村氏からは「タイアップのビジネスモデル」に関する解説も。通常、企業は作品ごとに定められた1クールの契約料を支払うことでタイアップ契約が結ばれるといい「商品化がないタイアップの場合は、作品のイラストやキャラクターを使用した無料のグッズやノベルティ配布などが行われます。昨今では、期間中に契約企業の販促ポスターなどに作品の絵が使われると同時に、同企業が販売する飲料のパッケージにもキャラクターが印刷されるといった『タイアップ』と『商品化』が組み合わったキャンペーンもあります」と、多彩な活用展開が考えられることを伝えました。

最後に、ここまでの話を受けた佐藤が、「アニメIPを活用した企画は、権利を持ってないと何もできないといったイメージがあるかもしれませんが、そんなことはありません。きちんとタイアップや商品化ライセンスなどの許諾手続きを行えば、ローカルを含め、幅広い展開が可能です。多彩な広告主様、広告会社様、あるいは放送局様の全てに、こうしたビジネスへ取り組んでみようかと考えていただけると、非常に嬉しく思います」とメッセージを伝え、セッションを終了しました。

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