マーケティングの潮流とメディアプランニングのこれから【VR FORUM 2024 レポート】
[モデレーター]
株式会社ビデオリサーチ 統括・ソリューションユニット ビジネスソリューショングループ マネージャー 鈴木康啓氏(写真右)
[登壇者]
Uber Eats Japan合同会社 マーケティング部 マーケティングマネージャー 阿部ひとみ氏(写真左)
株式会社博報堂DYメディアパートナーズ 統合アカウントプロデュース局 AaaSアカウント推進一部 部長 佐々井美嘉氏(写真中央)
メディアプランニングのデジタル化・最適化が進む昨今。生活者のメディア接触が分散され、メディアのあり方や役割も大きく変化しています。マーケティングやメディアプランニングのトレンドを知り、今後の変化を予測することは、広告戦略を考えるうえでも大切な要素となるでしょう。本セッションでは、Uber Eats Japanのマーケティング部 マーケティングマネージャーである阿部ひとみ氏と、博報堂DYメディアパートナーズの統合アカウントプロデュース局 AaaSアカウント推進一部 部長である佐々井美嘉氏をお招きし、最新の取り組みや今後の展望について語っていただきました。
課題に合わせたクリエイティブをつくり、市場の浸透率アップを狙うUber Eats Japan
セッションは、阿部氏によるUber Eats Japanの戦略設計の紹介から始まりました。同社が達成したいゴールは、「市場全体の浸透率を上げること」。現在、日本全体における同社の浸透率は全国でまだ半数以下だといいますが、その伸びしろを獲得するために、「まずはレストランフードの宅配における浸透率を上げ、その後、日常品、雑貨など対象商品の増加を実現していきたい」と阿部氏は語ります。
また、ゴール達成への課題は、「日本特有の、自炊せずに出来合いの料理をオーダーすることへの罪悪感を払拭すること」や、サービス料や配送手数料といったコスト面への理解を得ることだと阿部氏は分析しています。
それらを解決するために、「プロモーションにおいては、利用シーンを描いたクリエイティブを提示するなど、課題に合わせたメディア/コミュニケーション設計が必要」だと阿部氏。続けて、「コアターゲットは小さなお子様がいるMF 1・2層としているが、テレビやマスに対してはオールターゲットに設定するなど、施策によって調整している」と語りました。
課題に合わせたクリエイティブ例として、夫婦の日常におけるUber Eatsの活用シーンを通じて罪悪感なく利用できることを表現したものや、クリエイティブの半分を切ることで最大50%オフのお得感を打ち出した施策も紹介されました。
最終ゴール「ビジネス成長」のためには、業界や商材に応じたメディア/コミュニケーション設計が必要
それでは、メディア/コミュニケーション戦略は、どのような視点から考えればよいのでしょうか。広告代理店の立場から、博報堂DYメディアパートナーズの佐々井氏が解説しました。
佐々井氏は、ゴール達成に必要なのは、『業界特性』『商材コンディション』『課題解決アクション』の3つの要素と語ります。
「『業界特性』では、購買の方法やビジネスターゲットなどクライアントによって異なる特性を掴み、それらを前提条件として商品やサービスをアピールすることが必要。『商材コンディション』で考えるべきことは、商材の特性。例えば、業界No.1の商材なのか、新規参入したばかりの商材なのか。また、その商材は特定の人に利用されるのか、広く一般に使われるのか。そしてこれらを受け、『課題解決アクション』では何をゴールに定めていくのかをカスタマイズして設計していくことが必要になる」
ここでモデレーターのビデオリサーチ・鈴木から、ビデオリサーチの「ACR/ex」で導き出した「商材(業界)特性」を示すデータが紹介されました。座標の左右は商材(業界)を利用する男女比率、上下の軸は利用者の平均年齢を表しています。
これを見た佐々井氏は、「Uber Eatsのようなデリバリーサービス(出前代行サービス)は、男女の比率がほぼ1対1で、利用者の年齢層は30代を中心に40代にもわたる業界。浸透率アップのポテンシャルは大いに見込めるカテゴリーなので、ボトルネックとなる事項をどのように解消していくかが非常に重要となる」と説明しました。
さらに、メイクをする男性も増えたことでメイク落としなど、これまでユーザーが限定的だった商材もユーザーの幅が広がっていることで、「彼らにコミュニケーションする際のメディア選定が非常に重要になる」とし、「それらはカップ入りめん類や炭酸飲料など広く一般に浸透している商材とは特性が大きく違うことが分かる」と指摘。
また、デリバリーサービスを例に取り、同じ業界であっても商材やそのコンディションによってアプローチは異なると佐々井氏は語ります。例えば、カテゴリーリーダーのUber Eatsであれば業界全体の拡大やサービス拡充をミッションとし、ボトルネックを解消するメディア展開をすることになります。一方、新規参入サービスだと、まずはサービス自体の認知やトライアル利用を図る必要があります。
これらを踏まえて佐々井氏は、「商材やそのコンディションによって、コミュニケーション戦略の解は千差万別。それぞれの特性を把握し、カスタマイズすることが必要だ」と強調しました。
ファネルに応じてテレビ(地上波)×CTVなどを組み合わせる最新のメディアプランニング
では、商材ごとのカスタマイズは、どのように設計すればよいのでしょうか。佐々井氏は、「メディア設計は、商材の特性によって異なるユーザー層の行動プロセスを分析し、プロセスごとにリーチする動線をしっかり作ることが大事」だと解説しました。
続けて佐々井氏は、リーチ→認知→興味→検討といったユーザーのファネル(行動ステップ)設計を示し、「例えば、リーチや認知を目的とするアッパーファネルには、リーチ面の大きいテレビ(地上波)やCTV(コネクテッドTV)を中心に据えるといい」とコメント。
特に、テレビ(地上波)、CTVを組み合わせることで、それぞれの強みを生かして幅広く、且つ狙っている年代も偏りなく、大きな画面でリーチできる、"テレビスクリーン"としてのプランニングが最近のトレンドだといいます。
「テレビ(地上波)は圧倒的なリーチがあってブランドの信頼性もアピールできるうえに、タイミングを計って出稿することも可能。また、CTVはテレビによる大画面での視認性を担保しながらターゲティングできるのが強みだ」と佐々井氏が説明しました。
これを受けて阿部氏は、「テレビ(地上波)は公共性があることに加え、多くの人が同時に視聴する点も魅力。Uber Eatsは食事時を狙って出稿することもあり、そのタイミングで広くリーチ取ることができる」と語ります。
また、現状テレビ(地上波)とCTVの運用は分けて行っている阿部氏は、「視聴者は地上波なのかCTVなのかを意識して見ることは多くない」ことから、今後テレビとCTVのプランニングを検討するためにも両者を組み合わせた際に期待できるリーチの検証を行いたいと述べました。
これを受けて鈴木は、テレビ(地上波)×CTVのプランニングをサポートするビデオリサーチの取り組みとして、クロスメディアデータを活用したテレビ×YouTubeの接触状況を独自推計するサービス「Cross Media Reach Report(CMR)」、テレビ×TVerの統合指標として延べ接触人数(インプレッション)と累積到達人数(ユニークユーザー)を算出する新サービス「CM-UMPs(シーエムアンプ)」(2025年4月リリース予定)を紹介しました。
佐々井氏は、「こういったメディア指標を用いて、各キャンペーンのプランニングを行うことは非常に重要」だとしたうえで、「一番大事なのはクライアントが何のために広告キャンペーンを実施しているか。キャンペーンの最終ゴールはメディア指標の達成ではなく、クライアントのビジネス成長であることを忘れてはならない」と語ります。
続けて、ビジネス成長の進捗として時系列での達成状況を確認することの重要性を強調。「カギを握るのは、短期・中期・長期にわたる時系列を行き来する"一貫性"のある評価の仕方だ」と考えを述べました。
"一貫性"の実現には、各レイヤーにおける共通の目的意識とKPIの相互理解がキー
では、短期・中期・長期にわたる時系列において「"一貫性"のある評価」を実現するためには、何が課題となるのでしょうか。
Uber Eatsでは、「長期におけるブランド形成」と「短期における刈り取り型戦略」の双方をすり合わせて、一貫性を保持することが大きな課題といいます。
例えば、阿部氏が所属するブランド戦略チームのKPIは、アッパーファネル・ミドルファネルにおける長期的な利用意向の向上です。しかし一方では、ローワーファネルである新規ユーザー獲得を目標に、短期的に結果をみていくチームもあります。
それぞれのチームがそれぞれ活動を展開するなかで、クリエイティブのトーン&マナーのすり合わせができていないことなどが課題になりがちですが、指標の違うチームがともにKPIを達成するためには、「お互いのメリットを活かすための協議を行い、各々の役割をしっかりと果たしていくことが求められる」と阿部氏は語ります。
広告会社側の実感として『今はブランディングに重きを置くべきか、ユーザーの刈り取りをしっかりやるべきか。何が適切なのか分からない』といった迷いを持つクライアントが多いと佐々井氏。それに対して、「ブランディング/獲得どちらかだけが正解ではない。ずっと同じ戦略を採り続けるのは避けるべき。効果検証をしながらその時々に合ったアプローチをバランスよく繰り返し行うことが大事だと考えている」と述べました。
また、実際のブランド戦略として、Uber Eatsの場合、クリエイティブの基本ルールを定め、各チームでそれを維持して活動しているそうです。「一貫性のあるブランドクオリティの担保はかなり大事にしている」と阿部氏はいいます。
佐々井氏からも、『目標に対してどのようなメッセージを発信すべきか分からない』というクライアントの声が多いとしながら、「各ファネルを通じて、一貫性のある世界観を保つことは重要だ。例えば、アッパーファネルではラグジュアリーな世界観を打ち出しているのに、ローワーファネルに対して高い割引率をアピールするようなことは避けたい」との見解を示しました。
こうした状況の中で一貫性を実現するためのツールとして、博報堂DYメディアパートナーズが提供する総合マーケティングプラットフォーム「CREATIVE ENGINE BLOOM」を紹介。マーケティング戦略を中心に、メディア、クリエイティブなど5つのモジュール群の各ファネルのKPIを計測するソリューションでありながら、それらが相互に連携し合い、さらにプロフェッショナルの技術を掛け合わせることで、一貫性のあるサービスを提供できると説明しました。
これを受けて鈴木は、「売上やブランド力の強化といったチーム共通の目的を持って、一つのゴールに進むことが重要だ」と改めて解説。また、そのプロセスにおいては各チームの役割分担を明確化すること、KPIを相互理解したうえでその双方をバランス良く実施することを強調しました。
外部環境の変化により常にアップデートが求められるプランニング環境。そんな中、唯一変えてはいけないものとは?
次に、「プランニング実装に向けた打ち手& PDCA」というテーマで議論が交わされました。
プランの実行・評価における現在の課題を阿部氏に尋ねたところ、「100%正しいPDCAの回し方は、一生かかっても見つからないと思う」との回答。理由として、「他業種・競合他社の指標や、代理店からのアドバイスを参考にしようとしても、プロダクトの特性やプランニングのフェーズが違うことに加えて、メディア/プランニング指標も目まぐるしく変化している。現状の最適解があったとしても、来年参考になるかも分からない。常にアップデートする必要があると感じている」と続けました。
これを受けて佐々井氏は、メディアプランを「サグラダファミリア」と表現。外部の環境も企業の状況も常に進化し続けるため、完成を目指すのではなく、そのタイミングでのベストを見つけることが最適解と説きます。
「最適解を見つけるポイントは、『代理店コンサルタント』『ソリューションベンダー』『クライアント担当者』が密にコミュニケーションを取りながら連携し、この3つの歯車をしっかりと動かすこと。そのうえでクライアントごとのカスタマイズを行い、現状に合った、市場調査、ターゲット調査、戦略設計、実行、効果測定のPDCAを回していくのがベスト」だと述べました。
これに続いて阿部氏は、「良いPDCAを回すためには、メジャメント(計測データ)の活用方法が最大の課題。計測だけで終わりがちだが、検証をして何が良くて何が悪かったかを把握し、次にどう活かせるのかを模索したい。3つの歯車上にあるメンバーが一緒に考え、協議し、合意を得たKPIで進めていくことが大切だ」と語りました。
「最適なソリューションやデータを探し続け、常にアップデートしていくことが必要」だと力説する両氏。加えて佐々井氏は、「唯一、変わってはいけないのは、最終ゴールだ。それは、企業のビジネス成長であり、ブランド力アップ。そこは絶対に見失ってはいけない」と語気を強めました。
エンゲージメントを深めるコンテンツ連動や、メッセージ性のあるブランドストーリー伝達を見据えて
ここまでの総括として、鈴木は、「インテグレーション(統合)」と「アダプテーション(適応)」という2つのキーワードを提示。メディアプランニングにおいて大切なこととして、一つのゴールに向かって統合していくこと、そして常に変化し続けて適応していくことを強調しました。
続けて、ビジネス成長のための解はブランドによって異なること、各メディアに一貫性を持たせつつも役割を明確にすること、ブランディングと獲得はバランスを意識することが大事なこと、新しい環境に適応するために進化を続けることなど、大切なヒントを改めて説明。
そのうえで、今後の展望を語り合いました。
「メディアチャンネルが多様化し、ユーザーは広い選択肢から情報収集をしている。その中で我々は、より多くのユーザーが見たくなる面白い広告を制作していきたい。そのために、例えば、リーチを最大化するだけではなく、より深いエンゲージメントを得るためのコンテンツ連動を考えている。また、従来の計測方法では測れない指標も必要になってくるだろう。今後もメディア業界の方々と協業し、様々な課題を解決していきたい」(阿部氏)
「メディアプランニングを進化させるうえで重要なポイントは大きく2つあり、1つはブランドビルドへのアプローチ。メッセージ性のあるブランドストーリーを効果的に伝達することが求められ、その際はコンテンツの設計や新メディアの活用がキーになる。また、もう1つは投資の全体最適化で、達成のためにはブランド価値や質の見える化が必要だろう。スピード感のあるPDCAを回し、クライアントのブランド成長というゴールに向かっていきたい」(佐々井氏)
「今後のメディアプランニングのキーワードは、『即時・統合』『質の可視化』『網羅性』だと考える。そこでビデオリサーチでは、テレビ視聴率由来の即時データ『PMビューーン!』や、テレビ×TVerの統合データ『CM-UMPs』の提供を通じて即時・統合のニーズに応え、SNS投稿を可視化する『Buzzビューーン!』や、視聴態度や共視聴による『広告受容性研究』で質の可視化を実現。『CTV広告出稿データ』の提供など、メディアやデバイスの拡大に合わせ、より網羅性の高い計測に挑戦している。今後もサービスを進化させ、良質なデータを提供していきたい」(鈴木)
メディアプランニングのあり方が大きく変化するとともに、効果測定の手法も多様化・複雑化している現在。未来を見据えた新しい潮流が生まれていることを実感したセッションでした。