【小西 未来のハリウッドのいま、日本のミライ】ハリウッドで広がるAI活用。アカデミー賞も対応に動く

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【小西 未来のハリウッドのいま、日本のミライ】ハリウッドで広がるAI活用。アカデミー賞も対応に動く

生成AIが私たちの生活に浸透していくなかで、ハリウッドがその向き合い方に揺れている。その最新の論争を巻き起こしているのが、アカデミー賞作品賞候補作「ブルータリスト」でのAI使用だ。

エイドリアン・ブロディ主演のこの作品は、ハンガリー語の台詞にAI音声技術「Respeecher」を使用していたことが明らかになり、映画界に波紋を広げている。編集者のダーヴィド・ヤンチョーは「AIの活用によって作業時間を短縮でき、その分をストーリーテリングや映像表現の向上に充てることができた」と利点を強調。

しかし批評家たちは、職人を犠牲にしたコスト削減策としてAIを定着させてしまう危険性を指摘している。同じ技術は「エミリア・ペレス」でも採用されており、AI活用の是非を問う声が高まっている。

一方、VFX分野では、AIの活用がさらに進んでいる。オーストラリアのライジング・サン・ピクチャーズが開発したAIツール「REVIZE」は、「マッドマックス:フュリオサ」で注目を集めた。

約150カットで、子役から成人したアニャ・テイラー=ジョイへの自然な変化を表現。同様の技術は「名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN」でも用いられ、その適用範囲は着実に広がっている。

これらが大きな論争となっているのは、2023年のWGA(米脚本家組合)とSAG-AFTRA(米映画俳優組合)によるストライキで、AIの扱いが最大の争点の一つとなったためだ。

その結果、AIが脚本家としてクレジットされることの禁止や、俳優の肖像や声をAIで複製する際の明示的な同意が必要となった。

こうした規制が設けられたばかりの中での、相次ぐAI活用の実態が明らかになったことで、業界の議論は一層熱を帯びている。

そこに追い打ちをかけるように、新たな波が押し寄せた。昨年2月にOpenAIが映像生成AI「Sora」を発表。

サム・アルトマンCEOは、パラマウント、ユニバーサル、ワーナー・ブラザースなど主要スタジオを矢継ぎ早に訪問し、アニメーションやVFX、プリプロダクションでのコスト削減を提案。ストライキの余波が残る業界に、新たな課題を突きつけている。

スタジオの反応は慎重だ。ディズニーやユニバーサル、ワーナーは、自社のキャラクターやコンテンツの管理権を失うことを懸念し、正式な提携を見送っている。

一方で、ライオンズゲートは早々に採用を決定。対照的に、タイラー・ペリー監督は8億ドル規模のスタジオ複合施設の拡張計画を中止し、「従来のスタッフの仕事が奪われる」と警鐘を鳴らしている。

こうした状況を受け、アカデミー賞の科学技術評議会は各部門でのAI使用状況を調査。2026年の授賞式からの開示義務化に向けて、具体的な規定の検討を進めている。

VFX部門のベテラン会員は「新技術を革新的な方法で活用し、業界全体の発展に貢献することは重要だが、その過程での透明性も必要不可欠だ」と指摘する。

効率化と創造性、テクノロジーと人間性。ハリウッドはいま、AIとの共存の道を、手探りで探り始めたところといえそうだ。

<了>

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