【小西 未来のハリウッドのいま、日本のミライ】トランプ再選でハリウッド、DEI施策に急ブレーキ

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【小西 未来のハリウッドのいま、日本のミライ】トランプ再選でハリウッド、DEI施策に急ブレーキ

ジョージ・フロイド殺害事件から5年。

黒人男性の死をきっかけに米国で広がった人種的公正を求める運動は、ハリウッドに大きな変化をもたらした。映画からTVドラマまで、スクリーンに映る顔ぶれは確実に多様化していた。

だが、トランプ大統領の復権により、映画・テレビ業界が推し進めてきたDEI(多様性・公平性・包摂性)の取り組みは急速に後退している。

この変化は、エンターテイメント業界の「文化戦争」の最前線を浮き彫りにしている。

トランプ大統領は今年1月、企業のDEIプログラムを「違法な差別」として取り締まるよう指示する行政命令を出した。これを受け、彼が任命したブレンダン・カー委員長率いる米国連邦通信委員会(FCC)は、さっそくNBCユニバーサルの親会社コムキャストに対し、DEI施策を「根絶する」調査を開始。

その威力は絶大だった。大手スタジオは次々と手のひらを返したのだ。パラマウントは性別・人種・民族・性的指向に関する採用目標を廃止。ワーナーはDEI活動を単に「包摂性」と言い換え、ディズニーは幹部報酬を決める「多様性」基準を撤廃した。

さらにピクサーのアニメシリーズからトランスジェンダーのキャラクターを削除するなど、あからさまな方針転換が進んでいる。

皮肉なことに、この後退は映画芸術科学アカデミーがここ数年で成し遂げてきた進歩的な変化と対照的だ。2015年に広がった「#OscarsSoWhite(白すぎるオスカー)」運動を受け、アカデミーは会員構成の多様化に取り組んできた。

2016年以降アカデミーは毎年数百人の新会員を招待し、その結果、特に積極的に勧誘してきた女性や有色人種の映画人の会員が増加した。

会員構成の変化はアカデミー賞の選考にも明らかな影響を与えた。

2020年には韓国映画『パラサイト 半地下の家族』が外国語映画として初めて作品賞を受賞。2022年にはろう者を主人公とした『CODA あいのうた』が作品賞を獲得し、2023年には『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』がアジア系主演俳優の作品として初めて主要賞を総なめにした。

2024年のアカデミー賞では、『オッペンハイマー』が作品賞を受賞する一方で、リリー・グラッドストーンが先住民女性として初めて主演女優賞にノミネートされるなど、多様性を反映した選考が続いていた。

エンターテイメント業界のDEI施策後退は、トランプ政権への恐れだけでなく、複数の要因が影響している。「ウォーク」な企業活動への反発は以前から水面下で広がっていた。

ディズニーがフロリダ州のロン・デサンティス知事とLGBTQ+関連法案を巡って対立した時や、米国で最も人気のあるビールブランドの一つ「バドライト」が起こした騒動も記憶に新しい。

「バドライト」がトランスジェンダーのインフルエンサーを起用すると、保守派から「ビールに政治を持ち込むな」と激しい非難が殺到し、全米規模の不買運動に発展したのだ。

また、「ストリーミング戦争」と呼ばれる過剰投資の時代が終わり、各社が財布の紐を締めるなか、真っ先に切られたのが多様性関連の予算だった。

特に、多様性イニシアチブは最初に切られるものの一つとなった。「多様性はビジネスに良い」と口では言いながら、実際には真っ先に切り捨てるという皮肉な状況が広がっている。

穿った見方をすれば、スタジオは2020年に米国中で抗議活動が高まった時でさえ、多様性に本気で取り組むつもりはなかったのかもしれない。

SNSで支持を表明し、DEI担当者を雇っても、真の変化を生み出す権限は与えなかった。一種のパフォーマンスだったのかもしれない。

もう少し寛大に見れば、トランプ政権下での変更は表面的なものに過ぎないのかもしれない。ただ声高に言わなくなっただけで、多くの企業は水面下でこっそり多様性を重視し続けているのかもしれない。アカデミーの多様化も、そう簡単には元に戻らないだろう。

一方で、「赤い州」と呼ばれる保守的な州の視聴者へのアピールも始まっている。アマゾンは先日、トランプがスターになるきっかけになったリアリティ番組「アプレンティス」をプライム・ビデオで配信すると発表した。いかにも時流に乗った決断だ。

結局のところ、ハリウッドは今も昔も同じかもしれない。利益を追求する企業として、時代の空気に敏感に反応しながら、最大の収益を目指す姿勢は変わらない。

ただ、この過程で失われる可能性のある多様な声やストーリーの価値は、単純な収益の数字では測れないものだ。近いうちに揺り戻しがあることを秘かに願っている。

<了>

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