【 鈴木おさむ の WHAT'S ON TV ? 】「エール」の裏側に込めた、変革への想い

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【 鈴木おさむ の WHAT'S ON TV ? 】「エール」の裏側に込めた、変革への想い

【 鈴木おさむ の WHAT'S ON TV ? 】第56回

Synapse創刊時から、約10年間にわたり「鈴木おさむ の WHAT'S ON TV ? 」を連載されてきた鈴木おさむさん。2024年3月の放送作家・脚本家業の勇退に伴い、本コラムも終了を迎えることになりました。

最後に、「視聴率」「SNS」「作り手の熱意」など、連載内で取り上げられてきたいくつかのテーマを振り返りながら、本コラムに込められた想いから番組制作の根幹に至るまで、鈴木さんが「今」テレビについて感じていることを伺いました。

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テレビは今、すべてにおいて変わらなくてはならない

―その時々の幅広い番組・話題を切り口に、テレビに関わる方々へのエールや可能性を示唆された内容が印象的な連載でした。同コラムの執筆にあたり、ご自身としてはどのような想いを込められていたか、あらためてお聞かせください。

テレビは今、これまでと同じ形で番組づくりを続けていくことが難しい状況にあります。番組制作の根幹となるビジネスモデルを含め、すべてにおいて変わらざるを得ず、変わらなくてはいけない。その中で僕としては、「エール」として書いた言葉の裏に、関係者の方々に気づいてほしいことをたくさん込めていました。

大前提として、「テレビの力」は今でもすごいという事実があります。何千万人もの視聴者に向けて同時に放送ができるパワーは本当に大きい。

けれど、インターネットやスマホが登場し影響力を持った今、もはや「一番ではない」ことを早くテレビ側の人間が言ってしまった方がいいと強く感じています。一番ではないと認めるからこそ、楽になれることがあるのではないかと思うからです。

各放送局の営業の方々が一番わかっていると思いますが、テレビは早急に「稼ぎ方」も変えなくてはいけません。確かにテレビはすごい。

だけど、それを言ったらネットだってすごいですし、今ではその「テレビの力」をうまく使いきれなくなってしまった現状があると思います。毎回のテーマを考えるにあたり意識していたのは、とにかく「今」。できるだけ今言うべきこと、気になったことを掘り下げて書いていました。

「個人視聴率」へのシフトがテレビ界に示したもの

―テレビを取り巻く環境が変わる中、連載の中では「世帯視聴率」から「個人視聴率」へのシフトについて繰り返し書かれていました。本格的に個人視聴率へと焦点が移された今、番組制作における影響をどう見ていらっしゃいますか?

「世帯視聴率が絶対」という考え方を壊したことで、「このままではテレビは本当に駄目になる」と示せたことが一番大きいと思います。個人視聴率へのシフトが、そのスタートラインになったのはとても良かった。

一方で、個人視聴率を重視することによって、局ごとに必要とするデータが変わり、ある意味数字上の"言い訳"もできてしまう状況になりました。

これまでは世帯視聴率が絶対という共通の基準があったけど、今はそこが低くても「個人視聴率のこの層はいい」と言うこともできてしまう。

結果、みんなが迷っている状態だと思うんです。自分たちはどこを向いて番組を作ったらいいのか、テレビ自体、何を目指して作るのがいいのかが分からなくなっている面がすごくあるように思います。

そうなると、例えば「TVerで500万回再生された」といわれた方が分かりやすいし、誰もが喜んでしまう。実際のところ、ドラマの制作陣が一番喜ぶのは「Netflix」で配信されることといった状況も出てきています。僕自身はその状況が一番どうなのだろうかと危惧しているところですね。

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"バズ"を生み出すのは、作り手の「勇気」

―今のお話で考えると、制作側の皆さんが配信でたくさん視聴されることを意識して番組づくりをする流れが起こってくるかもしれません。

むしろ、今はそれしかなくなってきているのではないでしょうか。特に23時以降の深夜帯になってしまうと、テレビの視聴人数は相当厳しい状況ですから。

僕が脚本を書いた連続ドラマ「離婚しない男」も、制作当初からそこに照準を合わせていました。依頼があった際に放送局からお願いされたのも、「最後に"バズらせて"終わってほしい」という話でした。

以前に同局の深夜ドラマとして手掛けた「M 愛すべき人がいて」や「先生を消す方程式。」は見逃し配信での再生回数も良く、バズ状態になった。だから僕が辞める前に、話題化やトレンド化も含めて「大きくバズるドラマ」をつくってほしいという希望だったんです。

―「バズるドラマを」とお話があっても、実現するのは相当難しいように思いますが、「離婚しない男」は実際に見逃し配信の総再生回数で"バズ"を起こしました。こちらはどのような観点でつくられたのでしょうか?

たしかに難しいことですが、話題化やバズを起こすのは、結局のところ作り手の「勇気」だと思います。

「離婚しない男」も、僕が主人公の妻役に篠田麻里子さんの名前を挙げたとき、それでいきましょうと動いてくれたプロデューサーと、引き受けてくれたご本人の勇気が大きかった。ドラマの内容から考えて普通だったら尻込みしてしまうところを、「それ面白いじゃないですか」と行動してくださった人たちがすごかったですね。

―連載の中でも、熱意や番組づくりを楽しむ姿勢といった作り手の"ソフト"面に言及をされていたのが印象的でした。「離婚しない男」も役者陣が楽しみながら"怪演"している点が魅力の一つです。そういったものは、やはり画面に表れてくるのでしょうか?

もちろんです。本人たちが楽しんでできる番組は強いですし、今回のドラマも楽しんでいる人しかやらないんじゃないでしょうか。

役者さんの場合、やっぱり役の中でさまざまなセリフを言いたいですよね。だから僕のドラマでは、他の作品では言うことがないようなセリフを言わせるんです。

視聴者の方も、3番手はこの役者、4番手がこの役者と常に決まってきたら飽きるでしょうから、「このドラマでしか言えないセリフ」が出てきた方がオンリーワンに見えて楽しめると思います。

"テレビはちゃんと見られていない"を前提に、人と話したくなる「事件」を起こす

―バズや話題化を狙う上では、SNSの存在も欠かせません。一方で、SNSは毒になることもありえます。番組づくりにおけるSNSの存在はどう捉えていましたか?

ドラマはスマホを置いて見てほしいという人もいますが、僕の印象では、テレビって洗濯物したり料理したりしながら点けていて、もともと"ちゃんと見てない"ものなんです。

そもそもテレビが家庭にある意味ってそんな感じだと思うんですね。だから、ちゃんと見てもらおうと思ってつくるのって、僕的には「テレビ番組」ではありません。

その上で、今なら何をしながら見るかと言ったら一番はスマホですよね。スマホを手にSNSをしながら見たり、何ならYouTubeを流したり。僕はそれでいいと思うんです。ただ、どうせSNSをするなら、せめて見ている番組のことをいじって欲しい。

そう考えると、番組の中で「人と話したくなること」を用意する視点は大事ですよね。いわゆる情報番組は別として、僕は、テレビという媒体が生まれた時から、それが基本にあると思っています。「事件」を起こすことが、本当に大事だと。

―テレビの世界における「事件」というお話ですね?

はい、連載の中でも書きましたが、昔「スマスマ(『SMAP×SMAP』)」で木村拓哉君にギャル男コントをやらせたいと思った時に、本人が渋っていたんですね。その時たまたま爆笑問題の太田さんが現れて、「やった方がいい」と言われた。

なぜならそれは「事件」だからって。「俺たちはスマスマで毎週事件が見たいんだよ」とおっしゃったんです。

スマスマに限らず、『はじめてのおつかい』で子どもが予想外の行動をするのも、生放送のスタジオで誰かが暴れるのも事件です。ドラマの展開で"裏切り"が出てくるのもそう。今はそれがSNSに反映されていきます。

コンプライアンスの中での戦いにはなりますが、やっぱり僕にとっては、そもそもテレビって何かしらの事件を起こすもの。ドラマの脚本を書くときも、そこは特に意識していました。

―放送作家としてテレビ番組制作へ携わるにあたっては、特に大事にされていたものはありますか?

放送作家は、基本的に演出をする人のたちの「頭脳のアシスタント」です。たとえば(プロデューサーの)片岡飛鳥さんは天才だから、自分でいくらでも番組を作れる。

だけど、彼が番組をつくる上でほしいものは何か、自分では思いつかないこと、ロジカル的に必要なものは何か...と考え、アシストするのが僕らの役目だと思っています。

面白い番組ができるかは、実際のところ、彼ら演出プロデューサーの個性と粘り次第です。その中で放送作家は、ある意味彼らの"愛人であり恋人"みたいなものだと。そうした視点をとても大事にしていましたね。

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今が、番組制作の根本を変えるチャンス。「もがいて、もがいて、頑張って」

―ここまでのお話にあったとおり、テレビ業界全体に大きな変化が起こり、厳しい状況も見えている中で、「今、テレビだからできること」は何だと思われますか?

ビジネス観点のお話ですと、できることは本当にたくさんあるはずです。たとえば番組制作のためにスポンサーを取るのではなく、クラウドファンディングで資金を集めることだってできるかもしれない。

それが放送法的に良いのかという問題はあるけど、「スポンサーに関係なく、水曜22時の番組で面白いものをつくりたいから協力してほしい」と言ったら集まると思います。インターネットの番組でやるのは難しいかもしれませんが、テレビの力はすごいから。

今はそうした番組制作の根本的な方法までを、1つずつ企画できるタイミングです。関係各所との困難な調整を覚悟で立ち上がる人はなかなかいないけど、もうそれをやらないといけない。

厳しい状況なのは確かですが、見方を変えれば、制作工程の資金の集め方から違うことを始められるチャンスです。最初は大きな反発があるでしょうけど、お金の見方に対する変革の必要は確実にあります。

繰り返しになりますが、拡散力も社会的信用もある「テレビの力」ってやっぱり本当にすごい。だから、ただ番組を作るだけではなく、それぞれの枠の成立のさせ方を考えていく、その大きな契機だと思います。

むしろ、今それをやっていかないと本当に駄目になってしまうのではないでしょうか。

―そうした流れが迫る中で、最後にもう一度テレビに関わる方たちへのエールをいただけますか。

とにかく、もがいて、もがいて、頑張ってほしいと思います。

僕が放送作家を辞める理由の1つは、自分自身がテレビとは違う土俵で新しいことを成功させて、その方法を伝えていくことを考えているからです。テレビ業界の人はこれまでテレビの仕事しかしてきませんでした。企業としてはもっと他のビジネスもできるのにやらなかった。

だから、僕は外に向かって出て行って、テレビと関係のない仕事をして「こういうやり方もある」と伝えたいと思っています。

これまでお話したように、今はもう番組制作の根幹から変えていくことを、大急ぎでやらないといけない状況。だからとにかく、もがいて、もがいて、この5年ぐらいで、何かしらの答えを見つけてほしいと願っています。

<了>

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