タブレット端末を海外の医療、教育現場へ【前編】ービデオリサーチが考え、取り組むSDGs
2015年に「SDGs(持続可能な開発目標)*1」が採択され、最近では、様ざま企業が持続可能な社会の実現に向けて積極的な取り組みを行っています。当社でも事業活動を通じて行える「SDGs」に取り組んでおり、主事業であるACR/ex調査で使用済みとなったタブレット端末を寄贈し、医療・教育に役立てています。
SDGs17の目標のうち、「3.すべての人に健康と福祉を」「4.質の高い教育をみんなに」に貢献すべく電気通信大学の協力のもと、5年前から進めてきました。
この取り組みについて、同大学の石垣陽准教授と当社の担当者・フィールドワーク統括部長 染谷保幸との対談を通して2回にわたってお届けします。
使用済みタブレット端末1万5,000台の利活用が課題に
--調査用タブレット端末を寄贈したきっかけは?
染谷 当社のACRという調査は、40年以上紙のアンケート用紙で調査をしていたのですが、2014年「ACR/ex」としてリニューアルしたのを機に、紙からタブレット端末に切り替え、それを調査協力者の方に配布し、回答データを取得する形式に変わりました。
春調査の対象は7地区で約1万人、そのため使用するタブレット端末は予備も含め、約1万5,000台にもなります。機器の消耗などを鑑み、定期的な入れ替えを要するため、約3年後に1万5,000台が用済みとなってしまいます。
これらをただ廃棄するのではなく、何か有益に再利用ができないかと各方面に相談していたところ、医療や教育に関する研究を行っている石垣さんを知ることになり、お声がけをしたというのがそもそものきっかけでした。
石垣 私は工学者、デザインエンジニアなのですが、研究者として人の役に立ちたいという思いで、健康で文化的な生活を支える技術の実装、世の中の役に立つ商品の普及に努めています。
研究領域としては大きく3つ、「医療機器」「災害の即応」「市民のリスクの合意形成」です。そのうち「医療機器」として開発した「オクルパッド」の海外での活用事例としてビデオリサーチと一緒に取り組むことになりました。
*1 2015年9月に国連サミットで採択され、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標(Sustainable Development Goals)
世界初の弱視訓練装置としてタブレット端末を活用
--『オクルパッド』とは?
石垣 子どもの弱視治療の手法です。視機能の発達不良によって引き起こされる弱視は、約2〜3%の小児が発症するとされていますが、 概ね8〜9歳頃までに治療をすれば視力の回復が見込めます。
しかし、大半の治療は、眼帯やアイパッチなどによって健康な眼を塞いで訓練するもので、見た目の違いからいじめの原因になるなど、精神的なストレスが大きいため続けにくく、また治療期間が1年程と長いです。
そこで開発したのが「オクルパッド」です。両眼を開けた状態で偏光メガネをかけタブレット端末上のゲームを楽しみながら弱視訓練ができ、その上訓練期間も従来より短くて済むという報告が出てきています。日本国内では数千人の子どもの治療に使われています。
--使用済タブレット端末をどう活用したのか?
石垣 「オクルパッド」は海外展開も始めたのですが、人口の多いインドで普及させるには予算の都合上、端末が足りず苦戦していました。そんなときタブレット端末寄贈のお話をいただき、インドで「オクルパッド」の導入ができるようになったのです。
染谷 2016年にインドで利用する「オクルパッド」用に2,000台寄贈したのが、最初の取り組みですね。
後に、経済産業省東北経済産業局主催の「第7回ものづくり日本大賞」にて「オクルパッド」が経済産業大臣賞を受賞、当社もチームの一員として表彰されました。
石垣 寄贈いただいたタブレットはインド国内で15カ所以上の病院に「オクルパッド」として導入し、臨床試験を進めています。
インドに限らず潤沢な治療が受けられない子どもは多いので、できるだけ多くの国に「オクルパッド」を届けるべく、現在も海外への普及活動を精力的に行っています。
タブレット端末の利活用として他にも、ルワンダ共和国などへの寄贈も行っており、子どもたちの教育などに使われています。次回は現地で利用されている様子も交えてお伝えします。