【ニューメディア社主催USAメディア勉強会レポート】第1回|日米の放送制度とビジネス構成の違いから考えるDXアプローチ —資本主義が徹底するアメリカで進展するメディアの変化
株式会社ニューメディア主催の勉強会「米放送業界の広告ビジネスモデルを日本と比較しながら知る〜NAB 2022カウントダウンセミナー〜」が、2022年3月から4月にかけて開催されました。
登壇者として、米国放送業界アナリスト/NSI Research 代表・テッド若山氏と、当社グループのビデオリサーチUSA President & CEO・谷口氏が参加し、米国と日本をZOOMでつなぎながら、ディスカッションを交えたスタイルで行われました。
本レポートでは、3回にわたり開催された勉強会のエッセンスを谷口氏が紹介します。
【勉強会プログラム】
第1回目 2022年3月31日
テーマ|米と日本の放送制度とビジネス構成の違いからDXのアプローチを考える 〜Netflix成功が塗り替えた考え方とアプローチ〜」
第2回目 2022年4月7日
テーマ|米のテレビ視聴の実態とアドレサブル広告、日本のテレビ広告事情の違い →こちら
第3回目 2022年4月8日
テーマ|米のテレビ視聴の実態と、日本のテレビ広告事情の違い →こちら
■台頭するストリーミング配信サービスと変わるメディアユニバース
アメリカでも若者がデジタルに移行している中、テレビのデジタルシフトはメディア側でも、従来のリニアTVだけでは届けられないという現実を十分理解しています。また、デジタルシフトに付随して、コンテンツとその流通経路を巡る企業や事業のM&Aによって、メディアの資本構造が大きく複雑化してきているのが現状です。
図1は2021年のメディアユニバースを表現していますが、これを見てアメリカの5大ネットワークがどこに位置しているのか、瞬時にわかる人はほとんどいないでしょう。円の面積が大きい企業はサムスンやディズニーなど、直接テレビ局とは関係ない企業がほとんどで、メディアユニバースとしてピンと来ないのが、日本人の感覚ではないでしょうか。
この図が表しているように、テレビ局はあくまでもコングロマリット、つまり複合企業のひとつの歯車でしかなくなってしまっています。そして親会社は配信経路企業、これは通信会社やケーブル会社など日本でいう地上波ではなくデジタル系的要素の強い企業が資本としてあります。
アメリカのネットワークテレビ業界は1940年代以降、主にABC、CBS、NBCの3大ネットワークが連なり、更に1980年代にはFOX、CWが加わって、現在ではこれらの5大ネットワークが中心となります。ただ、彼らはステーションではなく、あくまでもネットワーク局です。そのため、番組を放送する権利、あるいは広告を番組につける権利を所有しますが、実際の番組広告の放送業務は、各ネットワーク局の系列局がすべて行なっています。
図2は、テレビを加えたアメリカのコンテンツ配信の関係性を示したものです。配給されるコンテンツはもちろん、各プラットフォームの資本提携も"代表するコングロマリット一社"とはなっていません。つまり、「ある局の配信プラットフォーム、アプリはこれだ」とは一概に言い切れないのが実情です。
またポイントとして、コンテンツもプラットフォームもアプリも、商品やサービスのひとつになってきていることが挙げられます。つまり、各社とも系列へのこだわりはさほど大きくなく、とにかくビジネスとして成立させることを優先するという、資本主義に忠実で、非常にアメリカらしいドライな発想が根底にはあるようです。
■コードカッティングは進むが、テレビ広告はいまなおトップの座を守る
テッド若山氏からは、アメリカにおけるコードカッティングやコネクテッドTV(以下、CTV)利用の実態や、ストリーミング配信のサービス形態のなかでも比較的新しいFAST(「Free Ad Supported Tv」の頭文字)について、説明がありました。
「放送とストリーミング視聴時間のシェア」(ニールセン社データ)を示しながら、従来のケーブルテレビ(多チャンネル)の視聴時間のシェアが下がっている現状から、これがいわゆるコードカッティング、つまり契約解除に繋がっているといいます。
コードカッティングは確実に進んでいる一方、CTVは現在のブロードバンド世帯の82%に普及。 その中でも、毎日使っている利用者の割合は40%にものぼるとのこと。つまり普及世帯の半分はCTVを毎日使うようになってきているそうです。
リニアTVと従来のケーブルテレビ(多チャンネル)におけるテレビ広告費の収入は、2016年から割合は減少しているものの、依然として従来のテレビサービスが市場の8割近くのシェアを占めており、今もなおテレビは王様であるといえます。
■テレビ放送局、メディアユニバースの収入の実態とは
そのテレビ広告費の内訳をみると、ネットワークは全体の68%を占めています。しかし、このうち45%はケーブルテレビ(多チャンネル)向けであり、しかもコードカッティングによる減少も進んでいるため、今後もネットワークによる広告費の割合は減少していくと思われます。そのため、ケーブルテレビ(多チャンネル)や他の配信形式での広告収入を模索していく必要がある、というわけです。
2021年は、前年から4%ほど下がったといわれていますが、5大ネットワーク局のプライムタイムの取引では、年間約8ビリオン〜10ビリオン稼ぐとされ、その健在ぶりを裏付けています。
広告という意味では、テレビ広告はまだまだ健在です。
しかし、視聴者は確実にデジタルに移行しており、4%下降という数字は決して少なくありません。この数年、アメリカのテレビ業界で、DVRやVOD、あるいはストリーミング等のデジタルシフトへの対応を行なっていなければ、さらに下がっていたでしょう。
もちろん、そのネットワークは広告のないストリーミング、オンデマンド系に対抗して、広告枠の秒数やCMの素材、枠数などの工夫を行いながら戦っているというのが現状です。
第2回では、アメリカのテレビ視聴の実態とアドレサブル広告と、日本のテレビ広告事情の違いを紹介します。
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