Keynote:TVerの現状とこれからのビジョン【VR FORUM 2022 レポート】
[登壇者] 株式会社TVer 代表取締役社長 若生伸子氏
リアルタイム配信がスタートしてユーザーとテレビコンテンツの新たな接点が加わったTVer。2022年4月にはさまざまな視聴環境を横断してユーザーを紐付ける「TVer ID」がスタートし、ユーザビリティの拡大とアドバタイザーの満足度を高めるマーケティングツールとしての成熟が進んでいます。「見たいがある」から「日々訪れる」プラットフォームへと進化するTVerは今どのような位置にあり、今後どのような景色を描いていくのでしょうか。
そこで2022年6月より株式会社TVer代表取締役社長を務める若生伸子氏にお話を伺いました。
■動画再生数は月間2.5億回を突破。F1・Teen層の定着が進む
今年2022年10月26日で開始7周年を迎えたTVer。在京民放キー局50番組からスタートした配信ラインアップは、いまやレギュラーコンテンツだけでも約600番組に拡充しています。2022年4月には民放5系列でのリアルタイム配信もスタートしました。
動画再生数は直近2年半で約3倍に伸長し、2022年10月に過去最大となる月間2000万ユーザーを記録、2.5億回再生を達成しました。
利用者構成比は人口動態に近い形で分布しており、全体の31.3%を占めるF1(女性20?34歳)層・F2(女性35〜49歳)層に加えて、Teen(ティーン/男女15〜19歳)層やM1(男性20?34歳)層の割合も増加。ビデオリサーチの調査ではライブ配信・DVR(見逃し配信)の新規ユーザーにTeen層と男性層が圧倒的なシェアを持つなか、その約半数がTVerに定着しています。
■リアルタイム配信も始まり、ドラマ、スポーツ、報道、充実し続ける番組群
TVerに続々投入される配信コンテンツの視聴も盛り上がりを見せています。各局でドラマが好調となった2022年10月改編期の作品では『silent』(フジテレビ)が「回を追うごとに再生記録を塗り替える勢い」(若生氏)といいます。
スポーツコンテンツでは、初の配信となったプロ野球日本シリーズのリアルタイム配信がサービス開始以来最高のWUB(週次ユニークブラウザ)数となったほか、6月のサッカーキリンチャレンジカップ2022・日本対ブラジル戦で実施したライブ配信では同時接続数が20万デバイスを突破。うち85%がスマートデバイス経由での視聴で占められ、平均視聴時間は約50分を記録しました。
さらに報道では、2022年7月に発生した安倍晋三元首相の銃撃事件において在京民放キー局5局の速報・特番をリアルタイム配信。若生氏は「各局とリアルタイム配信のシステムが接続できたことで実現した」とし、「事件事故などの報道特番の実施に可能性を示すことができた」と振り返りました。
現在もラインアップの充実は進んでおり、GP帯の全国ネット番組はリアルタイム・見逃し配信ともにほぼ全てを網羅。「他の有料配信プラットフォームと比較しても、TVerとテレビのリアルタイム視聴・見逃し視聴には一定の相乗効果が見られる」と若生氏は語り、「テレビとの親和性が高いからこその相関関係を今後も大切にしていきたい」と期待を述べました。
加えて、若年層で増えている視聴スタイルとして、SNSの盛り上がりを受けて途中からのリアルタイム視聴や、友人との共視聴を挙げ、「地上波と動画広告のインクリメンタルリーチが注視される中、プラットフォームを選択する一つの視点になれば」と提案しました。
■「TVer ID」登録数は堅調に続伸。2022年度内に500万ID達成が視野に
2022年4月にスタートした「TVer ID」は堅調に登録数を伸ばしており、2022年度内に500万ID達成が視野に。若生氏は「TVer IDの取得利用により、アンケートデータ以外でユーザーの解像度が上がる」といい、「デバイスを横断してユーザーの分析が可能になることで、よりユーザーに寄り添ったサービスが展開できるようになる」とメリットを強調しました。
加えて「ユーザーにベネフィットを還元しつつ、アドバタイザーには満足度の高いマーケティングスキームを提案してまいります」と若生氏は述べ、個人を特定しない形でユーザーデータを集約した「データクリーンルーム」のPoC(実証実験)実施にも触れ、「(ユーザーからの利用)許諾の範囲の中で高い精度のターゲティング獲得も目指していきたい」と語りました。
■注目高まるローカルコンテンツ。特集企画で「ムーブメントとコミュニケーションを共有」
現在、地上波キー局とその系列局、さらにBSや独立局も合わせて全国115局のコンテンツ配信実績を持つTVer。
人気番組を表彰する「TVerアワード」では『相席食堂』(朝日放送テレビ)や『かまいたちの掟』(TSKさんいん中央テレビ)が特別賞を受賞するなど、ローカルコンテンツへの注目が高まっています。
さらに2022年1月には、ローカル局のコンテンツ配信をテーマにした総務省の実証事業に協力。全国の民放113局からアンケートを募るとともに、研修会やメールマガジンの発行を通じてローカル局とのコミュニケーションを深めています。
2022年9月中旬から10月中旬にTVerで実施された「サウナ特集」では、各地のローカル局もさまざまなサウナ関連番組を提供。「地域を越えてムーブメントとコミュニケーションを共有できる企画でマネタイズできるよう、今後も検討していきたい」と若生氏は意気込みを語ります。
■TVer再生数の3割に迫るコネクテッドTV
続いて話題は、ネット結線されたテレビデバイス「コネクテッドTV」に関する施策について。直近2年半の間にテレビデバイス向けアプリを経由した週次の動画再生数は約8倍に大きく成長し、「TVer単体の再生数の約30%に手が届く勢い」(若生氏)に。
2022年5月には東芝「REGZA(レグザ)」ブランドから、リモコンにTVerへの直接アクセスボタンを搭載したテレビが発売されるなど、よりアクセスしやすい環境に。「有料課金のサービスでは、アクセスボタンの搭載がユーザー獲得を大きく左右するポイント」と若生氏は述べ、「引き続きテレビデバイス拡張に向けて最大限の努力をしたい」と語りました。
■TVerが見据える「これからのビジョン」4つ
キーノートの後半は、TVerのこれからのビジョンについて。若生氏は4つのテーマを掲げ、その方針と意気込みを述べました。
1つ目は「ユーザビリティを意識したサービスの拡充」。
「TVerのユーザー動向を見ていると、Teen層を中心にTVerを介してテレビコンテンツに触れるケースが多い」と若生氏。「SNSと連携しながらのリアルタイム配信・ライブ配信・見逃し配信を含め、ユーザーそれぞれの視聴スタイルで楽しんでいる」と語り、「ユーザーの声に耳を傾けながら、より一層のサービス拡充に努めたい」と述べました。
2つ目は「コネクテッドTV対応の強化」。
「TVerのCMは全デバイスにおいて完視聴率が高く、有音で再生される視聴環境」とし、「CMのメッセージが伝わりやすく、なかでもテレビデバイスにおいて高い結果が出ている」と強調。「UI/UXの最適化を含め、コネクテッドTV領域の強化につとめたい」と述べました。
さらに3つ目の「広告セールス」ではファーストパーティー(1次)データの拡充とともに、「TVer ID」を活用し、「クロスデバイスでの最適なフリークエンシーの検証と制御を目指す」とコメント。
4つ目の「ローカル各局との連携」では「ユーザーの関心も、ニッチな情報やユーザー間のコミュニケーションによってもたらされるケースが多い」と語り、「その可能性をどうビジネス化するか、シンプルで使い勝手の良いスキームをローカル局の皆様にご提供していきたい」と述べました。
■対応デバイス・サービス多様化で「日々訪れたくなるプラットフォーム」に
電通が発表した「日本の広告費」によれば、インターネット広告の全体の費用が2.7兆円ある中で動画広告が5,000億円を突破。しかし現状、その動画広告の大半を外資プラットフォーマーが占めており、テレビメディアの関連動画広告についてはわずか249億円で、全体の4.9%程度にとどまっています。
「国内のコンテンツプロバイダーとしてユーザーや広告主に選ばれるポジションを確保することがTVerとして最大の使命」と若生氏。「これまでの目的型視聴に加え、日々訪れたくなるプラットフォームになるために、ユーザーに対する更なるサービス拡張が必要。放送局の多様なコンテンツをユーザーのニーズに対応すべく、多様なデバイスで多様なサービス形態をお届けする」と意気込みを語ります。
「テレビ局の取材や編集能力のスキルは破格のものだと自負しております」と若生氏。「それをユーザーにどう届けられるか。コンテンツの楽しみ方を開放していくことが新しいメディアの扉の開放に繋がることだと信じております」と締めくくりました。
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