コンテンツの力を最大限に発揮する【VR FORUM 2022 レポート】
[登壇者](右から)
プロデューサー/ディレクター 佐久間宣行氏
株式会社電通グループ エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター 澤本嘉光氏
プロデューサー/ディレクターとして数多くの人気テレビ番組を手掛けてきた佐久間宣行氏と、話題のテレビCM制作で数々の広告作品賞の受賞歴を持つクリエイティブディレクター・澤本嘉光氏の対談が実現。今回はコンテンツ視点を主軸に据え、プラットフォームごとの違いや特徴、コンテンツの価値について自由に語っていただきました。
■「メディア間の分断」がもたらす、テレビの新たな勝ち筋
2021年3月にテレビ東京を退社し、現在はフリーのプロデューサー/ディレクターとしてNetflixやラジオ、YouTubeなど多方面で活躍する佐久間氏。退社後、「Netflix、ラジオ、YouTubeもやって働けば働くほど、『メディア間の視聴者の分断』を感じる」といいます。
「YouTuberなど他のメディアで成功した人が一番大きなメディアのテレビに出てくるという流れがこれまで当然とされてきましたが、いまはそれが全くうまくいかない。ノリが違うというだけではなく、ファンが離れる事態が起きる。特にYouTubeが踏み台だと思われたらうまくいかない。それがTikTok、ラジオなどさまざまなメディアで起きている。いまはそれぞれのメディア、プラットフォームに固有のファンがついていて、それぞれの魅力を伝えあわない。そのメディアを愛する人たちの"肝を掴む"、本気だと伝えることが大切で、だからこそプラットフォームをまたいだ横展開が難しいと感じます。」
これに澤本氏も反応。「CMの世界でもテレビで人気が出た方に出ていただくことが多いが、若者を意識すると一時期YouTubeやTikTok、Instagramなどの動画で人気が出たものをCMに取り入れる動きが多かったが、いまはそういった手法もなんとなく飽きられてきている」と語ります。
その中で、「いまやテレビ番組にもいろんな生き残り方やKPIがある」と佐久間氏。「選択肢として、配信や、より直接的なマネタイズとなるイベント等も入ってきている」といいます。
佐久間氏が手がける『あちこちオードリー』(テレビ東京)では番組発の有料オンラインライブを開催し、2021年には8万4000枚という番組のオンラインライブとしてはダントツのチケットの売り上げを記録。企画にあたり、佐久間氏は「感じていたメディアの分断の感覚が役に立った」と振り返ります。
「昔であればテレビとのシナジーを考え、オンラインライブの模様をテレビでもオンエアしたはず。しかし今はそれが逆効果の時代だと感じ、オンラインライブの模様は一切テレビでオンエアしないことを公言し、実際に一切オンエアしませんでした。
テレビでオンエアしない代わりに、オンラインライブでは、テレビでは流れないような強いワードを言ってもらった。そうしたら爆発的にチケットが売れたんです。これが『そのジャンルだけに特化している』ということなんだな、と思いました。元々感じていたことが自分の中で立証された感じがありました。」
■視聴者との「"信頼"の積み重ね」がコンテンツを強くする
ネット配信に特化したフォーマットで大きな価値を生み出す一方、テレビのフォーマットを最大限に活かしてSNSで大きな話題を得たケースも。
今年10月に放送した『じゃないとオードリー』(テレビ東京)では、「オンオフが激しい」というオードリー(若林正恭、春日俊彰)に対して「カメラを回しておくから強制的に24時間ずっとオンでいてください、という企画」を敢行。「さながら人間ドキュメントのよう」な展開となるなか、感動的なシーンである工夫をこらしたといいます。
「感動的なシーンのとき、普通だったらその前に涙の流れるキューカットを入れていくんですが、あえてそのシーンを一気に見せて、番組の終盤、エピローグの直前部分で『このタイミングでみんな"感想戦"をするんじゃないか』と、CMを入れたんです」
「『自分のことを思ったり、SNSで感想をつぶやいたりしながらCMを見つつ、自分の気持ちを整理するんじゃないか』と思うタインミングでCMを入れたところ、番組最大のピークが訪れ、SNSの書き込みが爆発的に起こった」と佐久間氏。視聴者の感情の機微に対して寄り添う「視聴者との"信頼"の積み重ね」こそがコンテンツを強くすると強調します。
「2?3年前から、展開を引っ張ったり核心を隠したりする編集を一切やめたんです。それをやると、視聴者との信頼のダメージが大きい。毎分の視聴率を上げることよりも、視聴者との信頼関係の積み重ねが番組に必要だという風潮になってきたのです」
佐久間氏は、昨今のドラマで増えてきた話題性のあるキャストの"サプライズ登場"にも言及。「(リアルタイムな放送中に)実況があるとしたうえで、それを見逃した人たちが配信を見ることも考慮している」といいます。
「結果的に、先にネタばらししていないから、リアルタイム・見逃しどちらの視聴者も楽しめる。そういった視聴者の信頼の積み重ねが、結果的にドラマ自体のコンテンツとしての強さを強化することにつながっているんだと思います」
澤本氏が"信頼"がキーワードになっていて非常に印象に残っていると言及、佐久間氏もそれに同調し、「僕も番組を編集してるときに今は、『信頼を損なうなよ』、『信頼を損なうことをやめようぜ』ということをどの番組でも言っています」と語ると、澤本氏も「信頼を損なう行為で一時的に数字がもらえても、将来的には得にならないということですね」と共感。
■テレビの役割は「『語りがいのある祭り』を起こすこと」
「メディアごとにいるファン」に特化しつつ、同時にそこに対して「信頼の積み重ねが大事」だという佐久間氏。マルチプラットフォーム時代を迎え、テレビコンテンツの出番はますます増えるばかりですが、特定のメディアで成功したアプローチが他のメディアにそのまま通用しにくいとされるなか、"テレビの良さ"を活かしていく道はあるのでしょうか。佐久間氏はこう語ります。
「音楽の大型特番などは、テレビ以外のメディアにはなかなかできないこと。予算にも限界はありますが、自分たちの作るものが"祭り"であることを意識し、それを日常的に少しずつ起こしていくことが大事なのではないでしょうか」
これを受けて澤本氏が挙げたのが、SNSを中心に話題が沸騰しているドラマ『silent』(フジテレビ系)。
「SNSはこのドラマの話題でもちきり、同時配信のリアルタイム視聴者も非常に多いと聞きます。佐久間さんの言葉に当てはめると、このドラマもまた"祭り"を作れている。リアルタイム視聴が盛り上がっているのも、同時でなければ"祭り"に参加できないからなのでしょう」
同時参加の"祭り"としてのテレビ番組と、それをまたリアルタイムで盛り上げる要素であるSNS。佐久間氏は「NHKのドラマは、その点を強く意識して作られているように思う」と注目します。
「『おかえりモネ』での"#俺たちの菅波"や、『鎌倉殿の13人』での"#全部大泉のせい"のように、コンテンツを"祭り"にする仕掛けが、実はNHKドラマにはとても多い。放映後の生放送番組で出演者が感想を述べるような『朝ドラ受け』など、視聴者がリアルタイムで乗っかれる工夫もたくさんある。その結果、NHKのドラマはちゃんと国民のものになっていて、しかもリアルタイムで見る理由を持っている気がします」
■コンテンツの「強さ」と「濃さ」を諦めなかった人が勝っていく
また広告の世界でもやり方は変わってきたのかとの質問に対し、澤本氏は、佐久間氏が佐賀県のローカル局・サガテレビで手がけたインフォマーシャル番組「ラランド ニシダのお悩み散歩 sponsored by サントリー『特茶』」の事例を挙げ、露骨にCMにも関わらず、番組自体がしっかりしていることで、面白かった番組がCMだったと受け取られていると話し、佐久間氏もCMへのネガティブな反応はなく、むしろ「サントリーありがとう」との反響が多くあったことを明かした。また佐賀ローカルかつ5分間番組という形態ながら大きな話題を呼び、同局のYouTubeを通じた配信によって全国で視聴され広告としても機能している。佐久間氏は「とにかく面白い5分番組を作ろうと思った」といい、ローカルかキー局の違いは意識していなかったといいます。
「プラットフォームごとにいるファンは、自分たちのいるプラットフォームに対して制作者が"本気"かどうかを試している。もう『マイナーなプラットフォームだから手抜いていい』とはならなくなった。どこで見られるかわからないんです」
さらに佐久間氏は"実例"として、自らのYouTubeチャンネル『NOBROCK TV』でのケースも。
「例えば、僕のYouTubeで『口ゲンカする女子』の企画をやっています。単純にYouTubeの中で面白がってやっているだけなのですが、実はこれに対して『有料コンテンツにして、イベントから配信までやりませんか』という話が複数来ています。どこにでもチャンスはメディアとして転がっているんです。メディアの分断はあるけれど、それぞれのメディアの中での面白さは"本気"でなければいけない」
「分断を感じながらも、本気度をそれぞれのメディアに置いておくと、いつかそれがリターンとして跳ね返ってくる」と佐久間氏。今後のテレビの可能性について、「作るものの"強さ"と"濃さ"を諦めなかった人たちが勝っていくのではないかと思います」と語りました。
■面白いコンテンツは業界全体で発信・流通させることでもっと稼げる方向へ
この他にも、コンテンツ単体で勝負させるのではなく、素晴らしいコンテンツが生まれたときに、例えば韓国のエンタメ界のように国外にもキュレーションしていくなど、業界全体でより発信・流通させていくシステムがあってもよいのではないかとの話題になりました。「それぞれのクリエイターが創ったものを全体で流通させていく仕組み作りが必要ではないか」と佐久間氏。澤本氏も「ギャラクシー賞や広告のACCも、賞をもらったことが業界内だけではなく一般の方にも届いて、その価値が分かり、みんなが見るという形になったほうがいいと思うんです」と話すと、佐久間氏は「ギャラクシー賞を受賞した作品を改めて放送、配信する日、場所を設けるなど、埋もれるコンテンツをなくしていくことは、メディア、特にテレビが担う必要があり、一つのコンテンツがマルチで稼ぐ時代になった今は、面白いものは評価するだけでなく、もっと稼げる方向にもって行くべき」と結びました。
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