見えてきた「ラジオ」の拡がり【VR FORUM 2022 レポート】
[登壇者](右から)
株式会社エフエム東京 コンテンツビジネス本部 営業局 局次長 兼 営業第1部長 平岡 俊一氏
日本コカ・コーラ株式会社 マーケティング本部 NJDPカテゴリー クリエイティブストラテジスト 宮井 康太郎氏
株式会社ビデオリサーチ メディア企画グループ 伊藤 優喜
このセッションでは、ラジオの持つ力、価値について、広告主側、ラジオ局側からご登壇者をお招きし、ディスカッションしました。成功した出稿事例や取り組みを踏まえて考察するとともに、ビデオリサーチによるデータで明らかになった点などもご紹介。今後のラジオについても話題が展開されました。
■ラジオの持つ力を番組・メディア横断での企画でより効果的に活用した、拡がりのあるキャンペーンに
ラジオは、リスナーの熱量が高く、好意を持ってもらうことや商品利用意向を高めるといったポイントには、強い印象があります。しかし、実際の効果を測りづらいという点で、「扱いが難しいメディア」というのが現場の肌感となっているのではないでしょうか。そのようななか、広告主側はどのような判断で広告を出稿するのか、株式会社コカ・コーラの宮井氏に同社の「ミニッツメイド 朝バナナ ゼリー」のキャンペーン事例を通じて語っていただきました。
宮井氏によると、もともとはデジタル広告メインのキャンペーンでしたが、「デジタル広告以外での拡がりも作りたいという目的があった」とのこと。そのなかでラジオを選んだのは、広告の内容として「マンボNo.5」の替え歌が特徴的なクリエイティブであり、「音声」に訴求するラジオとの相性がよいと判断したため。「出稿先は、ターゲットであるビジネスパーソンがリスナーに多いという理由で、朝のワイド番組『ONE MORNING』になった」と経緯を説明します。
純広告出稿後、「ONE MORNING」のパーソナリティのユージ氏がCMを受けて、夕方のワイド番組「Skyrocket Company」のパーソナリティのマンボウやしろ氏に、「これマンボウさんが歌ったらいいんじゃない!?」と話題を振ると、マンボウ氏も「俺、"マンボ"じゃなくて"マンボウ"だよ!」と反応。このやりとりから、リスナーの期待が高まり、それを受けるようにコラボレーション企画がスタートしたそうです。
マンボウ氏が歌うラジオCMが展開されるとともに、連動したパロディー動画もTwitterで配信。放送局はもちろん、各番組やパーソナリティ本人のツイート・リツイートで拡散しました。それに呼応して、他番組のパーソナリティが動画に友情出演する、NGを集めたメイキング動画がアップされるなど、予想を超えた自走を見せました。「この一連の流れはリスナーからの反響も多く、Twitter上でも『本当に歌ってくれた!』とサプライズを喜ぶ声が上がっていた」と平岡氏。大きなムーブメントを生んだキャンペーンの推移が紹介されました。
なお、動画制作もエフエム東京が担当。「Twitter IVS」というTwitterで配信する動画広告のメニューは、制作費まで組み込まれた料金体系となっています。平岡氏は「制作費のコストメリットもありつつ、当社がコンテンツパートナーとして動画制作まで携わることで、ラジオの特徴を生かしたクリエイティブでの訴求ができる」とメリットを語ります。
このような番組を横断したコラボレーションが実現したのは、朝夕の通勤時に両方の番組を聴いているリスナーが多かったこと、番組同士が番宣し合うコミュニケーションが日常的に行われており、リスナーもそのコラボレーションを期待していたことが、素地としてあったためです。純広告CMから、パーソナリティが歌うCM、最後は踊っている動画の配信まで発展したことについて、平岡氏は「商品の宣伝広告というよりも、『商品をコミュニケーションツールとしたコンテンツ』として、リスナーに受け取ってもらう設計ができた」と振り返っています。最終的に、同キャンペーンは延べ8,000万人にリーチするという成果を上げました。
■ラジオは、リスナーとの「共創」メディア。相性の良いSNSを生かした、有機的な展開が重要
ラジオとソーシャルメディアを活用した施策として、平岡氏からは本田技研工業の事例も挙げられました。それは、全国ネットで放送された特別番組「GOOD GROOVE RADIO」の「全国同時撮影プロジェクト」。番組の生放送中に、全国のリスナーにドライブ中の様子や景色などを、交通ルールを守りつつ動画で撮影してもらうというリスナー参加型の企画でした。動画は番組のハッシュタグをつけてTwitterやInstagramに投稿してもらい、別々の場所を走りながら、同じ時間に同じものを聴いて走った記録を、最終的には1本のWEBムービーにまとめました。
参加募集ツイートは、350万インプレッションを獲得。本田技研工業の継続的なコアユーザーやオンラインユーザーとのコミュニケーションを深め、将来的なリード顧客の獲得を目指すという目的を達成しました。
リスナーを巻き込んだ施策を立てやすいのは、「ラジオが『共創』が前提のメディアのため」と平岡氏は指摘します。番組宛てのメッセージやリクエストに代表されるように、リスナーから提供される要素のコンテンツを占める割合が大きく、リスナーが一緒に番組をつくっているという意識が強いためです。
「このようなラジオの強みを生かしたいとき、ソーシャルメディアは相性が良い上に、重要だと感じる」と平岡氏。ラジオ広告とソーシャルメディアを連動し、施策を有機的に展開できれば、リスナーが商品やサービスについて能動的にキャッチしにいく、いわゆる 「プル型」のインバウンドマーケティングにまでステップを上げられるという見解を示しました。伊藤は「ラジオの強みや効果をブーストさせるという施策が、ソーシャルメディアとの相性もあって、まさに拡がった」とエフエム東京の取り組みや考え方に注目を寄せました。
■実感値だったラジオの効果が、データで明確に示せるように
ラジオの効果をデータとして検証する試みも進められています。平岡氏からは最新のサービスとして、2022年度から正式にリリースされた「購買効果検証パッケージ」について紹介されました。これは、音声広告の接触者、非接触者の購買率と、一般的な購買率とを比較してどのぐらい差が出たかを数値でレポートするサービスとのこと。同社のCustomer Data Platformを利用して、radikoの聴取データなどと購買データを掛け合わせて分析し、ラジオ広告の接触者が購買に至ったかどうかを検証できます。
たとえば、同社の番組「Skyrocket Company」にレギュラー出稿している桃屋の事例では、番組内で桃屋商品を活用したアレンジレシピをリスナーから募集・紹介しています。この検証結果では、番組のノンリスナーに比べて、リスナーによる購買率が大きくリフトアップしていることが明らかになりました。
このようにデータで検証できることについて、広告主側である宮井氏は、「キャンペーンの結果がある程度数値で見れないと、広告媒体として扱う難しさが出てくる。今後、媒体を選ぶ俎上にも上がらない可能性がある」と重視している姿勢を示します。また結果についても、リーチだけでなく、実際に購買に至ったかがわかるのは「とてもありがたい」と好意的でした。
これを受けて、伊藤は「効果を測るには、『到達』だけでなく、『態度変容の確認』も重要な評価指標になる」とビデオリサーチの視点で述べ、「態度変容の状況」を表したデータを紹介。購買に至るまでのファネルの段階に合わせてイメージワードを設定し、「メディアごとに、どのファネルに強みがあるのか」を一覧で示しました。
それをもとにすると、ミドルファネルの「自分に向いている」という要素については、ラジオは10%で、他のメディアと比べて最も高いこと。また、ボトムファネルである「その商品・サービスのイベントに行ってみたい」、「人にオススメしたい」が1位であるほか、トップファネルである「頭から離れない」、「いつも見聞きする」、「名前が刷り込まれる」も、テレビに次いで2位であることを紹介しました。
伊藤は、今回取り上げられた「ミニッツメイド 朝バナナ ゼリー」のキャンペーンを分析。「音声に特徴のあるクリエイティブ、朝=バナナという訴求が、『イメージが浮かぶ』『頭から離れない』『名前が刷り込まれる』といったトップファネルに関わっていること、さらに朝出勤しているビジネスパーソンにとって『自分向け』といったミドルファネルも含め、ラジオの媒体特性とマッチしていたのでは」と考えを述べました。
宮井氏は、「メディアの特性、強みを数値化して把握することは必要なアプローチ」としたうえで、今回のキャンペーンについては、パーソナリティ本人の訴求によってミドルファネルの「信頼できる」、Twitterの反響などからボトムファネルの「人にオススメしたい」にも効いているのではないかと推測。これを受けて平岡氏も、「さまざまな施策を講じて拡がりをもたせられたという実感が、このデータで明確になった。『共創』を得意とするラジオだから『推奨』につながる」とコメント。ラジオがもともと強いミドルファネルの部分だけでなく、ソーシャルメディアを有機的に組み合わせたことで、トップファネルやボトムファネルにも効かせられたのではないかと分析しました。
■ラジオをより効果的に活用する鍵は「拡げ方」と「力の可視化」
さらに「態度変容の状況」のデータを用いることで、推計広告効果を人数換算で示せることも伊藤から紹介されました。
「たとえば、KPIとして『オススメしてもらいたい』といった指標があった場合、項目『人にオススメしたい』の割合と『リーチ数』を掛け合わせると、Web広告よりリーチの少ないラジオ番組Aの方が、『推奨意向』の効果が高い結果になる」と伊藤。これを受けて宮井氏は「1インプレッションの価値はメディアごとに違う。それぞれの強みを比較して効果を算出できればプランニングの参考になり、簡易的な効果検証としても活用できるのではないか」と、活用に前向きな姿勢。平岡氏も「数値で可視化できるので、ラジオの強みや力を示すフォローの一つになる」と期待感を示しました。
セッションを通じて、さまざまな施策と組み合わせることで、ラジオは強みを発揮し、キャンペーンの効果を高めることがわかりました。また、その効果を可視化するデータ環境も整いつつあることも示されました。今後ラジオをより効果的に活用するには、この「拡げ方」と「力の可視化」が鍵になると言えそうです。それによって、「扱い方が難しいメディア」から、「より効果的に活用できるメディア」への変化が加速すると考えられます。 このほかにもコンテンツの制作力を生かしたオーディオコンテンツ事業など、ラジオ媒体を超えた新しいビジネスも。
今後のラジオの可能性の拡がりに注目です。
【本記事で紹介したサービス】
・サービス名:ビデオリサーチ「ACR/ex」内の自主調査
・調査時期:2019年12月
・対象地区:東京50km圏
・ターゲット:対象エリアに居住の男女12〜69歳
・サービス名:ビデオリサーチ「ラジオ365データ」
ラジオ全体の聴取をデイリーで365日推計・把握することができるデータ
・データ提供時期:2020年4月〜(関西圏・中京圏は2021年4月〜)
・データ提供地区:首都圏・関西圏・中京圏
*セッション内でご紹介した「メディア・エンゲージメント」について、参考記事をあわせてご紹介します。
・購買ファネル上のメディア・エンゲージメントからみた広告メディア別の役割
・「延べ接触人数」×「メディア・エンゲージメント」で広告効果を可視化する
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