動画配信サービスの"いま"と"これから"【VR FORUM 2022 レポート】
[登壇者](右から)
株式会社TVer 取締役COO 蜷川 新治郎 氏
DAZN Japan Investment合同会社 シニアバイスプレジデントコマーシャル 平田 正俊 氏
株式会社サイバーエージェント 常務執行役員 株式会社AbemaTV ビジネスディベロップメント本部 本部長 山田 陸 氏
株式会社ビデオリサーチ 統括・ソリューションユニットマネージャー 河辺 昌之
コロナ禍での生活者の行動変容やcTV、OTTといったデバイス・サービスの市場拡大により、動画視聴が大きく変化しています。このセッションでは、動画配信サービスを展開しているAbemaTV、DAZN、TVerの3社をお招きし、「動画配信サービスの"いま"と"これから"」と題し、動画プラットフォーマーが直面する課題と今後の展望について語りました。
■コロナ禍を経て、ウチ時間の充実、動画視聴の増加
最初のパートでは河辺が、当社のMCR/exデータから生活者の行動、とりわけメディア視聴環境の変化について解説しました。「コロナ禍を機にウチ時間の増加と、ソト時間の減少が顕著で、それにともないウチ時間の充実に向けたコンテンツ消費も増加。メディアの視聴環境も変化し、cTV の世帯普及率は9月末時点で65%※に達している」と説明します。テレビモニターの活用シーンでは、動画視聴が急増していることがわかり、サブスクリプションサービス導入のハードルも下がっています。2022年はワクチン接種が進み、再び気持ちがソトに向かい始めているものの、浸透した生活様式が定着傾向にあることを確認しました。
※ 関東地区視聴率調査パネル:2700世帯におけるデータ(2022年9月末時点)
■プラットフォーマーの「いま」と「これから」
続いて、登壇した動画配信プラットフォーマーそれぞれから、自社サービスのコンディション、特長、戦略などの「いま」について説明がなされました。
▶ リアルタイム配信やTVer IDなどサービスと機能拡充「TVer」
民放テレビ局が運営するキャッチアップサービスTVerは再生数、UB数ともに右肩上がりで成長し、動画再生数は2年で約2.8倍に伸長。スマートデバイスでの再生が全体の約65%を占めますが、直近ではテレビデバイスが大幅に伸び、週次の再生数に占めるcTVの割合は約30%にまで上昇しています。蜷川氏は「TVerの特徴はコンテンツの完再生率、CMの完視聴率の高さである。また『あとでみる』『シリーズお気に入り』『TVer ID』といった施策を展開し、ユーザーの定着を進めている」と話します。
▶ 観たくなる体験を創る、観れる環境を創る「ABEMA」
ABEMAは、テレビの良さをインターネットで活かす「新しい未来のテレビ」へというポリシーの下、格闘技、スポーツ中心に、多くのデバイスで場所に囚われることなく楽しめるサービスを掲げています。山田氏は「開局6年3ヵ月で8,100万ダウンロードを突破した。とりわけ『THE MATCH 2022(那須川天心-武尊戦)』はPPV(都度課金)の視聴チケット販売数が50万を超え、国内歴代1位を獲得した」として「PPV市場開拓の可能性を感じさせるような反響が得られた」といいます。
▶プレミアムなスポーツモーメントを提供し、エンゲージメント向上を図る「DAZN」
DAZNは、スポーツに特化した世界最大級のOTTスポーツストリーミングサービスです。平田氏はcTV経由での視聴が40%を超えていることにも言及。そのうえで「プレミアムなスポーツコンテンツの配信、最適な視聴環境の提供にとどまらず、オフプラットフォームではSNSチャンネルやパートナーメディアを活用して、より幅広い層へコンテンツを訴求している」とスポーツファン全体への波及効果まで含めたマーケティング基盤の活用について紹介しました。
■すべての境界線が曖昧になり、競争が激化する市場
cTVの普及は、放送と配信、テレビとPC/スマートフォンといったデバイスの境界を曖昧にしていくとともに、AVOD/SVODといったビジネスモデルの境界線も薄れさせています。河辺は「動画市場全体でコンテンツによる差別化競争の激化が起き始めている」と話し、それぞれの考えを共有しました。
境界線が曖昧になっていくことに対して蜷川氏は「テレビでしか見られないものをつくるのではなく、とにかくユーザーの手に取りやすいところにコンテンツを置くということが重要」と話します。また、動画広告の価値基準そのものが曖昧になってきていることに対して山田氏は「広告配信のレポートが今までより細かくデータで見られるがゆえに、表面的なデータのみにとらわれたプランニングが横行しているように感じる」と話し、どの面でCMが流れるのか、隣接しているCMは何かといった面の価値を、業界として見直したいとの見解を示しました。
これに対して河辺も「デジタル広告において安価な広告取引が浸透したことで単価ありきの価値判断から抜け出せなくなっているのではないか。業界の共通課題として、インストリーム広告の価値証明に取り組んでいかなければならない」と呼応しました。
■安心安全プラットフォームの価値とは
続いてディスカッションのパートでは、プレミアムな「安心安全プラットフォームの価値」と、そこでの広告の価値について議論しました。「事前に用意いただいたキーワードは表現こそ違え、近しいものが並んでいる」と河辺。
山田氏は「共通しているのはブランドセーフにつながるものだと思うが、悩ましいのはこれを定量化しづらいこと」と投げかけ、蜷川氏は「リーチや獲得クリック数といった数値だけでなく、広告主の伝えたいメッセージに寄り添ったコンテンツづくりや広告出稿ができる強みを示すことが何より大切」と応じます。平田氏も「コンテンツとともにシームレスに広告に接触することが、ブランドリフトにもつながっていくと思う。クライアント同士の並びも私たちはしっかりと見ている」と山田氏と共通の認識を示します。山田氏は「どういうクリエイティブ、どういう企業が隣に入っているか、あるいは同じクリエイティブを出しすぎないこと、面の価値が低いところに出さないことが大事」だと話し、プラットフォーマーが業界の新しいルールをつくっていくべきと今後の環境づくりにも言及しました。
■ブランドセーフティであることの視点
河辺は、ここで一旦議論を整理し、「安心安全プラットフォームの価値は、まずブランドセーフであること。家族と一緒に見る(共視聴)ようなリビングの大画面でも安心して流すことができる品質を担保することが視聴者への安心安全につながる。また、広告の観点で言えば、ビューアビリティが確保され、スキップできないといった点が広告主にとっても安心安全に利用できるポイント。加えて、広告挿入タイミングもコンテンツの視聴体験を損なわない配慮がされ、さらにはSNS連携やファンコミュニティの形成といった『同時性』や『話題性』をエンゲージメント向上につなげ、視聴体験をより高めるための仕組みが用意されていることも重要」とまとめました。
■「補完性」「専念性」「話題性」
また、ユーザー価値として若年層やテレビをあまり見ない層へのアプローチ「補完性」も価値になること、「目的視聴」「専念視聴」を背景に本編だけでなく広告自体の完視聴率が高いことも重要との認識を示しました。cTVとの親和性という点では、家族と一緒に配信コンテンツを楽しむCo-Viewingといった見られ方も増えていく中で、共視聴時の家族間・コミュニティ内での盛り上がりによって「話題性」も高まります。
「こうしたユーザー価値と視聴態度の価値が掛け合わされることで、高い広告効果が期待できる。さらに、専念視聴によって認知されやすく、ファネルの段階別に訴求するコンテンツを制作することで、インフルエンスファネル、さらには拡散波及効果も狙える、といった価値構造になっていることがわかる」(河辺)。
「補完性」の実例として、在京5局がこの春から開始したリアルタイム配信に関する視聴動向レポートを紹介しました。対象となった番組においてリアルタイム配信のみで見た視聴者の約半数がM1(男性20〜34歳)、F1(女性20〜34歳)で占められていたこと、その彼らのサービス開始前のテレビの視聴状況をみると、8割弱がテレビライト層やノン層だったことを解説しました。この点について蜷川氏は「ドラマやスポーツの試合のように結末がわかると楽しみが半減するものは、やはりリアルタイムで見たいのだなと。そして、若者にとってはTwitterやLINEで意見を交換しつつ見ることも一種の共視聴として、盛んだとわかった」との見解を示しました。
いつでも、どこでも、というニーズが強くなり、それが若い層のサービスの利用の仕方にも表れているといいます。
また、「専念性」については、食品メーカーA 社のキャンペーン事例を紹介しました。通常のTVCMとTVer 広告のデバイス別広告認知率を比べたところ、同じフォーマット、同じ視聴環境であっても、専念視聴、目的視聴 の多いcTV 接触の広告認知率が高く、" ながら" 視聴が 多少含まれるTVCM に比べ効果が高いと考えられます。この結果について平田氏は「以前は、メディアが視聴者 を動かしていたのに対し、能動的な視聴をし、視聴者がコンテンツを選ぶ時代へと大きく変化したことが、この結果に表れている」といいます。
「話題性」では、ABEMAの「THE MATCH(那須川天心-武尊戦)」(PPV)のcTV経由視聴を当社のPM視聴率サンプルで計測した結果を紹介。サンプリングデータから推計される到達人数をPPV契約数で割ることで、cTV単体の平均到達人数が2人以上であったことがわかります。河辺は「こういった家族内での共視聴、熱狂・共感といったCo-Viewingの価値も今後cTV普及にともなって重要になると思う」とCo-Viewingについて言及しました。
■共視聴の価値を測定することが課題
この共視聴の価値を測るとき、テレビの前に何人いようと視聴ログ上は1imp、1viewとカウントされてしまうという課題があります。今後cTV経由の広告価値を示すためには、デバイス側のログだけでなく、そのデバイスと向き合っていた人が何人いたのかをカウントする必要があるという視点について、平田氏は「ライブは大画面で、家族や友達と一緒に見ることが重要だと考えており、1impの価値をつかめるようにしてもらいたい」と課題をなげました。
「この家族共視聴は、新たなファンの獲得・育成といった効果も期待できる」と河辺。例えばTBSと電通によるブランドリフト調査で、接触デバイス別に「その商品について家族と話題にしたかどうか」を聞いたところ、テレビとcTVで広告接触した人はPC/スマホ接触者に比べて話題にした比率が高くなっています。複数人で見ることが多いテレビデバイスは誰かと一緒に見て、会話することで、より興味喚起を促すことがうかがえます。
■動画配信サービス市場の可能性をともに
安心安全プラットフォームは、「良質なユーザー×良好な視聴態度」がすぐれた広告効果を生み出すことが期待される一方、リーチだけでは測れない媒体価値の証明が課題となっていることも確認されました。
特にcTVの普及拡大とともに動画配信サービスの対象が「個」から「Co-」へ拡がって、1impの裏に潜んでいる周辺ターゲットの視聴には、共感もしくはバイラル効果といったミドルファネル以降、インフルエンスファネルも含めた広告効果が含まれるようになりました。デバイスログでは分からない、調査パネルならではの「人」にフォーカスしたアプローチも必要です。河辺は「今後も、このログ×サンプリングデータを掛け合わせたアウトプットの可能性を皆さんと一緒に探りたいと考えている」と今後の展望を語りました。
最後に、動画配信プラットフォーマーの皆さんからのまとめの言葉を紹介。まず山田氏はキーワードに「メディアプランニングの重要性」と「cTV市場の急激な変化」を挙げ、cTVを捉えた人がマーケットを制すると考え、皆さんと市場を盛り上げていきたいと抱負を語りました。
「ビジネスの拡がりと深さ」と「データ精度の向上」を挙げた平田氏は、視聴者に対しても、広告主に対しても、スポーツを軸に様々なジャンルの取組みを届けることをミッションとし、市場をさらに広げていくうえで、データ精度をさらに向上してほしいという宿題を投げかけました。
蜷川氏は「テレビコンテンツならではの強み」「単純/明瞭な指標が必要」というキーワードで、この番組はこれだけ多くの人が見ているんだという、かつての視聴率のようなわかりやすい指標を追求していくべきと、それぞれの立場で、課題と展望を語りました。
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