広告主が実践する、消費者にメッセージを届けるためのメディアプランニング【VR FORUM 2022 レポート】
[登壇者](右から)
カンテサンス代表 日髙 由香子 氏
ネスレ日本株式会社 マーケティング&コミュニケーションズ本部 媒体統括部統括部長 野澤 英隆 氏
株式会社ビデオリサーチ 統括・ソリューションユニットビジネスソリューショングループマネージャー 鈴木 康啓
デジタル化やコロナ禍の影響を受け、生活者のメディア接点における多様化・分散化が加速しています。その中で、広告主はいま何を考え、メディアプランニングを行っているのでしょうか。広告主の視点から、メディアプランニングの現在地を捉え、今後の展望を描きます。
生活者とメディア接触のダイバーシティ
まず、生活者の変化に関して、鈴木は「多様化が進み、様々な年代の方が、様々なライフステージに存在している」として、年代別の人口分布や基本属性のデータを示しました。それによると、年齢の分布が幅広くなっていることの他に、男女双方の配偶者比率の低下、女性の就業率上昇をあげ、ライフステージの分散化を裏付ける結果を紹介。多様化により、広告主は生活者をマスで捉えづらくなり、より細かいペルソナやターゲット設定が必要になってきていると分析しました。
一方、生活者のメディア接触について「やはり、コロナ禍は大きく影響した」と鈴木は振り返ります。メディア接触に関する調査によると、「2020年に接触時間が急増し、接触時間シェアにおいても動画サービスの規模が拡大。2018〜2022年までの間で『YouTube』は69%から86%に、『TVer』は5%から21%に伸びている。デバイスも、従来のスマートフォンやタブレットから、テレビで視聴することも当たり前になってきた」と、メディア環境の変化を捉えました。
それらの背景には"生活時間の再配分"が深く関わっているといいます。2018年と2022年を比較すると、動画視聴は1日あたり約30分延び、インターネットやSNSの閲覧時間も増加。13〜34歳層に限っては、リアルタイムのテレビ視聴とデジタルの動画視聴の時間が半々くらいになっていると説明しました。
急激な変化が起こっている昨今、ゆくゆくは"テレビを見る"という習慣さえも変わってしまうのでしょうか。そんな懸念に対し、鈴木は「時代が移り変わっても、テレビ放送のパワーはお茶の間に変わらず残るはず」と話します。例として挙げたのは、東京五輪開会式の視聴率。1964年の視聴率(関東地区、世帯、NHK)61.2%に対し、2020東京五輪は56.4%(同)でした。「(約60年前の)数字とかなり近いところをみると、たくさんの人々が同じタイミングで、同じコンテンツを見るという価値は失われていない」と評価しました。
メディアプランニングの"いま"
とはいえ、生活者やメディアの多様化に伴ってメディアプランニングや広告活動は以前より複雑化し、課題も生まれています。今回は、その中でも重要な3点に絞って議論を進めました。
ネスレ日本株式会社のメディアプランニング
野澤氏は議論に先立ち、自社で導入している『コンタクトポイントプランニング』を紹介しました。全てのメディアを検討するという観点で、ブランドごとの最適プランを作成する方法であり、実践にあたっては、次の3つのポイントがあるといいます。
a.ターゲット消費者(Target Consumer Portrait)の設定
b.受容性(Receptivity)の検討
c.コミュニケーションの目的(Communication Objective)の設定
野澤氏は「個人的には、正確なターゲット消費者設定ができれば、コミュニケーション戦略立案の半分が完了したといえるのではないか」と付け加えました。目的の明確化やターゲット理解が重要であるという考えに、日髙氏も共通認識を示し「誰を対象にするのかはとても大事で、ターゲットを正しく理解できれば、コンタクトポイントは自ずと導き出される。どんなメディアを活用すればいいのかがわかりやすくなるし、対象者に合わせて効果的な配分を決めることも可能になる」と自身の経験から述べました。
また日髙氏は、特にReceptivityを「非常に重要なポイント」と位置づけ、過去に担当した『SK-Ⅱ』(P&Gジャパン)におけるReceptivityを捉えた広告戦略と、それを体現したクリエイティブの効果を披露。さらに「もう一つ付け加えるとしたら、目標達成のために十分な量のリーチが獲得できているかという"Sufficiency"も大切」と、真のゴールを見極めることの重要性を説きました。
メディアプランニングの"これから"
課題1 なるべくたくさんの人に届けたい=リーチ -- 若年層でデジタル動画は必須になっている
日髙氏は、消費財の場合は"人がたくさんいるところに広告を打つ"ことを徹底していたと語ります。その際、同じ枠に出稿を詰め込みすぎると、フリークエンシーが高くなってしまうことに注意を払ったといいます。
また「若者には、デジタルというコンテクストが必須」と、20〜34歳女性のデジタル動画の接触割合が37.9%にまで達しているというデータを紹介。いかにデジタル動画を組み合わせるか、つまりテレビとデジタルへの適切な予算の振り分けや、効果的なプランの立案に取り組む必要があるが、ここで問題となるのが、テレビとデジタルを串刺しにして分析することがなかなかできないということを指摘しました。この問題解決のため急務とされるのが、テレビとデジタルの統合指標の開発です。
鈴木は「ビデオリサーチにもテレビとデジタルそれぞれの指標は既にあり、それらの統合は重要な課題として捉えている。リーチとフリークエンシーは、プランを立てるにあたってベースとなるデータであり、ここをきちんと整理しないと、出稿側は安心して予算配分ができないと認識している」と当社の考えを述べました。統合リーチに関する具体的な取り組みのひとつとして、当フォーラムのkeynoteに登壇されたグーグル合同会社の奥山氏からも紹介いただいた『クロスメディアリーチレポート※』に触れました。
※Cross Media Reach Report:TV × YouTube広告リーチサービス。テレビCMとYouTube動画広告のリーチ(+FQ、延べ接触人数等)を提供する。なおVRフォーラムkeynote『メディア環境変化に対応したクロスメディア広告効果測定標準化への期待』は、VRD+で詳しく紹介しています。
『メディア環境変化に対応したクロスメディア広告効果測定標準化への期待』はこちらから。
課題2 ターゲットに効率よく届けたい=ターゲット獲得効率 -- テレビにおける詳細なターゲティングデータが必要
2つめの課題に対しては、野澤氏が自社の豊富な商品を例に、CMにおける解決策を探りました。「ターゲット消費者層が広い場合はマス広告も含めてコンタクトポイントプランニングを行い、限定的な場合は主にデジタルを活用してピンポイントでメッセージを送るといった戦略をとっている。リターゲティングを行うことによって、各パネルからの脱落者を最小限に抑えることができる」。
もしデジタルだけではなく、テレビ広告においても細かいターゲティングができれば、マスマーケティングファネルの効率性が上がるほか、セグメントマーケティングにおける認知度の拡大も期待されます。
そこで鈴木は、テレビ広告の展望について、放送局の新たなテレビ広告のセールス『Smart Ad Sales』に対応した広告枠の検索・分析サービス『枠ファインダ』を取り上げました。
「枠ファインダは、テレビでも詳細なターゲティングを行い、効果的な枠の購入に繋げたいという広告主の声から誕生したサービス。サービス開始以降、参加局は2022年12月現在10エリア29局に拡大し、利用者数も市場も伸びている。デジタル広告だけでなく、テレビCMを効率的に活用する流れは今後も増えていく」との考えを示しました。
課題3 良好な視聴体験を与えたい=1viewの効果の最大化 -- 安心・安全なデジタルメディアの基盤づくり
3つめの課題について、野澤氏はAd Verificationという考え方を紹介しました。安心・安全なデジタルメディアへ出稿することで消費者とブランドを守るというもので、『Viewability』『Ad Fraud』『Brand Safety』の3つの観点でデジタルメディアを選定すべきとしています。Viewabilityは、広告が実際にどの程度見られているのかということ。Ad Fraudは不正なインプレッションの排除。Brand Safetyは、ブランドイメージを守る安全性をきちんと確認することを指します。「これらの点に留意し、適切なサイトに広告を載せることで、自社ブランド、そして広告を見ていただく消費者を守ることに繋がる」と明言します。
ネスレ日本株式会社は国内において、他社に先駆けてAd Verificationに着目し、推進してきたという背景があります。重要な概念とはいえ、全ての企業が完璧にこなすのは難しい現状において、注力すべきポイントはあるのでしょうか。
「当社では6つの観点でアプローチしているが、特にAd FraudとBrand Safetyから始めていただくのがよいと考えている」と野澤氏。それに加えて、自身が委員を務めるJICDAQ(一般社団法人デジタル広告品質認証機構)を紹介しました。「デジタル広告全体の品質向上のため、私たちのような広告主も含め、ぜひ多くの企業に参加いただけると嬉しい」と、安心・安全なデジタル広告に期待を込めました。
きちんと見てもらえるCMの重要性
日髙氏は、Viewabilityに関して見解を述べました。同じ1GRPでも"ながら見"しているのか、真剣に視聴しているのかという態度変容による効果の差に問題意識を感じていたというもので、興味深い例として、CM視聴率を100としたとき、テレビの前にいた方が23%だった一方、3秒以上見ていたのは11%、1秒だけ見ていたのは8%。最初から最後までしっかり見たのは、なんと2%だけという結果を紹介。「これはショッキングだったし、注視率を上げなければ、どれだけ一生懸命つくったクリエイティブも見ていただけないと痛感した」といいます。
日髙氏は対策として"注視度"に着目し、REVISIO株式会社が開発している技術に期待を寄せます。それは、一般家庭のテレビに設置した人体認識センサーを用いて、テレビの前に誰がいて、どんな状態なのかを記録する方法です。なお注視度を上げる根本的な方法として、注視度が高い番組の選定と、クリエイティブの質向上が必要だと日髙氏は続けます。
「消費者にとっての広告は、メーカーが自己アピールするために作成したものという印象になりがち」で、それを避けるため、番組連動型のインフォマーシャルを実践しているといいます。
野澤氏も、地域密着型のインフォマーシャルを作成した時、コンテンツの迫力を実感したと共感しました。「地域に暮らす方々に"私たちのために作られた広告だ"と感じていただき、Receptivityに貢献できる」と鈴木も頷きました。
より良いコミュニケーションのため、メディアプランニングを磨き続ける
議論の最後は、メディア関係者や広告会社、広告主の方々へ向けてのメッセージで締めくくられました。
野澤氏からは「適切なConsumer Experience Mapにおいて、メディアの使い方を構築するのが、私たちの仕事の目的。テレビだけ、デジタルだけという認識の偏りを取り払い、新しいメディアや手法を積極的に用いることで、コンシューマー・ジャーニーをより良いものにできる」とコメントしました。
日髙氏からは「広告は、量とクオリティ、両方が相まって、効果が跳ね上がっていくもの。データには、効果を可視化し、具体的なプランを立てるパワーがある。メディアプランニングは、ビジネス戦略を反映するものなので、企業としての戦略をどうやって達成するかを意識しながら、伴走していただけたら」と期待を述べました。
両者のメッセージに対して鈴木は、「感覚的な部分を指標化することは難しいと改めて感じながらも、野澤さんからお話しいただいたターゲット理解やReceptivity、日髙さんのメディアプランニングとビジネス戦略との密接な関係など、どれも大変興味深い。生活者とメディアが変化を続ける中で、我々は何をすべきか、広告主の皆さまと一緒に何ができるのかを今後も考え続け、より良いコミュニケーション活動のために、これからも頑張っていきたい」と締めくくりました。
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