連載特別企画第二弾 新視聴率のスタートで変わること〜タイムシフト測定でわかること〜
2020年4月の新視聴率開始に向けて「新視聴率のスタートで変わること。」をお伝えする本連載。前号は、全地区「52週化・PM化」になることで、番組を「毎日」「世帯・個人の両データ」が捉えられること、番組制作、編成上においてPDCAが迅速に行えるようになることをお伝えしました。
2回目のテーマは、新視聴率の一端を成す「全地区でのタイムシフト測定開始」です。タイムシフトまで範囲を拡げて視聴者の行動を把握することで、リアルタイム視聴率だけではわからなかった潜在的な視聴者を捉えることができます。さらに、タイムシフト行動データを継続的に確認していくことで、生活者のテレビ視聴行動の全体を可視化できることも特長です。今回は、タイムシフト視聴の実態と、タイムシフト視聴率をどのような視点で捉えていくのか、活用方法を交えてお伝えします。
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タイムシフト視聴の実態
関東、関西、名古屋の3地区は先んじてタイムシフト視聴測定がされています。そのデータから明らかになっている視聴実態を「リアルタイム視聴・タイムシフト視聴の割合」「タイムシフト視聴される時間帯」「タイムシフト視聴番組ジャンルの傾向」という3つの観点からみていきます。
視聴行動の割合
リアルタイムとタイムシフトの視聴時間割合は9:1
1日あたりのリアルタイム・タイムシフト視聴分数を並べてみると、世帯では総視聴分数540分余りのうち、リアルタイムが500分弱、タイムシフトが50分弱とおおよそ9:1の割合です【図表1】。
テレビの総視聴分数が変動してもこの割合は大きく変わらないことから、テレビのパワーを語る上でタイムシフト視聴データは欠かすことのできないものであるといえます。
特性ごとでは視聴分数のばらつきが大きく、1日のタイムシフト視聴分数が30分以上と長いのは女性35〜49才、女性50才以上の女性層です。一方、男女13〜19才や男性20〜34才においては1日あたり10分程度と、リアルタイム視聴同様に短時間にとどまっています。
リアルタイム・タイムシフト視聴分数を1日あたりのシェアにすると、男女4〜12才におけるタイムシフト視聴のシェアが15.2%と最も大きく、子供のテレビ視聴形態としてタイムシフトが存在感を示していることがわかります。
タイムシフト視聴される時間帯
平日の夜と土日はリアルタイム視聴と重複
リアルタイムとタイムシフトでは、視聴時間帯に違いがあるのでしょうか。HUT(総世帯視聴率)とタイムシフト行動率(世帯)を曜日・時間帯ごとに示したヒートマップ【図表2】で比較してみると、HUTは平日7時〜8時台、19時〜22時台と土日に高くなっているのに対し、タイムシフト行動率は平日20時〜23時台と土日に高く、平日朝の時間帯を除いてはリアルタイム視聴とタイムシフト視聴がされやすい時間帯はおおよそ共通していることがわかります。
番組ジャンル別視聴分数割合
エリア、特性によってタイムシフトで見る番組ジャンルの傾向が異なる
ここまでタイムシフト視聴の時間量、時間帯をみてきましたが、今度は番組ジャンルにフォーカスします【図表3】。タイムシフト視聴される番組ジャンルはエリアや特性によってどのように異なるのでしょうか。
【画像クリックで拡大】
関東地区で2019年7月クールにタイムシフト視聴された番組の延べ視聴分数の割合を特性別にみてみると、世帯・男性50才以上・女性各層では「ドラマ」が4割〜5割近くを占めるのに対し、男女4〜12才では「アニメ」が3割、男性20〜34才、35〜49才では「バラエティ」が4割以上と、タイムシフト視聴される番組のジャンルは特性によって違いがみられます。
さらに、エリアによる違いにも目を向けてみましょう。
関西地区では、男性20〜34才、50才以上、女性20〜34才で「バラエティ」の占める割合が他地区より高く、特に男性20〜34才においては、タイムシフト視聴の実に半数を占めます。女性20〜34才でも「バラエティ」が「ドラマ」を大きく上回り、「バラエティ」<「ドラマ」の関東、名古屋両地区と比べても明らかに傾向が異なります。また、名古屋地区では、男女13〜19才、男性20〜34才で「アニメ」の割合が高くなっています。このように、同じ特性でもエリアによってタイムシフト視聴される番組ジャンルは微妙に異なることがわかります。
番組の個性を捉える
ここからは、具体的にどのような番組がタイムシフト視聴されているのか、タイムシフトデータを番組分析に活かすとどのようなことがわかるのかなど、番組視聴の実態をみていきます。
リアルタイム視聴型とタイムシフト視聴型、それぞれの番組パワーを横並びでみることが可能
2019年4〜9月のリアルタイム視聴率とタイムシフト視聴率それぞれ上位15番組を比較してみましょう【図表4】。
リアルタイム視聴率の上位には、「24時間テレビ」のほか、「大相撲」「ラグビーワールドカップ」といったスポーツ中継やニュース、バラエティが並ぶのに対し、タイムシフト視聴率では15番組すべてをドラマが占めており、上位番組の顔ぶれは大きく異なります。
また、リアルタイム視聴率上位番組のタイムシフト視聴率はそのほとんどが1%未満にとどまりますが、タイムシフト視聴率上位番組はリアルタイム視聴率でも10%前後を獲得しており、リアルタイムとタイムシフトのいずれかを視聴した総合視聴率ではどちらの上位番組も20%前後の数字となっています。
このことから、リアルタイムで見られやすい番組がある一方で、タイムシフトで見られやすい番組もあり、それぞれ異なった番組パワーを持っていることがわかります。
タイムシフト視聴からリアルタイム視聴に回帰することもある
タイムシフトデータを活用した番組分析の事例として、2019年4月クールから2クールにわたって放送されたドラマ『あなたの番です』(日本テレビ)を取り上げてみます。
まず、リアルタイム視聴率とタイムシフト視聴率の推移をみてみましょう【図表5】。
第1クールの8話までは、リアルタイム視聴率、タイムシフト視聴率とも大きく上下することなく推移しましたが、そこから第1クール最終回に向けてリアルタイム視聴率が一段と高くなり、それは『特別編』でも維持しています。そして第二クールに入ると、話が進むにつれリアルタイム視聴率が右肩上がりに上昇しますが、その中でも3話、8話ではリアルタイムがぐっと上がり、逆にタイムシフトが下がっているのがわかります。このスコアの動きは、前話までタイムシフト視聴していた層がこの回でリアルタイムに移行(回帰)していることを示しています。
そして、この時リアルタイムに回帰した層が、以降のリアルタイム視聴率のかさ上げに一定程度貢献していることがうかがえます。さらに最終回ではリアルタイム視聴率が大きく伸びていますが、タイムシフト視聴率も同様に上昇しており、それまでタイムシフト視聴していた層がリアルタイムに回帰しただけでなく、最終回で多くの新規視聴者や途中離脱者をも獲得したことがわかります。
ドラマのように内容が毎週継続していくコンテンツでは、タイムシフト視聴からリアルタイム視聴への回帰という視聴行動がしばしばみられるのです。
リアルタイムとタイムシフトでは視聴者特性が異なることも
次に、『あなたの番です』のリアルタイムとタイムシフトでの視聴者構成割合を比較してみます【図表6】。
リアルタイム、タイムシフトともに女性35〜49才、50才以上で5割近くを占め、女性中心に視聴されたことがわかります。その一方で、タイムシフトではリアルタイムに比べ男性の割合が下がり、男女4〜12才、女性20〜34才の割合が高くなります。日曜22時30分〜という放送時間帯にはリアルタイム視聴しづらい母子が、タイムシフト視聴している様子がうかがえます。このように、同じ番組であっても、リアルタイムとタイムシフトでは異なる特性に視聴されている場合があり、タイムシフトデータもあわせて確認することでより正確な番組視聴者を捉えることが可能となります。
今回は新視聴率計画のうち「タイムシフト測定」にスポットを当てましたが、特性や番組ジャンル、そしてエリアによっても、リアルタイム・タイムシフト視聴行動にそれぞれの特徴があることを理解していただけたのではないでしょうか。タイムシフト測定により、これまでわからなかった番組の個性や潜在的な視聴者の存在を確認できるようになります。それは結果としてテレビのメディアとしてのパワーを正確に捉えることにもつながり、放送局をはじめテレビに関わる事業者全体にとって有益な情報になり得ると当社では考えています。
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