【VR FORUM2020】Session2-a 複雑化社会のテレビビジネスについて考える。 〜 進化するテレビデータで、テレビの真価を表す 〜
▲[ 登壇者 ](左から) 日本テレビ放送網株式会社 取締役 執行役員 営業担当 データマネジメント室長 黒崎 太郎 氏/
株式会社博報堂DYメディアパートナーズ 執行役員 デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社 取締役 一般社団法人日本インタラクティブ広告協会 理事 山田 覚 氏/
ビデオリサーチ 営業局 営業企画部長 河辺 昌之
複雑化社会における生活者の変化を、放送局ならびに広告会社はどのように捉えているのか、また、その際に必要なメディアパワーの示し方は、どうあるべきなのか、テレビビジネスやデータ活用のこれからについて考えました。
コロナ禍におけるテレビのコンディションは?
Session1のキーワードで「分散」と「回帰」 を挙げたように、テレビにおいても、外出自粛期間中、家族で一緒にテレビを見るという習慣に「回帰」した例もあれば、在宅しながらタイムシフトやキャッチアップで個人視聴するという「分散」のケースが見受けられました。
このことに触れて、山田氏は「地上波の視聴率が非常に上がったことは、自分たちにとっては嬉しいこと。それがテレビの力ということだと思う」とした上で「いろいろ見るものが増えたという意味では、クリエイティブをどんどん作っていくわが社にとっては良いこと。積極的にこのコロナを捉えて、前向きにいこうという気持ちがある」と、ポジティブな受け止め方を示しました。
一方で、黒崎氏からは「緊急事態宣言下は PUT(総個人視聴率)もアップしたものの、現状は落ち着いてきた」として、2020年10月から日本テレビがプライム帯を中心にTVer上で30番組にわたって地上波同時配信を行っていることに触れながら、「分散化したり複雑化というところに、できるだけテレビ局としても応えられるように試みている」と語りました。
2020年4月からスタートした「新視聴率調査」により全国でどの番組をどれだけの人が見ているのか、具体的な人数で表現できるように なっています。
例えば、2020年4月クールの日本テレビのバラエティ番組「世界の果てまでイッテQ!」では、日本全国で実に7500万人もの人々に番組がリーチしていることが可視化されるようになりました。
黒崎氏は、「世帯視聴率を個人視聴率に切り替えた当初は、表記上の数字がこれまでの3分 の2ほどの値となったため、不安の声もあった」 が、「今はもう、みんなが個人視聴率の指標で効果を分析することに違和感がなくなってきた」と述べました。
広告主が望む"使いやすいテレビ広告"とは?
日本アドバタイザーズ協会電波委員長の小出誠氏はVTR 出演で、「デジタルに比較して、テレビは若干過小評価されているのではないか」として、「個人視聴率をオールに直すと、 500〜600GRPレベルでも6億回ぐらい全国のテレビ画面で、動画のCMが流れているというほどのボリューム感がある」ことや、「ブランドセーフティやビューアビリティの面におい ても、テレビは安定している」とし、「その点をテレビ局側からもアピールすれば、広告主の宣伝部門などは社内説得がしやすくなるのでは ないか」とポジティブな側面を強調しました。
一方、「使いやすさの点では、長い間なかなか改善されてこなかったのではないか」と苦言を呈し、「今やデジタル広告では『6秒動画』もある。発注のリードタイムや予算規模、『秒』という単位も含めたフォーマットの自由度をふくめ、テレビ広告がいかに使いやすくなるか」や 「素材の入れ替えのタイミングや考査についても、更なる改善が必要」としました。
また、アド・エクスペリエンス(広告体験)という観点で、「『CMまたぎ』について、『もう少し何とかならないのか』という声が各方面から聞かれることを示し、広告主のCMを好意的に見てもらえるかどうかという視点で、検証したらよいのではないか」との意見を挙げました。
データを活用した新しいテレビ広告の取引きがスタート
同じくVTR 出演の元電通イージス・ネットワークCIOの Andy Donchin氏は、アメリカでは「データがテレビ広告の価値を高めている」 とし、「テレビ広告を出している時と、そうでな い時では、WEBで検索される回数が違うのが統計を見ても明らか」であり、「これはテレビ広告の有用性の証拠である」と結論付けました。
日本でも、データを駆使した新しいテレビ広告セールスの取り組みが始まっています。日本テレビで始まった「Smart Ad Sales」は、データに基づいたプランニングを行い、スポットCM枠を指定した時間で1本から購入できるようになっています。
この仕組みのバックエンドでは、当社が開発した「枠ファインダ」というツールが動いており、当社をはじめ様ざまな会社の提供する視聴データを横断することで、性・年代以外の多様な切り口から、客観性、透明性の高いプランニングが行えるようになっています。
また、山田氏は、自社とGunosyの協業によるツール「Guhack」で、デジタル広告同様に高速なPDCAサイクルをテレビ広告の世界にも持ち込み、DX化したことを紹介しました。また、自社が保有する生活者DMPとテレビの視聴デー タを連携させた「AtmaDataDrivenTVSpot」 では、当社の提供するパネルデータに加え、コネクティッドテレビをはじめとする実数データを材料に、サイト来訪者やリーチ効率など、クライアントのKPIに直結するターゲット設定をより効率的に行えるようになった」とした上で 「商品やサービスによって、ゴールデンタイムが変わる」と述べました。
テレビのメディアパワーは圧倒的な力を持っていますが、同時に、偏った情報による "偏見"も払拭しなければなりません。米国の事例にもあったように、広告主に対して、テレビメディアのリブランティングは必須となっていくでしょう。そのためには、サンプリング データと実数データを駆使し、届けたいター ゲットや示すべき効果に応じて、最適なプランニングが行える環境が求められています。
新視聴率、その先へ
当社は2019年6月、実数ログを有効活用するための会社「Resolving LAB(リゾルビング・ラボ)」※を設立しました。国内の主要テレビメーカーから500万台規模にのぼる視聴ログの提供を受け、これまでのPM視聴率に準拠した個人視聴ログを生成し、コミュニケーション活動の最適化を支援するとともに、パネルデータ「ACR/ ex」に基づいたプロフィールの推計付与を通じて、よりクライアントのKPIに近いターゲット分析を可能にする取り組みを進めていきます。
500万台分の実数データを個人視聴に分離することができれば、およそ1300万人規模の「顔のわかる個人視聴ログ」を分析できるようになります。パネルデータとの連携が可能に なれば、たとえば「輸入車を買いたい人の視聴率(視聴ログ)」といったように、戦略ターゲッ トに基づいた分析も可能となり、これまで視聴率調査では細分化が難しかった領域に関しても、さらなるターゲット補完として、より深い視聴者インサイトを得られるようになるのではないかと考えています。
変わるべきこと、変えずに続けていくべきこと
最後に山田氏は「いま得意先が求めているのは、テレビを使おうがデジタルを使おうが『一番いいパフォーマンス出してくれ』ということ。常に同じ土俵に乗るためにも、DXは必要」 としながらも、「ビューアビリティやブランドセーフティの部分に関しては、絶対に変えてはいけない」。
黒崎氏も、「メディアパワーの可視化、数値化ということをきちんとしていく。山田氏の挙げた高速PDCA のように、クライアント側が動いていることに対して、われわれも追いついていけるように、いろいろルールを変えたり、臨機応変に応じていかなければいけない」と締めくくりました。
私たちビデオリサーチも、これまで視聴率調査で培ってきたノウハウを活かし、「第三者企業」としての立場も含めながら、今後のテレビ業界全体に貢献していきたい、それが使命だと考えています。
※「Resolving LAB」に関する詳細はこちらをご覧ください。
「VR FORUM 2020」のレポート記事一覧
■基調講演:DXで繋がる消費者・メディア・コンテンツの未来 「オーディエンスジャーニー」の考え方を提唱
■Keynote.2 アメリカの最新メディア事情 〜 日本のメディアビジネス再編の糸口を探る 〜
■Session1 生活者データから予想される複雑化社会への視座と、メディアの価値の示し方 〜 複雑化社会におけるメディアの価値 〜
■Session2-a 複雑化社会のテレビビジネスについて考える。 〜 進化するテレビデータで、テレビの真価を表す 〜
■Session2-b ポストCookie時代における、データマーケティングの展望 〜 "人単位"のデータの重要性、業界全体で取り組む必要性 〜
■Session2-c 個人最適を"超える"、コンテンツメディアの新たな活用 〜 雑誌、ラジオの価値は"コミュニティ"そのもの 〜
■Session3 メディアの新しい価値創造に向けたビデオリサーチの取り組み コンテンツの視聴を 個人起点であまねく測ること