プライベートDMPとの連携によるCRMの高度化(データ連携と解析)

WOWOW × Video Research(左から)ビデオリサーチ 鈴木康啓氏  株式会社WOWOW菊地将弘氏
(左から)ビデオリサーチ 鈴木康啓氏  株式会社WOWOW菊地将弘氏

民放衛星放送局の先駆けである株式会社WOWOWは、テニスや映画、音楽など、さまざまなコンテンツを通じてファンを獲得してきました。しかし、同社カスタマーリレーション部の菊地さんは、各顧客の熱量を把握して適切なコミュニケーションを取っていくためには、さまざまな課題があったと語ります。
顧客の熱量によって、届けるべきサービスは変わる。"今"にふさわしいサービスを提供することで、さらに熱量が向上していく─。そんな"好循環"を生むための戦略とは。
WOWOWのプライベートDMP(データマネジメントプラットフォーム)と、ビデオリサーチのデータ・分析との掛け合わせによって実現されたこと、今後への期待について、マーケティング局カスタマーリレーション部の菊地氏にお話を伺いました。

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株式会社WOWOW菊地将弘氏

顧客を的確にマネジメントし、熱量を高めるマーケティングを志す

─まずは業務内容とご経歴についてお聞かせください。

WOWOWのマーケティング活動は、大きく分けて「新規のお客様の開拓」と、「ご加入後のケアや放送に付随するCRM(カスタマーリレーションシップマネージメント=顧客関係管理)」、2つの領域があります。私は現在、カスタマーリレーション部に所属しています。
入社後の配属は映画部でした。ディストリビューターとして放送権の調達を担う部門です。私は、海外ドラマの吹き替え版制作、それに付随するプロモーション企画、番宣番組の制作などを主に行っていました。4年目からカスタマーリレーション部に移り、現在に至るまでの間に一度デジタルマーケティング部という新設の部門に異動しましたが、一貫してCRMの分野を担当しています。

─カスタマーリレーション部では顧客管理やアフターケア、サービスの提供等を行っているとのことでしたが、具体的な内容を教えていただけますか。

簡潔にいいますと、プログラムガイド誌の送付やコールセンター等のサポート領域、そしてお客様にWOWOWをもっと楽しんでいただくためのモノやコト(体験)を提供しています。
最近では関与度の高いお客様に対して、コンテンツに付随する「お金を払ってでも参加したい」と思えるようなサービスづくりに注力しています。グループ会社のWOWOWコミュニケーションズと連携し、 旅行サービス(WOWOW トラベル)等の新規サービスの開発に取り組んでいます。また、ショッピングサイト(wowshop)での番組関連グッズを販売や、一部の関連番組のファンクラブ運営との連携などを推進しています。

─番組を観るというところから一歩進んで、より掘り下げたコミュニケーションになってきているんですね。

放送やWOWOWメンバーズオンデマンド(WOWOWご加入者様限定の無料番組配信サービス)配信は重要と捉えています。一方で番組を「観る」というのは受動的な体験です。そこで視聴とあわせて、番組を愛するファンのお客様が関連イベントや、ロケ地を巡るような体験にふれることで、WOWOWに対する熱量はさらに高まると思うのです。
そういったお客様を見極め、それぞれの嗜好に合わせて適切なサービスを提案し、より楽しんでいただくために、顧客セグメンテーションによる定量的なアプローチをしたい。そのなかで、御社とPoC(Proof of Concept=概念実証)の実施に取り組みました。

サービス提供の効率アップには、セグメンテーションによる"熱量の定量化"が欠かせない

─より顧客の嗜好や購買意欲に合致したサービスの提供や、そのためのセグメンテーションの取り組みに至るまで、どのような課題があったのでしょうか?

グループ会社の新規事業としてショッピング機能自体は持っていたのですが、当初はWOWOW側とのID連携ができていませんでした。それが2018年に連携し、「視聴料以外の有料サービスもWOWOWのサービスの一つ」という位置づけが徐々に定まってきました。
しかし、いざお客様に有料サービスのご案内をしようとしたときに、それを望むお客様を的確に選定するだけの情報がまだ十分でなく、番組の嗜好属性や性・年代といった情報でしか対象を判別できていませんでした。
たとえば放送に対しては熱量が高いお客様でも、関連グッズやサービスに関しては全く興味がないというケースがあります。それを判断するためのデータがないことは大きな課題でした。

─その課題解決の手段が、顧客セグメンテーションだったのですね。

2、3年前から、顧客セグメントを使った"熱量の定量化"の推進を検討してきました。ご加入いただいている全世帯に対して、あらゆるサービスを一律でご案内することはお客様の体験価値を下げます。そこで対象の選定が必要になってきますが、定量的で明確な判断基準は、ご加入の年数ぐらいしか機能していませんでした。
しかし、たとえば「長期ご加入のお客様=有料サービスのご案内に適したお客様であるとは限らない」ということは肌で感じていました。どうやってお客様と向き合っていくべきかを考えたときに、顧客セグメントが浮かび上がってきたのです。
セグメントによって、お客様の状態やステータスに合わせた効果的なサービスの訴求が可能になると思っています。また、情報が溢れる昨今、関心のない情報を届けることは、お客様の心証を悪くし、ブランドを毀損します。「その情報を求めている方だけにお届けする」というのは、そういったリスクを防ぐ手段です。

株式会社WOWOW菊地将弘氏

ビデオリサーチとの取り組み─プライベートDMPとビデオリサーチの興味関心データ("3rd Partyデータ")の掛け合わせ

─今回、弊社が一緒に取り組ませていただきましたが、きっかけは何だったのでしょうか?

御社とは元々いろいろな調査でお付き合いさせていただいていたご縁、そして3rd Partyデータをお持ちであるという点、また調査会社様ですので分析やマーケティング面も期待し、御社にご助力を依頼しました。
具体的な内容は、「番組関連のワインを定期便でお届けする有料サービスに関連した、試飲イベントのご案内におけるお客様の選定」についてご相談しました。
たとえばテニス好きのお客様のなかにも、ワイン愛好家がいるかもしれませんよね。しかし弊社が持っているのはあくまで放送起点のプライベートDMPなので、「ワインをよく飲んでいる」といった類のデータは得られません。つまり、外部データと連携しない限り、お客様の行動把握には限界がありました。
「番組の視聴者は反応が良い」というのは実証済ですが、そもそも定量で把握できる母数が極めて少ない。そこで、御社がお持ちのデータを借りることにしたのです。
お客様を分類してクロスセルやアップセグメントを仕掛けるには、何に重点を置くべきなのか、ワインの購買とお客様のステータスを掛け合わせて、PoC(Proof of Concept; 概念実証実験)を実施しました。

─取り組みに当たって、重点的に話し合ったポイントがあればお聞かせください

興味関心データは多岐にわたるため、丁寧に検討していきました。
今までは視聴・ご加入の動機や、性・年代、居住地域が判断材料の中心でしたが、今回はワインと親和性のあるお客様を選定しました。
さまざまなご提案をいただきましたが、興味関心データの分析結果より、ワインとヨーロッパ好きとは親和性があることが分かりました。最終的に1,500名ほどに絞りました。この対象は、ご加入の動機は全く関係なく、これまでにない新しい切り口で抽出したセグメント層です。

─3rd Partyデータで「興味関心が高い」と判断された方ほど、イベント応募率も高いという結果が出たと伺っています。どれくらい差異があったのでしょうか?

非常に興味深い成果が得られました。比較検討のために無作為でも案内を送りましたが、メール開封率やクリック率、イベント応募数等、すべてのプロセスにおいて「3rd Partyデータで抽出したお客様」の反応が良かったのです。開封率では5%弱、クリック率で1%、応募率でも0.5%の差が出ています。開封したなかでの応募率でいうと、1.5%違いました。どのような角度で見ても、成果が如実に表れていたので、お客様に向き合うための新しい手段が確立できたと思っています。

メール反応率の比較

今までアプローチすることができなかったお客様が、このようなサービスに触れることで、熱量が上がる、つまりセグメントが一つ上がるような現象が起きることを期待しています。性・年代等のセグメントでは見落としてしまうお客様も、外部3rd Partyデータを用いることで効率的に捉えることができたので、セグメンテーション施策でさらに活用・連携できたらいいですね。

株式会社WOWOW菊地将弘氏

3rd Partyデータを活用することで、マーケティングの質が向上

─弊社との取り組みで得たノウハウ、例えばお客様の抽出の仕方などは、今後もさまざまな場面で活用できそうでしょうか?

もちろんです。もっと深く届けたいときには複数のセグメントを掛け合わせた形で抽出するなど可能性が広がりました。今回のワインのケースなら「ヨーロッパに興味がある」、「ワインが好き」、「オンデマンドで関連番組を視聴している」といった、複数の要素を掛け合わせて抽出すれば、さらに親和性が高くなります。たとえば、そうした特定の濃いお客様にアンバサダーとして活動していただくような試みにもつながるかもしれません。
趣味趣向を組み合わせて抽出されたお客様にアプローチするという手法は一つの武器になります。別ジャンルではどんな結果が出るのか、旅行の興味関心のデータを活用できないか...といったように、幅を広げながら事例を増やしていけたらと思っています。

─この取り組みによって実現できること、得られるメリットとは何でしょうか?

まず、ご案内対象の効果的な絞り込みが可能になり、無駄打ちやその情報を必要としないお客様に届けてしまうリスクが軽減されます。結果としてマーケティングの精度が上がると考えています。3rd Partyデータを活用することで目的と手段が是正され、弊社のマーケティング活動が非常に良い方向に向かっていると実感しています。

社内にセグメントの意義を浸透させていきたい

─今後の展望の一つとして、社内に広く浸透させることを目指しているとお聞きしました。

社内での推進にあたっては、"サービス"と"セグメント"という、2つの観点で意義があることを強調したいです。
我々は、放送だけでなく「WOWOWの会員になって良かった」と思っていただけるようなメリットを、どんどん生み出していきたいと考えています。セグメントを使えば施策の効果が見えやすくなりますし、御社のご助力によって新たに「外部データを取り入れる」ことが可能になりました。事例を増やし「自分も試してみよう」と社内で理解が広がれば、さらなるサービス開発にも取り組みやすくなるでしょう。
また、セグメンテーションの意義はターゲティングと効果検証の精度向上です。お客様によって嗜好番組やサービスは違います。ご案内でいえば「熱量の高いお客様にはニッチでより上質なもの」、「このお客様には気づきとしてビッグコンテンツ」といった工夫が必要です。これらをセグメンテーションによって実現できるというのは、大きなメリットです。

株式会社WOWOW菊地将弘氏

今後の展望とビデオリサーチへの期待─セグメントを統一指標として、次なる飛躍へ

─セグメントによって、これまで御社が抱えていた課題を解決するための活路が見え、新しいフェーズへと移行していくようですね。

DMPのデータを活用しながら、WOWOW独自のセグメントが今できつつあります。すべての把握はしきれませんが、良い土台になればと思っています。
2年ほど前から「ジャンルのファンはいるけど、"WOWOWファン"はいるか」という問いのもと、いわゆる"ロイヤルカスタマー"の可視化に定性的な角度から取り組んできました。そういった思想や施策の成果も織り込み、現在は"セグメントによる一元化"を目指しています。
セグメンテーションによって、お客様の動態を把握し、それぞれの層に対する次の打つ手が見えてきています。お客様の関与度を高めていけるという良い循環が生まれそうです。

─セグメントも「作って終わり」ではなく、その時の課題に対応すべく改善していくことが必要だと感じていますが、今後ビデオリサーチに期待することがあれば、ぜひお聞かせください。

セグメントを用いてスポットの分析案件を進めていくなかで、どうしても社内だけだと視野が狭くなります。運用自体が安定してきたら御社からもアイデアをどんどんご提案いただけると嬉しいですね。ご一緒している取り組みをより一層盛り上げていけるのではないかと思います。今後も外部のお力も積極的に借りながら、弊社マーケティング局主導で各種サービスの開発・改善等々、発信していく必要があると感じています。

─お互いに意見交換をしながら、常に"より良いもの"を目指して歩んでいけたらと思います。本日はありがとうございました。

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