第3部 民放ラジオ局が全国で開局。積極的な事業展開 1980-90

1979年、当社はラジオ聴取率調査に本格進出し、並行してオンライン・データバンク・サービスの開発をスタート。1983年には、テレビの録画番組の視聴率を調べる世界初の「VTRセンサー」を完成させ、1985年には「線引きの自動清書化システム」CASSの導入を発表。地上波テレビ局初の24時間放送が開始した1987年には、VRホームスキャン事業も開始しました。視聴率調査事業では、1980年代を通して全国カバーに向けた調査の拡充を進めていきました。
「いま、ラジオは… ー首都圏ラジオ調査からみた聴取像ー1981・6」

「新・首都圏ラジオ調査」を開始

1979-1990

当社のテレビ視聴率調査は、全国主要地区カバーとオンライン化で、ほぼ基盤固めを終えつつありました。一方、ラジオ聴取率調査は、AM局と電通が主体となって「首都圏ラジオ調査」として取り組み、当社はフィールドワークを受け持つのみで、地方も受託方式で行うレベルにとどまっている状況でした。

しかし、広告媒体としてのラジオの役割は、決して小さくはありません。
広告主から「ラジオでも客観的で精度が高い調査が必要」との要望が強かったうえ、データ的には、テレビ視聴率と比較しても、特定層では、ラジオ聴取率のほうが高い場合もありました。こういった背景から、当社は1979年5月から首都圏ラジオ聴取率調査を電通から引き継ぎ、自主調査化することで、ラジオ局からも一応の了解を取り付けました。調査を進めるにあたっては、局側の意向を十分反映させることが必要な状況が続き、調整のために時間と労力を要しました。

ラジオ聴取率調査企画書

さらに、FM第2局目(J-WAVE)開局とともに、FM局を加えた調査への期待が大きく高まったため、当社はラジオ調査実行委員会を発足(1989年9月)し、1989年12月に実験調査を実施。ラジオ局の意見も取り入れつつ検討を進め、調査の基本設計を確立していきました。

AM・FMの調査を一元化し、さらに、調査頻度を年4回から6回、1回あたりの調査を1週間から2週間へ拡大しました。
併せて、リスナープロフィールがわかる調査項目を追加して、「新・首都圏ラジオ調査」を1990年4月に開始しました。

ラジオ聴取率調査企画書
ACOS-850モニター

オンライン・データバンク・サービスの開始

1979-1981

大量の情報をコンピュータに記憶させ、利用者に提供するサービス(データバンク・サービス)としては当時、アメリカのダウ・ジョーンズ(経済情報)、ニューヨーク・タイムズ(新聞記事)、NLM(National Library of Medicine、米国立医学図書館)などが著名で、日本でも日本経済新聞社のNEEDS(Nikkei Economic Electronic Databank Service)が定評を得つつありました。

当社も、視聴率やテレビ番組・CMなどの膨大な蓄積情報を活かした情報サービスを展開することを目指し、1979年10月、データバンク・サービス開発プロジェクトを発足させました。
当初構想していたデータ取得の仕組みは、電電公社の通信回線を通して、当社のホストコンピュータACOS-700(後ACOS-800)とユーザー側に設置される端末機TOSBAC・DP/6を結び、コンピュータとソフトウェアを共同利用するというもの。これにより、コンピュータの利用経験がない人も、端末機のディスプレイを介してコンピュータと対話しながら手軽に操作でき、必要な時に必要なデータの検索や集計分析を行い、結果を端末側のプリンタでプリントアウトできるというサービスを描いていたのです。
従来、当社の事業はデータおよび分析結果を提供することに特化したものであり、まったく未知の領域であるデータバンク事業は、プロジェクトチームのメンバーを日夜悩ませました。
しかし、放送会社・広告会社・広告主のいずれにおいても、この種のサービスに対する要望は非常に高く、その期待に応えたいという気持ちがメンバーを突き動かしました。

データバンク用TOSBAC-DP/6 火入れ式

オンライン・データバンク・サービスが正式にスタート

計画よりやや遅れたものの、1981年1月6日、東京本社5階に設置されたTOSBAC・DP/6が稼働し、オンライン・データバンク・サービスが正式にスタート。当初のサービス内容は関東・関西両地区視聴率の「日報配信」、ビデオリサーチ自主調査8地区(関東、関西、名古屋、北部九州、札幌、仙台、広島、静岡)の「テレビ・スポット効果測定」で、同年春には「テレビ・ラジオ広告統計」「番組評価分析」が加わりました。
同サービスでは、ACRデータ(マスコミ4媒体・商品・生活者意識などのデータ)の取得から、メディアミックス結果のシミュレート、商品からみたターゲット・プロフィールの想定、ターゲットからみた商品像の把握、媒体効率計算などが可能となりました。

データバンク用TOSBAC-DP/6 火入れ式
左から、グループインタビュー専用施設「Circle’85」、ホールテストキーパッド、テストキッチン「Green Apple」、電話調査(イメージ)

調査設備・技術を強化

1982-1985

当社では、早急に結果が欲しいマーケティング調査やタイムリーな世論調査などにおいて電話調査を実施していましたが、調査員が記入した結果を集計・分析するプロセスにどうしても時間がかかるのが難点でした。

効率化を図った電話調査の機械化

VTS火入れ式

それを効率化するために開発されたのが、電子計算機を活用した業務効率化のシステム「VTS(VR Telephone Interviewing System)」です。
VTSは、調査員がコンピュータ端末の前で電話による調査を行い、結果をその場で入力すると、データが自動集計されていくシステムです。1982年2月に電話調査機械化計画プロジェクト準備委員会を設け、同年9月に稼働を開始。これまでの電話調査のノウハウや、実際の使いやすさなども検証しながらシステムや端末画面が設計されました。
ハード面では、広告統計を一手に担うために1969年に設立された子会社、株式会社大阪ブイ・アール・サービス(現株式会社ビデオリサーチコミュニケーションズ)内にテレフォンルームを新たに設けました。
その後、調査・処理プロセスの効率化・スピード化を図りつつ、調査精度を上げるための改善を加えながら、1990年11月、新たに「VR TELEPHONIC CENTER」を開設・始動。サンプリングの自動化とオートコール化を実現しました。

VTS火入れ式

グループ・インタビュー、ホールテストの専用設備を開設

グループインタビュー専用施設「Circle’85」

市場調査の成熟化に伴い、マーケティングでは生活者を「マス」から「個」として捉えるべきとの考えが強くなり、「個」へのアプローチが重要となっていました。その流れを受けて、1985年2月、時代に対応した新しい調査を生み出すため、本社6階にグループ・インタビュー専用施設「Circle'85」を開設。グループ・インタビュー調査を行うための専用施設で、当時としては最新鋭の機能を備えました。それまでは、会議室やレンタル会場で行っていましたが、より細かく生活者の声を聴く調査の需要は年々増加傾向にあったため、専用施設の開設に踏み切りました。同年5月には「ホールテストルーム」を開設。同ルームで使われるホールテストシステムのセールスポイントは、CMの印象の良し悪しをリアルに測定できる「興味反応測定」です。キーパッド入力により、データ収集と集計作業の大幅な省力化と効率化をもたらしました。同年11月にはテストキッチン「Green Apple」を開設。日本の調査会社では前例のない試みで、本格的な調理設備により、各種商品をその場で調理・試食調査の実施が可能となりました(1991年営業終了)。

グループインタビュー専用施設「Circle’85」
スポット自動線引きシステムCASS(写真はTP CASS)

ビデオ時代への対応と、CASSの開発

1983

1970年代半ばになると、家庭用ビデオテープレコーダー(以下VTR)が登場しました。当社ではこの「録画率をどう捉えるか」が大きな問題として浮上。なぜなら、従来の視聴率はリアルタイムでの視聴が対象で、録画の記録はできなかったからです。また、この時点ではVTRに対応したチャンネル検知システムは世界に存在しておらず、技術開発には困難が付きまといました。それでも、試行錯誤を重ねた結果、1983年、ついに世界初の「VTRセンサー」が完成しました。

「ホームビデオの録画率・再生率」レポート発刊

ホームビデオ録画率・再生率報告書

1985年にVTRセンサーによる「ホームビデオの録画率・再生率」の報告書を発行すると、多くの反響を呼び、マスコミ各社の報道では「裏の視聴率がわかる」「目立ってはいないが、どんなものに人気があるのかわかる」と好意的な言葉が飛び交いました。

ホームビデオ録画率・再生率報告書

業界の業務合理化に貢献―CASSの開発

1985年、当社は広告業界大手の電通、博報堂の両社と協議を重ね、テレビスポット用のタイムテーブルについて、連名にて「線引きの自動清書化システム」の導入を発表しました。その背景には、広告主がテレビのスポットCMに出稿する際、各テレビ局が独自に作成した番組編成表(番組タイムテーブル)に、広告会社がCM出稿予定を一つずつ手書きで書き込み、広告主に提供していた慣習がありました。1本のCMに対し1本の赤い線を手書きで入れ、テレビ局・広告代理店・広告主が確認した上でCMの放映時間を確定させるため、膨大な時間と労力がかかります。さらには、手書きによるミスの多発など問題となっていたのです。
これを解決するために生まれたのが、当社の開発した「スポットタイムテーブル自動線引きシステム」CASS(Computer Aided Spot planning System)でした。このシステムは、業界の業務効率化に大きく貢献するものとなりました。

視聴率調査のオンライン化拡大

視聴率調査事業においては、1980年代を通して全国カバーに向けた調査を推進。基幹7地区においては、家庭内の複数テレビ調査とオンライン化を進めていました。
また、1986年に名古屋でのオンライン調査が開始したことを受け、関東・関西・名古屋の主要3都市で調査体制を確立させると、以後も毎年オンライン調査の範囲を拡げ、1991年に基幹7地区(関東・関西・名古屋・北部九州・札幌・仙台・広島)でのオンライン化を完了。その他の地域についても精力的に機械式調査を実施し、視聴率速報の提供を進めていきました。

ホームスキャンシステムとオンラインメータ

新たな試みVRホームスキャンの開始

1987

第2代社長の波田野静治、第3代社長の石川正信はともに、当社がもつ調査基盤・手法・技術をもとにした新たな事業展開を志向しており、80年代には徐々にそれが具体的なかたちとなっていきました。

世帯の視聴・購買行動をオンラインでとらえる壮大な事業

ホームスキャンシステム操作風景

長期経営計画の大きな柱として注目されていたのが、1987年4月に営業を開始したVRホームスキャンでした。
石川社長が、「これは今後当社の市場調査分野の基盤を支えていく大きなプロジェクトである」(1986年5月 社内報)と語ったこの事業は、当社ならではのオンライン視聴率調査技術を活かせる、これまでにない自主マーケティング調査事業でした。
1日(後には時間まで)ごとに販売品目・数量がわかる「POS(Point Of Sales=販売時点情報管理)」の登場は、広告の効果をよりきめ細かく判断できることを意味していました。広告の投下量・投下媒体・投下時間などと販売量を照合して蓄積していけば、製品ごとの最適な広告戦略がパターン化できることが見込まれたのです。

VRホームスキャンでは、これらの情報と、調査家庭のテレビCM視聴および購買状況を、ワンセットで毎日集計することが可能。さらに、商品購入の重要な動機となる新聞折り込み広告や、天候や気温、エリア内イベントと主要店舗内でのセールスプロモーションなどの情報も別途収集され、集計された購買状況の結果と組み合わせて、より実用的なデータの収集が現実的なものとなりました。
1986年5月には、VRホームスキャンシステム実行委員会が組織され、同年12月にテスト稼働を開始。1987年4月には本番調査がスタートし、“壮大な実験”ともいうべきホームスキャン事業が始まりました。

それに続く新規事業として、ダイレクト・マーケティング事業、クーポン事業(ともに1987年)を順次スタートさせました。

ホームスキャンシステム操作風景